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金継ぎの青 上:ブルー編
鬼と不安と枕の話
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ことが終わり微睡みの中、青井はふと目をさました。
寝台の上で横たわる彼を背後から抱き込んで、投げ出された手を弄る者がいる。青井の指に盛り上がっている剣のたこを、ふたまわりも太い指が擦る。暗闇にも目が慣れて、臥したままたこを抑えるオーガの手を見つめた。
「……もう皮が柔らかいだろう?」
「起こしちまったか。……ヒトの皮膚なんざ、どこもやらけえもんさ」
バルドはそう言い、青井の手首を捕まえてシーツに沈めた。オーガの体温が人より高いのか、それともこの男が子供体温なのか、冷え性の体にじんわりと暖かさが移ってくる。
「……やさしい……」
「あ?なんだって」
「なんでもないよ……」
バルドは当たり前のように肩に毛布をかけ直してくれる。過去のあれらと比べたらバルドは怒るだろうが、彼の立場ならそれよりもっと酷いことができるはずだ。それこそ当然のように。塵のように扱われたって不思議じゃない。
……なんでこんなに優しいのか、青井には見当もつかなかった。
(食べる気かな。いっぱい食べさせて、太らせて)
寝ぼけた頭でふと考えたことが口をついて出た。
「こども生んだら……俺のこと、食べる?」
考えてみればなんと間抜けな質問だっただろうか。オーガが人を食うなんていうのは遠い昔の迷信である。もし人肉食の嗜好があったとして青井の肉は不味いに決まっている。そもそも自分のために家政夫まで雇ってもらっているのだ。ほとんど介護されている立場を考えれば言っていい台詞じゃない。
「…………」
バルドは少し考えるふうに間を溜めてから、面白そうに耳元で嘯いた。
「ああ。食べてやってもいいが……もう少し肉つけてからだな。食いでがねえ」
悪ぶった声音が耳に心地いい。青井が何か応えようとしたけれど、結局喉の奥でその問いはつかえたままだった。異形の腕に向き合うように抱え直され、もう寝ろと毛布をかけられる。
屈強な首筋に浮かぶ裂傷のあとが闇慣れた目に映る。いつかに青井が刻んだものの一つだ。青井のなかの「何故」は日に日にその輪郭を濃くしていく。不安だ。心許なくて……眠りにおちる頭は聞けもしないことを考え続けた。
どうしてだ。きっと目障りだっただろうに。数え切れないほどこの男の邪魔をしてきたのに。どうして俺は……こんなに優しくしてもらえるんだろうか。
こんなに手厚く扱われているのに。———どうして俺は、こんなに不安なのだろうかと。
寝台の上で横たわる彼を背後から抱き込んで、投げ出された手を弄る者がいる。青井の指に盛り上がっている剣のたこを、ふたまわりも太い指が擦る。暗闇にも目が慣れて、臥したままたこを抑えるオーガの手を見つめた。
「……もう皮が柔らかいだろう?」
「起こしちまったか。……ヒトの皮膚なんざ、どこもやらけえもんさ」
バルドはそう言い、青井の手首を捕まえてシーツに沈めた。オーガの体温が人より高いのか、それともこの男が子供体温なのか、冷え性の体にじんわりと暖かさが移ってくる。
「……やさしい……」
「あ?なんだって」
「なんでもないよ……」
バルドは当たり前のように肩に毛布をかけ直してくれる。過去のあれらと比べたらバルドは怒るだろうが、彼の立場ならそれよりもっと酷いことができるはずだ。それこそ当然のように。塵のように扱われたって不思議じゃない。
……なんでこんなに優しいのか、青井には見当もつかなかった。
(食べる気かな。いっぱい食べさせて、太らせて)
寝ぼけた頭でふと考えたことが口をついて出た。
「こども生んだら……俺のこと、食べる?」
考えてみればなんと間抜けな質問だっただろうか。オーガが人を食うなんていうのは遠い昔の迷信である。もし人肉食の嗜好があったとして青井の肉は不味いに決まっている。そもそも自分のために家政夫まで雇ってもらっているのだ。ほとんど介護されている立場を考えれば言っていい台詞じゃない。
「…………」
バルドは少し考えるふうに間を溜めてから、面白そうに耳元で嘯いた。
「ああ。食べてやってもいいが……もう少し肉つけてからだな。食いでがねえ」
悪ぶった声音が耳に心地いい。青井が何か応えようとしたけれど、結局喉の奥でその問いはつかえたままだった。異形の腕に向き合うように抱え直され、もう寝ろと毛布をかけられる。
屈強な首筋に浮かぶ裂傷のあとが闇慣れた目に映る。いつかに青井が刻んだものの一つだ。青井のなかの「何故」は日に日にその輪郭を濃くしていく。不安だ。心許なくて……眠りにおちる頭は聞けもしないことを考え続けた。
どうしてだ。きっと目障りだっただろうに。数え切れないほどこの男の邪魔をしてきたのに。どうして俺は……こんなに優しくしてもらえるんだろうか。
こんなに手厚く扱われているのに。———どうして俺は、こんなに不安なのだろうかと。
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