悪役皇女の巡礼活動 ~断罪されたので世直しの旅に出ます~

犬型大

文字の大きさ
30 / 51
第一章

両手で救える人4

しおりを挟む
「ど、どうかお助けください!」

 ジャミルからテシアが処分を決めると聞いていた若い山賊たちはテシアに向かって頭を下げて助命を懇願した。

「口減らしとはどういうことですか?」

「ジャミル卿は御貴族出身ですか?」

「卿などとお呼びになるのはやめてください。私は田舎領主の五男坊でした。貴族とも呼べるか怪しい家でしたよ」

「ではジャミルさんと。五男坊……少しは彼らの気持ちも分かるかもしれないね」

 テシアは若い山賊たちの境遇を押しはかる。

「どこの村でも人手は不足しがちだ。だから多くの子供を産んで小さい頃から手伝わせてそれをカバーする。しかし子供が大きくなって家を継ぐようになると家を継げない子供たちは出ていくしかなくなるのさ」

 産んだ子供たち全員が満足に生きていけるような大きさの畑など基本的にはありはしない。
 そうするとある程度大きくなった子供は村を出て仕事を探さねばならないのだ。

「多少事情は違うけれど御貴族の家でも同じ。当主になれるのは長兄で他の兄弟は家を手伝うか、出て行って自ら身を立てるかだ」

「それならなんとなく話は分かります」

 ジャミルも傭兵なんて仕事をやっているのだ。
 家から飛び出していかねばならない気持ちがいくらか理解はできた。

 この若い山賊たちも望んで山賊をやっているようには見えない。
 おそらく近くの村かなんかから出てきたはいいが仕事も見つからず、仕方なく山賊に身を寄せたのだ。

 山賊としては子供でもなんでも言うことを聞くのは都合がよかった。
 人が増えて雑用なんかも多くなったのでそうしたことを押し付けられる相手として受け入れたのである。

 まともに剣も握ったことがない雑用の少年たちということだ。
 そう説明されると若い山賊たちに同情するような気持ちも出てくる。

 だからといってどうするのだとジャミルは思う。
 数人とはいえ人は人。

 容易く養えるものでもない。
 傭兵にしようにも体つきは細く、とてもじゃないが腕っ節で生きていけそうにも見えない。

「顔を上げるんだ」

 テシアは膝をついて若い山賊たちと視線の高さを合わせる。

「君たちの境遇は理解する。君たちにはまだやり直すチャンスがある。僕が君たちに提案してあげられる選択肢は三つだ」

 テシアは三本の指を立てた。

「一つ目はこのまま自由になるという選択肢。どこへでも行くといい。逃がしてあげよう」

 一つ目は自由にするという選択肢。
 山賊に所属をしていたがそれほど悪に手を染めていないのなら今ここで討伐してしまうこともない。

 自力で生きていけると自信があるのだったらここで逃してもいい。

「二つ目は神に仕えるという選択肢。僕が責任を持って教会に君たちを紹介しよう。山賊という道を選んだことを悔い改めて、清く正しい道を行くんだ」

 二つ目は神官として教会に身を寄せるという選択肢。
 教会では孤児などを受け入れるシステムもあるし、真面目に神を信奉して生きるというのであれば神官として生きていくこともできる。

 そのためにテシアはある程度の責任を負うつもりもある。

「そして三つ目の選択肢は商会の手伝いを僕が斡旋してあげるという選択肢だ」

「商会の手伝い……ですか?」

「そうだ。僕はビノシ商会ってところに知り合いがいてね。君たちが望むならそこで働けるようにしてあげる。ただしこちらも教会と同じように真剣に働かねばいけないけどね」

 三つ目はビノシ商会で働くという選択肢。
 ビノシ商会の本当の持ち主であるテシアが言えば若い山賊たちを雇うことなど難しいことではない。

 もちろんこちらは慈善事業ではないので本気で働かねば厳しいが、やる気があるというのだとしたらまともに生きていくことができる。
 もし何かやりたいことがあるのだとしたらお金を貯めて独立することだってできるだろう。

「僕が君たちにしてやれることはこれだけだ」

 これだけというがその三つの選択肢だけでもかなり大きなものだとジャミルは思った。
 なんのツテもなく腕っ節一つだったジャミルは戦うしか道がなかった。

 けれどテシアのした提案は上手くやれればさらに将来の選択肢が広がるものまである。
 教会に誘うのだって簡単なことでもない。

 神官といえど人なので責任を負いたがらないような者も多くいる中で、テシアは自分で責任を負ってまで受け入れようとしている。
 これが本当の聖職者というものなのかと感動を覚えずにはいられない。

