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第一章
両手で救える人2
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山賊の拠点の位置はすでに把握している。
道を通っていけば山賊に見つかってしまうので道から逸れた山林の中を通っていく。
作戦としてはシンプルな奇襲を行うつもりだった。
山賊は山の中腹を拠点としていて、隣の国に繋がっている山間の道を中心に通行料を取り立てていた。
基本的に警戒しているのは山間の道の方向であり、道とは逆の方向はあまり警戒していない。
バレないように少し遠回りになるので進行速度を調整して2日で着くように移動をする。
慣れない獣道を通っていくがそもそも緩やかな移動速度での移動なのでそれほど苦労はなかった。
1日かけて移動してきて野営する。
「毎回思うのですがそれどうなっているのですか?」
普通顔を覆い隠すヘルムを付けたままでは食事は出来ない。
しかしテシアはヘルムを付けたまま食事をしている。
よく見ると口のところが開いている。
「これは特別製でね。口のところが開くようになっているんだ」
テシアが口元に手をやるとカチリと音がして口が隠されてしまう。
そしてまた口元に手をやるとまたカチリと音がして口元が少し開かれる。
食事中に相手をじっと見ることもしない。
あまり目立たない口元がそうなっているのかとキリアンは感心する。
「……」
「なんだ?」
「テシアさん口元綺麗ですね」
「……な、なにを!」
「あっ、いえすいません! つい思ったことを……」
何を無言で見つめているのだと思ったらキリアンは思ったことをそのまま口にしてしまっていた。
なぜなのか少ししか見えない口元がやたらと妖艶で、綺麗だと思った。
一瞬キリアンはテシアが男性であるということを忘れて変に褒めてしまったことに顔を赤くする。
テシアも慌ててヘルムの口元を閉じて、それでも恥ずかしくて手でヘルムの口元を覆って隠した。
ヘルムの中でテシアは顔を赤くしていた。
不意打ちの褒め言葉。
なんの意図もない、ただの褒め言葉。
テシアを女性としてではなくただの1人の人として口を出た褒め言葉に耳が熱くなってテシアは困惑していた。
「テシア様も褒められると嬉しいのですね」
顔を赤くしているのはキリアンも同じ。
どうして男性相手にあんなことを口走ってしまったのかとキリアン自身も困惑していた。
キリアンは頭を冷やしてくると離れていった。
「そりゃあまあ、僕だって……」
褒められて悪い気はしない。
そこに透けて見える下心がなければ褒められて喜ぶぐらいのことはする。
ヘルムを押し付けるようにして耳の熱を取る。
不意に言われたから動揺しただけ。
そう言い聞かせてテシアは自分を落ち着かせようとする。
「あの人、天然でヤバそうですね」
女性が苦手と言っていたので女性に何かされたのかもしれないとハニアスは思う。
だがあんな風にストレートに口に出して相手のことを褒めちゃうと勘違いする人もいるだろう。
悪気もなさそうだしウソをついている感じもない。
何かしら相手を大きく勘違いさせた挙句に苦手になるようなことがあった。
推測にしか過ぎないがあり得ない話でもない。
「大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫……」
ヘルムをしているから顔はわからないけど少しばかり声の低さが足りないなとハニアスには感じられた。
周りに聞いている人はいないから大丈夫だろうとは思うけどこれ以上声をかけることはやめておいた。
ーーーーー
さらに1日移動をして山賊の拠点の近くまでやってきた。
相手に勘付かれないような距離を取ってゆっくりと休み、朝早くから動き出す。
少し気温が低く冷えて朝霧がかかる中でテシアたちは盗賊の拠点に迫った。
いくつか粗末な家が建てられていて、周りには丸太の先を尖らせたスパイク柵が置いてある。
人の侵入を防ぐものではなく、野生動物の侵入を防ぐものである。
しっかりと偵察も行ったが見張りすら立てていない。
近くの村などから人質を取るような山賊もいるがこの山賊はそうした人質もいないことは事前調査で分かっている。
「ふわっ……な、むぐっ、グッ!」
柵を越えて中に入る。
家の中の様子をうかがおうとしたらたまたま出てきた山賊がいた。
ジャミルが慌てて山賊の口を塞ぎながら引きずり倒し、仲間が剣で胸を突き刺した。
「ふぅ……」
「誰だお前ら! 敵だ! 敵襲だー! うっ……!」
一安心、と思った瞬間他の家からも山賊が出てきた。
胸から血を流している山賊の姿を見て大きく叫ぶ。
「くそッ!」
ジャミルが素早く山賊を切り倒したがもう遅い。
「寝ぼけている間にできるだけ片付けるぞ!」
ジャミルは近くにあった家の中に飛び込んだ。
相手は寝起きで動きが鈍い。
完全に起きてしまう前に倒していくつもりなのである。
「テシアさんとハニアスさんは俺の後ろに」
剣を抜いたキリアンが2人の前に出る。
大事な神官なのでちゃんと守らねばならない。
「じゃあお言葉に甘えて」
テシアも剣は抜くが今の役割は神官なので積極的に前に出ることはしない。
見た感じ山賊の質は低い。
訓練された兵士なら寝起きだろうとすぐに動けるものだが、山賊たちはまだ状況の把握すらできていない。
