怖がりで優しくて、とても恐ろしい人 〜ビビリヤクザに恋人になるよう攻められています〜

りりぃこ

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デートするからね

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 ※※※

 誰かが自分の名を呼んでいるような気配を感じて、ハナは目を覚ました。

 すっかり明るくなってしまっている。時計を見ると昼近くだった。

「うそ、スゴイ寝てた……」

 ハナがそう呟いた時だった。



「おはよー。随分と遅いお目覚めだね。昨日疲れちゃったのかな?何度も呼んだのになかなか起きないから」

 急にハナの目の前に、弦人の顔が現れて、ハナは思わず「キャア」と悲鳴を上げた。



「ちょっと!そんなびっくりしないでよ。俺までびっくりしちゃった」

「そりゃびっくりしますよ!」

 ハナは布団で顔を覆いながら文句を言った。

「信じられない!勝手に入ってるなんて!」

「鍵持ってるって昨日言っておいたでしょ」

 弦人は口を尖らせた。

 よく見ると、部屋の隅の方で市原も待機していた。



「ほら、早く起きてよ。一緒に昼ごはんでも食べに行こうよ。まあ多分朝ごはんもまだなんだろうけど」

 弦人はそう言って、ハナの布団を剥ぎ取った。

「シ、シャワー。昨日浴びてないから浴びさせてください。あと、着替えるから出ていって欲しいです」

「だってさ、市原ちょっと出ていってもらえる?」

「黒部さんも!」

 ハナは真っ赤になって弦人と市原を追い出した。



 そして急いでシャワーを浴びた。

 ふと気づくと、前のアパートにあった衣類が一式隅の方に置かれていた。

「い、いつの間に……」

 ハナは末恐ろしくなったので、あえて考えないようにした。



 着替えが終わったちょうどのタイミングで弦人の市原がまた部屋に入ってきて、ハナは黒光りする車に強引に乗せられた。

 どこに連れられるのかと怯えていたが、着いたのは思いがけず、チェーンの回転寿司店だった。



 平日の昼間でほとんど混んでいない店内で、弦人はいそいそとタッチパネルを操作する。

「ハナちゃん何好き?食べられないのとかある?」

「えっと……」

「市原はいつものでいいんだよね?あ、限定のマグロ美味しそうじゃない?食べてみようよ」

「あ、うん……」

 まるで友達のように話しかけるので、思わず警戒を解いてしまいそうになる。



 各自注文したものがレーンで届き、食べ始めた時に、弦人は不貞腐れたように切り出した。

「それにしてもさ、昨日は勝手に仕事行っちゃうなんて……一言言ってくれてもよかったんじゃない?俺が仕事見つけてあげるって言ってたのに」

「別に頼んでないですし」

 ハナはそっぽを向いた。

「キャバクラに仕事行ったとか聞いたからさ、てっきりキャストかと思って。そんなハナちゃんがキャストするなら、俺絶対に客になってお酌してもらいたいじゃん」

 何だそれ。ハナは呆れたように弦人を見たが、弦人は本気で言っているようだった。

「でも、繁忙日にトップが行くのって絶対にお店にとって邪魔だろうからすっごく我慢したんだよ」

「どっちにしろ、私は皿洗いとかしかしてなかったですけど」

「らしいよね。ママと店長から聞いたよ」

 弦人は寿司をつまみながら言った。

「よく働いてくれたって褒めてたよ。そのまま働いて欲しいくらいだって」

 そう言われてハナは照れた。前までのバイトでは、すぐに役立たず扱いされていたので、単純に褒められると嬉しい。



「一応俺もいくつか候補見つけてたけどさ。ハナちゃんがよかったら、昨日の所で引き続き働く?」

「え?」

 弦人の言葉に、ハナは思わず顔を上げた。

「あ、確かに、とても働きやすかった。隣の部屋のカンナちゃんもいい人だったし、他の女のコ達もいい人たちでした」

 あと、昨日久しぶりに大笑いした気がする。弦人のモテなさっぷりに。



「そっか、じゃあ本格採用決まりかな。お店に連絡しておくね。市原お願い」

 弦人の言葉に、市原はすぐに電話をかける。

「いつからにする?来週とか?」

「向こうの家賃も払わなきゃだめだから早いほうが」

「オッケー。あ、でも明日は仕事入れないでほしいから、明後日からで」

 弦人の言葉に、ハナは首をかしげた。

 弦人はニッコリと笑って言った。



「俺、明日の夜は仕事無いから、明日午後からハナちゃんとデートするからね」



「勝手に決めないでください」

 ハナは素早く拒否した。

「だって、俺夜仕事無い日少ないから、明日を逃すとなかなかディナーに誘えないし」

「そういう事じゃなくて」

 言い訳をしてくる弦人に、ハナは必死になって説明した。



「私は、あなたとデートしません。なぜなら、私には恋人がいるんです。いくら今行方不明でも、別れているわけじゃないし。そんな状況でデートなんて行ったら、浮気になっちゃう。黒部さんだって嫌ですよね?浮気相手になっちゃうんですよ?」

「うーん……」

 弦人は、ハナの言葉に首をひねった。

「ハナちゃん、浮気の線引き、結構厳しいタイプ?」

「は?」

「ほら、人によってどこからが浮気かって違うじゃん?エッチしなきゃオッケーな人もいれば、異性と話すだけでもNGだったり。

 ハナちゃんは異性と二人で出かけるのは浮気になっちゃう?」

「まあ。そりゃあ」

「そうかそうかぁ」

「黒部さんは違うんですか?」

「え?俺も二人で出かけるのは浮気だと思うけど」

 なんだそりゃ、とハナはずっこけそうになった。



「じゃあ……」

「でも、市原もついてくるよ」

 弦人はしれっと言った。

「市原も来るから、異性と二人きりではないよ。なら大丈夫だよね?」

「そういうことじゃないんですって。……え?ていうか、市原さんもついてくるの?」

 ハナは少しドン引きして言った。弦人は申し訳なさそうな顔になった。

「本当は二人きりがいいよね?でも市原が、一応刺されかけた人と二人きりになるのは駄目だって聞かないんだ」

「当たり前です。この女と二人きりなど、だめに決まっています」

 市原はハナを睨みながら言った。ハナは首を竦めながら市原に訴えた。

「だったら別に私黒部さんとデートしなくていいですが……」

「だめだよ、もうディナーの予約も入れちゃったし」

 弦人が口を尖らせた。


「黒部さんなら他にもいい人いますよね?きっと喜んでデートしてくれる人もいると思います」

 ハナは、セイラの顔を思い出しながら言った。しかし弦人は首をふる。

「俺はハナちゃんとデートしたいの。とにかく、明日は決定ね。午後迎えに行くから逃げたりしないでよ。さ、お会計お会計。ここは奢るから」

 サクサクと弦人は勝手に話を進めてしまった。



 こうなってしまえばもうどうしようも無い。

 大きなため息をついてハナは外を眺めるのだった。




    
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