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第一章

悪夢にうなされて2

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 一方で才能がある方を後継者にしてしまうこともある。
 長兄の食い扶持を確保して納得してもらうことで引き下がってもらったりすることがあるのである。

 ただどのような方法を取ろうとしても家臣や本人の意思というのも大切である。
 もしそれぞれの意思がぶつかり合った時に血を見る争いに発展することもあるのだ。

 特にキリアンの場合は腹違いだと言った。
 余計に問題になりやすい要素を孕んでいる。

「多くの家臣たちが俺が上に立つことを望みました。しかし兄の母は兄が後継者となることを譲りませんでした」

「どうしてそんなに?」

「……俺の母と兄の母は仲も良くありませんでした。父の愛も権力も……何もかも失うことが怖かったのかもしれません。そんな時に事件が起きたのです」

 キリアンは目を閉じてゆっくりと息を吸い込んだ。
 まるでおぞましいことでも口にするかのように勇気を振り絞っている風に見えた。

「兄が暗殺されたのです」

 思わぬ展開にテシアも焚き火に枝を投げ込もうとする手が止まった。

「暗殺? そんなことまで……」

「その時まだ俺も若く、事の経緯は細かく教えてはもらえませんでした。先走った家臣の暴挙で起きた事だと言われていました。しかし兄の母の怒りの矛先は俺に向きました」

 目をつぶるとその時のことが今でも鮮明に思い浮かぶ。
 兄の母親の振り乱した髪、血走った目、頬を伝う涙は枯れることがなく流れ続けていた。

 キリアンの首を絞めながらお前のせいだと叫ぶ姿は決して忘れられず、今でも時折夢に出てキリアンはうなされるのだ。

「そこから女性が苦手になったんです。兄の母の姿が頭をかすめるから……そうしているうちに俺に近づこうと無理なことをする女性まで出てきて、より苦手になってしまったのです」

 首を絞められて死にかけたキリアンだったがなんとか周りに助けられて無事だった。
 しかし受けた心の傷は深かったのである。

 さらにそうして女性を避けているうちに後継者となったキリアンに近づこうと手段を選ばない人まで出てきた。
 そのせいでさらにトラウマがひどくなった。

「実はハニアスさんでギリギリです。テシアさんがいなかったら俺は恩返しといえどついてこれなかったかもしれません」

「なるほどね」

 過去に何かがあると思っていたけれど、思っていたよりも複雑な事情を抱えている。

「その家はいいのか? 君は後継者なんだろ?」

 家を継がねばならないのならこんなところで旅をしている場合ではないのでは。
 当然の疑問である。

「その通りなのですが俺にはやらねばならないことがあるんです」

「善きこと……かい?」

「そうです。善きことをして……そしていつかは家に帰らなきゃいけないのです」

 どうやら今話してくれただけじゃ足りない何かがまだあるのだなと思ったがテシアはただ無言で焚き火に枝を足した。

「聞いていただいてありがとうございます。この話を誰かにしたのは初めてです」

 どうして善きことをするのかそれにはキリアンは触れようとしなかった。

「じゃあ番は任せるよ」

 どうしても眠れなさそうだというので焚き火の番はキリアンに任せてテシアは寝ることにした。
 テントの中に入っていくテシア。

 よく男女で同じテントで寝るなと思うと同時に自分はハニアスとは共に同じテントの中にいることは耐えられないなとも思う。

「善きことは、善き人に繋がる……善き人は、俺を、そして国を……」
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