目を覚ましたような山賊も傭兵をやっているジャミルたちに倒されていく。
道を通っていけば山賊に見つかってしまうので道から逸れた山林の中を通っていく。
作戦としてはシンプルな奇襲を行うつもりだった。
山賊は山の中腹を拠点としていて、隣の国に繋がっている山間の道を中心に通行料を取り立てていた。
基本的に警戒しているのは山間の道の方向であり、道とは逆の方向はあまり警戒していない。
バレないように少し遠回りになるので進行速度を調整して2日で着くように移動をする。
慣れない獣道を通っていくがそもそも緩やかな移動速度での移動なのでそれほど苦労はなかった。
1日かけて移動してきて野営する。
「毎回思うのですがそれどうなっているのですか?」
普通顔を覆い隠すヘルムを付けたままでは食事は出来ない。
しかしテシアはヘルムを付けたまま食事をしている。
よく見ると口のところが開いている。
「これは特別製でね。口のところが開くようになっているんだ」
テシアが口元に手をやるとカチリと音がして口が隠されてしまう。
そしてまた口元に手をやるとまたカチリと音がして口元が少し開かれる。
食事中に相手をじっと見ることもしない。
あまり目立たない口元がそうなっているのかとキリアンは感心する。
「……」
「なんだ?」
「テシアさん口元綺麗ですね」
「……な、なにを!」
「あっ、いえすいません! つい思ったことを……」
何を無言で見つめているのだと思ったらキリアンは思ったことをそのまま口にしてしまっていた。
なぜなのか少ししか見えない口元がやたらと妖艶で、綺麗だと思った。
一瞬キリアンはテシアが男性であるということを忘れて変に褒めてしまったことに顔を赤くする。
テシアも慌ててヘルムの口元を閉じて、それでも恥ずかしくて手でヘルムの口元を覆って隠した。
ヘルムの中でテシアは顔を赤くしていた。
不意打ちの褒め言葉。
なんの意図もない、ただの褒め言葉。
テシアを女性としてではなくただの1人の人として口を出た褒め言葉に耳が熱くなってテシアは困惑していた。
「テシア様も褒められると嬉しいのですね」
顔を赤くしているのはキリアンも同じ。
どうして男性相手にあんなことを口走ってしまったのかとキリアン自身も困惑していた。
キリアンは頭を冷やしてくると離れていった。
「そりゃあまあ、僕だって……」
褒められて悪い気はしない。
そこに透けて見える下心がなければ褒められて喜ぶぐらいのことはする。
ヘルムを押し付けるようにして耳の熱を取る。
不意に言われたから動揺しただけ。
そう言い聞かせてテシアは自分を落ち着かせようとする。
「あの人、天然でヤバそうですね」
女性が苦手と言っていたので女性に何かされたのかもしれないとハニアスは思う。
だがあんな風にストレートに口に出して相手のことを褒めちゃうと勘違いする人もいるだろう。
悪気もなさそうだしウソをついている感じもない。
何かしら相手を大きく勘違いさせた挙句に苦手になるようなことがあった。
推測にしか過ぎないがあり得ない話でもない。
「大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫……」
ヘルムをしているから顔はわからないけど少しばかり声の低さが足りないなとハニアスには感じられた。
周りに聞いている人はいないから大丈夫だろうとは思うけどこれ以上声をかけることはやめておいた。
ーーーーー
さらに1日移動をして山賊の拠点の近くまでやってきた。
相手に勘付かれないような距離を取ってゆっくりと休み、朝早くから動き出す。
少し気温が低く冷えて朝霧がかかる中でテシアたちは盗賊の拠点に迫った。
いくつか粗末な家が建てられていて、周りには丸太の先を尖らせたスパイク柵が置いてある。
人の侵入を防ぐものではなく、野生動物の侵入を防ぐものである。
しっかりと偵察も行ったが見張りすら立てていない。
近くの村などから人質を取るような山賊もいるがこの山賊はそうした人質もいないことは事前調査で分かっている。
「ふわっ……な、むぐっ、グッ!」
柵を越えて中に入る。
家の中の様子をうかがおうとしたらたまたま出てきた山賊がいた。
ジャミルが慌てて山賊の口を塞ぎながら引きずり倒し、仲間が剣で胸を突き刺した。
「ふぅ……」
「誰だお前ら! 敵だ! 敵襲だー! うっ……!」
一安心、と思った瞬間他の家からも山賊が出てきた。
胸から血を流している山賊の姿を見て大きく叫ぶ。
「くそッ!」
ジャミルが素早く山賊を切り倒したがもう遅い。
「寝ぼけている間にできるだけ片付けるぞ!」
ジャミルは近くにあった家の中に飛び込んだ。
相手は寝起きで動きが鈍い。
完全に起きてしまう前に倒していくつもりなのである。
「テシアさんとハニアスさんは俺の後ろに」
剣を抜いたキリアンが2人の前に出る。
大事な神官なのでちゃんと守らねばならない。
「じゃあお言葉に甘えて」
テシアも剣は抜くが今の役割は神官なので積極的に前に出ることはしない。
見た感じ山賊の質は低い。
訓練された兵士なら寝起きだろうとすぐに動けるものだが、山賊たちはまだ状況の把握すらできていない。
目を覚ましたような山賊も傭兵をやっているジャミルたちに倒されていく。
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