怖がりで優しくて、とても恐ろしい人 〜ビビリヤクザに恋人になるよう攻められています〜

りりぃこ

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襲ったってそういう?

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 簡単にマンション設備の説明をされて、最後に鍵を渡されながら、弦人は言った。

「じゃ、仕事決まったらまた連絡するね?ハナちゃんの連絡先はもうすでにゲットしてるので」

「い、いつの間に……」

「あと、俺この部屋の合鍵あるから、帰ってきて誰かいても、泥棒だと思って殴りかかって来ないでよ」

 さらっと大変な事を言われて、ハナは心底嫌そうな顔をした。



 そんなハナには気にしない様子で弦人は去って行った。



 ポツンと小綺麗な部屋に取り残されたハナは、なんとか弦人から逃げ延びる方法を考えようと、部屋の内部をあちこち探ってみた。

 何なら、カメラや盗聴器があってもおかしくない気がする。



 その時だった。

 ピンポン、と呼び鈴が鳴った。ハナが恐る恐る出てみると、部屋着のようなラフな格好のキツイ目をした美人が立っていた。

「あんた新人?隣に挨拶来ないってどういう事?」

「あ、あっの、その」

 突然凄まれて、ハナはうまく言葉が出なかった。

 すると美人は、急に優しい表情になって言った。

「ゴメンゴメン、ちょっと冗談で怖い先輩気取ってみただけだから。

 今日引っ越してきたの?引っ越し祝いするから、こっちの部屋来な」

 そう言って、美人は無理やりハナを部屋から出して、自分の部屋へ連れていった。


「うち、カンナって名前でキャバクラやってるんだ。本名は米子よねこって言うんだけど、キャバ嬢っぽくないからカンナって呼んで」

 カンナは、ハナに缶チューハイを差し出しながら言った。

「ハナ、です」

 ハナは、警戒を説いていないので、それだけ名乗った。ハナの名を聞くと、カンナは目を輝かせた。

「ああ、ハナ!知ってる。あれだよね?社長襲って、で、それで社長に気に入られて社長の女になったってやつ。噂になってるよー」

「社長の女なってません」

 ハナはキッパリと否定した。

「何?社長ふられてんじゃん、ウケる」

 面白そうにカンナはチューハイをあおる。

「え?じゃあ社長襲ったっていうのは本当?」

「う、まあ……」

「カーッ可愛い顔してやるねえ。確かに、うちの社長って簡単に襲えそうだもんね。てか、襲われて気に入るとか、社長ドMじゃん」

 カンナはそう言いながら、スナック菓子を開けた。

「で、どうやって襲ったの?」

「ど、どうって……普通に……ナイフ持って突撃……」

「…………ナイフ?」

「ナ、ナイフ、です」

 カンナのポカンとした顔に、やっぱりナイフて脅せるわけ無いって馬鹿にされるのかとハナは思った。

 しかし、カンナは、ドン引きした顔になった。

「え、ごめん、え?襲ったって……え?刺そうとしたってこと?」

「だ、だってピストルとか手に入らないし。模造品ですぐバレるくらいならと思って」

 言い訳するハナに、カンナはブンブンと顔を横に振った。

「いや、その、襲ったって、その、裸で社長を誘ったとか、乗り気じゃない社長にガンガンおっぱいくっつけたとか、そういう話かと」

「そ、そんな事してない!」

 ハナは真っ赤になった。

「な、何でそんな話に!?あ、てか噂になってるってそういう噂に?」

「いやあ、だってそんなまさか社長の命狙って襲ってたとは思わなくて。だとしたら何で社長気に入ったの?マジのドM?」

「知らないよ!私が知りたい!」

 ハナは真っ赤になったままだ。

 カンナは興奮してしまったハナの背中をポンポンと優しく叩きながら言った。