「人生の選択は待ってくれない。今、決めるんだ」

 どのような提案を選んでも彼らの選択を尊重しようとテシアは思っていた。
 困ったように顔を見合わせる若い山賊たち。

「僕は……」

 その中で1番年上に見える子が決心したような目をして口を開いた。

 ーーーーー

「手間をかけてすまないね」

「いえ! こうしたこともまた黒いコインの貴人の行いなのだと私は感動しています!」

 山賊の討伐が終わって討伐隊は町に戻ってきた。
 一人だけ自由になるという選択をした子がいたけれどそれ以外の子たちは教会か商会かを選んだ。

 テシアは早速連れ帰った子たちをビノシ商会に連れていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

スラム出身の“偽聖女”は、傷ついた第二王子と政略結婚しました。〜本当の私は、王に滅ぼされた最強名家の生き残りです!~

紅葉山参
恋愛
二十年に一度、王国で行われる“聖女選定の儀”。 歴代の聖女はすべて名門貴族の令嬢──その常識が崩れた。 儀式の最後に放たれた白羽の矢は突風にさらわれ、広場ではなくスラムのボロ小屋へと落ちる。 矢が示した少女 イレネス・リファール は、拒めば「スラムを潰す」と脅され、強制的に王宮へ。 しかし待っていたのは、貴族たちの冷笑と侮辱。「平民が聖女候補?」「王宮を汚すのか」と、心を削る仕打ちばかりだった。 それでもイレネスは決して折れない。 ──スラムの仲間たちに、少しでも良い暮らしを届けたい その願いだけを胸に、神殿での洗礼に臨む。 そこで授かったのは、貴族の血にのみ現れるはずの“癒しの魔法”。 イレネスは、その力で戦で重傷を負った第二王子 ダニエル・デューイッヒ を救い、彼は彼女の才と誠実さに心を動かされる。 結婚相手を探していたダニエルだが、現国王は嫌味たっぷりに「平民上がりの聖女でも娶ればよい」と突き放す。 しかしダニエルはあえてその提案を受け入れ、イレネスに結婚を申し込む。 イレネスは条件として── 「スラムに住む人々へ、仕事と安心して暮らせる住まいを」 ──それを求め、二人は政略結婚を結ぶ。 はじめは利害だけの結婚だった。 だが共同生活と幾つもの困難を乗り越えるうち、二人は互いを強く意識し始める。 しかし王宮では、イレネスを嫌う王妃派聖女候補の嫌がらせが苛烈になり、国王はダニエルをなぜか執拗に遠ざける。 そんな中、ダニエルはひそかに調査を命じる。 魔法は貴族の血だけが受け継ぐはず── なのに、イレネスは強大な癒しの力を持つ。 そして明らかになる、衝撃の真実。 ──イレネス・リファールは、かつて国王に陥れられ滅ぼされた名門リファール家の“唯一の生き残り”だった。 なぜ国王はリファール家を潰したのか? なぜ白羽の矢は彼女を示したのか? そして二人は、不正と陰謀渦巻く王宮で何を選び、何を守るのか──。 “スラム出の偽聖女”と蔑まれた少女が、 やがて王国の闇を暴き、真の聖女として輝くまでの 愛と逆転とざまぁの物語が、いま動き出す。 はず……

追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
恋愛
 婚約者である王太子からの突然の断罪!  それは自分の婚約者を奪おうとする義妹に嫉妬してイジメをしていたエステルを糾弾するものだった。  しかしこれは義妹に仕組まれた罠であったのだ。  味方のいないエステルは理不尽にも王城の敷地の端にある粗末な離れへと幽閉される。 「あぁ……。私は一生涯ここから出ることは叶わず、この場所で独り朽ち果ててしまうのね」  エステルは絶望の中で高い塀からのぞく狭い空を見上げた。  そこでの生活も数ヵ月が経って落ち着いてきた頃に突然の来訪者が。 「お姉様。ここから出してさし上げましょうか? そのかわり……」  義妹はエステルに悪魔の様な契約を押し付けようとしてくるのであった。

王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...