地球にとってのダイヤモンドの雨、なんてロマンチックすぎる例え

りりぃこ

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天王星

ダイヤモンドの雨、なんて、そんなロマンチックすぎる例えなんかいらない

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「えっと……。私のことが好きだっていうのは嘘だっていわなかったんですか?」
 茉莉は隣でバツの悪そうな顔になっている慧にたずねた。
 慧は、少し苦笑いしながら言った。
「言うの、忘れた」
「えー……」
 茉莉は困惑した。
 しかし慧は晴れ晴れした顔をしていた。
「でも、言いたいことは言えたよ。茉莉ちゃんのおかげで。
海衣くんの選んだ女は、惚れた男の趣味を捨てさせる奴なのかって言ってやった」
 茉莉は慧の顔をみた。
「それだけ?」
「うん」
「天野さんの気持ちは?」
「言えなかったよ」
 天野慧はニッコリ笑った。
「だって、海衣くん泣いちゃったんだもん。俺の選んだ女の事悪く言うんじゃねぇって。そんな奴じゃねぇよって。海衣くん、あのガラで泣くんだよ」
 茉莉は何も言えなかった。
「……寒いね、アパートまで送るよ」
 慧は空を見上げながら言った。
 今日はファミレスに行って次の約束はしないのか、と茉莉は思った。

「今日の茉莉ちゃん、強引だったね」
 歩きながら、慧は言った。
「だって、嫌だったので」
「嫌?何が?」
 何が、と問われて茉莉は考える。何が嫌だったのか?あの時何が嫌だった?
「あ、天野さんが、ヘソを曲げたせいで、天体観測が中途半端に終わっちゃったから?」
「なんで疑問形?」
 慧は笑う。
「その件については、ごめんね」
「あ、いや……」
 違うな、と茉莉は思った。
「別にそれが嫌だったわけじゃないですね……」
「え?今自分で言ったじゃん」
 天野慧はまた笑う。

 何でだったのか、茉莉はまた考えてみる。
「ああ」
 思い出した。あの時、何かが弾けた時。

「面倒で、イライラするんだけど。私は天野さんの片想いに巻き込まれてるのが、好きだったのかもしれません」
 慧はポカンとした。
「イラ?え?巻き込ま?すき?」
「天野さんが、星を見る海衣さんを見ているのが好きなように、私は海衣さんを優しい目で見る天野さんを見ていたかったのかもしれないです」
 なんか焦れったいし、イライラするけど。
 巻き込まれてるのがうんざりしてるけど。
 でも、あの時、あんな恐い声で問う慧を見たくなかった。あんなに悲しい目で海衣の事を嘆く天野慧なんて見たくは無かった。
「それだけです」
「そうか」
 慧は茉莉の顔を見ずに静かに空を見上げた。
「私の、ただのグズグズした片想いだと思ってたけど、茉莉ちゃんにとっては、地球から見たダイヤモンドの雨みたいなものなんだね」
「なんですかその意味不明なクサイ例え」
「ええ……前に茉莉ちゃんが言ったんじゃん…」
 慧は笑いながら困惑してみせた。
 茉莉も笑ってみせた。
「ダイヤモンドの雨なんて、そんなロマンチックすぎる例えなんかいらなかったですね。感じてみたら全然違います。私が好きなものは好き。好きなあなたが好きなものを見ているのも好き。それだけです」

 アパートにはすぐに着いた。
「今日も色々ありがとうございました。海衣さんにもよろしくお伝え下さい」
 茉莉は深々と頭を下げた。
「うん、またね」
 慧はそう言ってコンビニの方角へ戻ろうとした。
しかしふと踵を返して茉莉の顔を見て聞いた。
「茉莉ちゃんって、私のこと好きなの?」
「……?いいえ……?」
 なぜ?茉莉はポカンとする。どっちかというと、苦手だ。恋愛としてはもってのほかだし、友達としてもさすがに合わなすぎる。身勝手で強引だし。
「いや、さっきなんか、『好きなあなたが……』って言った気がして」
「え、私そんなこと言ったんですか?」
「いや、ごめん。気のせいだったかも」
 慧はバツが悪そうに手を振った。
 そして、「じゃあまた」と短く言って走って行ってしまった。

 また。と茉莉は口の中で呟く。

 また、次いつなのか。
 そして、この関係はいつまでなのか。
 海衣が結婚したらどうなるのか。

 茉莉は考えようとしたがやめた。

 その時になったら考えればいい。
 その時には、自分が無意識に口にした『好きなあなたが』の意味を考えよう。
 そう思いながら茉莉は髪ゴムを触る。



 彼女にとっては土星も天王星も全部同じ星なんだから。

End

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