「まあまあ。なんかそんなバイオレンスな話だとは思わなくて。ゴメンね、色々事情あったんでしょ?」

 ハナは小さく頷いたが、説明する気は起きなかった。

「ま、事情は聞かないでおくよ。ヤクザ社長襲撃するとかよっぽどでしょ」

「ありがとう」

 ハナは、サバサバと笑うカンナに感謝しながらちびちびと缶チューハイを飲んだ。


 ちょうどその時、カンナのスマホの着信音が鳴った。

「うわっ、店からだ」

 カンナは嫌な顔をしながら電話に出た。

「はい、はい、うわ、うち今日休みなのにぃ。はーい、仕方ないなぁ。え?もう一人?男でも女でもいいの?厨房?」

 カンナは電話しながら、チラリとハナを見た。

「了解。一人連れてくわ」



 電話を切ると、すぐにハナに向かって手を合わせた。

「うち、今から急病の娘の代わりに仕事入ったんだけど。お願い、今からちょっとヘルプはいってくんない?」

「えっ?ヘルプってキャバクラ?私おしゃべりとかうまくできないし、お酒弱いし、注文取るくらいの接客しかしたことないよ」

「違う違う。キッチンで皿洗いとか、最低限の飲み物出すとかしてくれるだけでいい」

「それならできる、かな。前のバイトでもやってたし」

 ハナは頷いた。

「マジで?ありがとう助かるー。じゃあうち着替えるから、ハナも出かける準備しといて」

 そう言って、パタパタとカンナは準備を始めたので、ハナも自分の部屋に一旦戻った。



 こんなことしてる場合じゃないとは思うけど。でも、缶チューハイとかご馳走なっちゃったし。

 ハナはそう思いながら、出かける準備をした。




 髪作るのに時間かかるから、先に店に行ってて、と言われて着いたのは、『マーメイド』というキャバクラだった。

 隼の働いていた所より、少し高級そうだ。

 恐る恐る、教えてもらった裏口から中に入ると、すぐにママさんと思われる人が飛んできた。

「ああ、あなたがカンナちゃんの連れてくるって言ってたヘルプね。ごめんなさいね。急にお得意様が、今から若い子大勢連れてくるって連絡してきてね。早速来て頂戴」

 そう言って、すぐに厨房に案内された。

 厨房では、年配の男の人が、何やら忙しそうにしていた。

「ヘルプ来たので、簡単に仕事教えてあげて下さい」

 ママさんに言われて、男の人は頷いた。

 男の人は、ハナに、食洗機の使い方と、手洗いする食器の洗い方、ドリンクのある場所などを簡単に説明した。

「わからないことはすぐに聞いてね」

「は、はい」

 仕事自体は、居酒屋やっていたときの厨房とさほど変わらないようだったので、少しハナはホッとした。



 仕事はかなり忙しかった。

 単純作業を主に任されてはいたが、普通に忙しい。なので、「そろそろ休憩いっておいで」と言われたとき、ハナはホッとした。



 バックヤードに入るやいなや、後ろから声をかけられた。

「ゴメンね~全然構えなくて。大変でしょう」

 見違えるように華やかな姿になったカンナだった。

「うん、でもなんとかやってる」

「本当ありがとね。ゴメンうちすぐ戻らなきゃ」

「ううん、頑張って」

 ハナは軽く手を振ってカンナを見送った。

 なんやかんやで以前の職場より働きやすい。体力は使うが、嫌味を言われたり理不尽な事を言われたりしないので気が楽だ。



 休憩を終えて、営業時間最後までやり終えた時には、ハナはもうクタクタだった。



「お疲れ様ー、今日は急にありがとね」

 ママさんが封筒に今日の分のお給料を入れて持ってきてくれた。

「え、こんなに……?」

「急に入ってくれたからサービスもあるけど。でも、丁寧な仕事で助かったわ。もしよかったらこのまま働いて欲しいくらい」

「そんな」

 冗談なのか本気なのか分からず、ハナは曖昧に笑ってみせた。



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