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金継ぎの青 下:ブルー編
それからを:epilogue
しおりを挟む見知らぬ街へやってきた。初めての引っ越しが終わり、青年は同じ階の住人に挨拶回りをしている。土手っ腹に開いた傷も縫い合わされ、いよいよ明日から短期大学に登校することになっている。
「こんにちはぁ」
隣に越してきた青井です。ベルを押せば、出てきたのは体格のいいオーガの男だった。
聞けば彼もこの土地に越してきたばかりだという。
「…………」
「なんだ?俺の顔になんかついてるか」
「いえ、その……知り合いに似ていたので」
兄を連れて行った大鬼の顔が思い出された。ぼんやりと、幸福そうな兄の顔を思い出す。自分には、到底あんな顔をさせてやることはできなかっただろう。オーガの隣人は頬をかくと、飯は食ったかと聞いてくる。首を横に振った。そういえば今朝から忙しくて、何も口にしていない。
「よければあがっていけ。隣で倒れられても俺が困る」
返事も聞かずにオーガは部屋の奥へと消えてしまった。口を開けたまま玄関口に取り残される。これ、いいのかな。オーガの部屋に入って、ゴハンなんか貰っちゃっても。
中から青年を呼ぶ声が聞こえる。なぜだかその時、兄の顔が頭を過ぎって、結局その部屋に足を踏み入れてしまう。
「お前、名前なんてえの?」
「喜一です!青井喜一です!」
喜一は男の顔を見上げて、まずはその名前を聞くことにした。
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