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うつし穢
しおりを挟む「目が覚めましたかな」
低い男の声がした。玉に閉じ込められたそれは身動きが取れないことを悟り、憤りに睨みをきかせる。……しかし何も起きない。瞠目するそれに袈裟姿の坊主が言葉をかけた。硝子に閉じ入れた弟の眼球へ、ひいてはそこへ封じられた怪異へと。
「うちは代々坊主をやっていまして。ここは山二つ越えた我が家、うちの本堂です。ここで力は使えませんよ」
『なんだ貴様……名を名乗れ』
「すごいな。その状態でも会話できるのか……。俺は静。あなたが手篭めにした男の兄です。貴方を封印した弟の目をくり抜いてその状態にしたのも、俺ですね」
男の口調は淡々としたものだった。感情の凪は一切感じさせない声で、瓶詰めの目玉に対峙している。開け放された本堂には涼しい風が吹き込んでいた。板間の床に安置された目玉を見下ろして、坊主は問いかける。蝶が数匹、日光を避けて本堂へと迷い込んできていた。
「聞きますが、封印される気はありますか」
正座でこちらを見つめる男の手元には一振りの金槌があった。
『…………慇懃無礼が過ぎるんじゃないか』
「こちらも必死ですので。丁重には扱いますとも、祟り神のもどきであれ、神様は神様ですからね。……弟は今伏せっています。修行もしたことがない素人の癖に出過ぎた真似をして。祓うのではなく封印したいと言って聞かないんですよ。馬鹿なことを、俺もあいつを見誤りました……。何を視たのかはわかりませんが、このままでは弟は死にます。しかし封じられる貴方自身が手伝ってくれれば命は助かる。嫌なら嫌で構わないんですよ。今ならあの子も、まだ片目を失うだけで済む」
男の声は静かではあったが、確かな怒気を孕んでいた。捲し立てられて緋猿も勢いが出ない。どうやら今依っている肉はあの童の目玉であり、すぐにでも体へ戻って穢れを散らしてやらなければならない状態のようだ。断れば目玉ごと潰される。ひとところに縛られる謎真っ平ごめんだった緋猿は、慌てて交渉を試みた。
『いいのか?可愛い弟さんの目だろうに。なああんた、儂を解放するようあの餓鬼説得してくれんかね。そっちの方が早いだろう?』
「答えてください」
『……話を聞いてたか?目玉を返してやれると言って、』
「答えてください」
『…………あの』
「答えろ」
坊主の影が焔のようにうねりをあげて床へと伸びた。逆光で静の表情はわからない。影は二人を呑み込むように螺旋状に肥大して、瓶の外側を半分覆い隠してしまった。ガチガチと硝子に硬質なものが当たる音がする。丁度大ぶりの牙のような、そのまま瓶ごと目玉を噛み潰してしまえるような、野獣の大口を想像させた。
「どっちか聞いているんだよもどき」
何か途轍もないものをけしかけられていると悟った緋猿は、一も二もなく応じるより他になかった。
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