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馬鹿で愛おしい
しおりを挟む「マジでびっくりしたわ。マンションの前にヤバい車に停まってるしさ。その車でハナ連れ去られるし」
昼食を終え、マンションに送り届けられたハナは、部屋で不安そうに待っていたカンナに出迎えられた。
「すげえな。社長とランチ?どこいったの?」
「お寿司」
「うわ羨まし。私カウンターで食べる回らないお寿司食べた事無いよ」
「いや、回るお寿司」
「マジか。ヤバ、奮発しろよ。仮にもヤクザの親分がさぁ」
ケラケラ笑うカンナは、ハナを自分の部屋に招き入れた。
「昨日は急にありがとね。あと帰り放って行っちゃってゴメンね。セイラと仲良く帰れた?」
「う、うん。仲良く帰れた」
ハナは曖昧に頷いた。
カンナはお茶をハナに渡した。
「いやぁ、ハナがいい感じに働いてくれて、うちも鼻が高いよ」
「あ、それで、今度からカンナさんのとこのお店で本格採用になりそう」
ハナが言うと、カンナはパッと顔を輝かせた。
「えーいいじゃん!いつから?」
「多分明後日」
「明後日かぁ。あ、明日とかなんか用事あったり?」
「……あー、その、デート、だそうです」
ハナは苦々しげに言った。ハナの表情に、カンナは吹き出した。
「デートって言うのに、そんな嫌そうな顔するなって。相手社長でしょ?」
「うん……」
「そんな不本意なの?まあ刺した相手なら気まずいか?
高いお店でたっぷり食べてやるぜくらいの軽い気持ちで行けばいいじゃん。あ、でも今日回転寿司連れて行かれたこと考えると、高いお店は期待できないかな?」
カンナはハナの背中をポンポン叩きながら言った。
「私ね、彼氏がいるの」
ハナはカンナのあっけらかんとした優しさに、思わずポツリと呟いた。
カンナは背中を叩く手を止めてハナに向かい合った。
「彼氏?」
カンナが聞いてくれそうな姿勢を取ったので、ハナはポツリポツリと、今までの事情を正直に話した。
ハナが話し終えると、カンナは腕を組んで唸った。
「うーん、ま、彼氏ヤベー奴じゃん」
キッパリと言われて、ハナはショックを受けた。
「多分社長はそんな事で嘘つかないと思うよ。ヤクザの店って知ってて金に手をつけるとか、考え無しのアホでしょ」
「う、薄々そうは思ってたけど、客観的にはっきり言われるとなかなかくるね……」
凹みながらも、ハナは冷静に頷いた。
「でも、そうか。ハナ、そんなアホの彼氏の事が心配で社長襲ったのかぁ。馬鹿だなぁ」
そう言ってカンナはハナの頭を撫でた。
「馬鹿で愛おしいな」
「だって」
ハナは少し不貞腐れた。
「でもま、それならかえって社長と仲良くしといた方いいんじゃない?」
カンナの提案に、ハナは首をかしげた。
「だって、いっその事本気で逃げるつもりで遠くの県まで引っ越しするとかならまだしも、彼氏を待ちながら、探しながらヤクザから逃げるなんて絶対に無理だよ。中途半端に逃げて機嫌損ねられるよりは、今はとりあえず大人しくしておいた方いいんじゃない?」
「まあ、そうだよね」
薄々思っていたが、客観的な第三者の意見に、ハナは冷静になって考え込んだ。
「それに、社長の好意を受け入れないと、ハナ自身ヤバいんでしょ?うち個人としては、ハナがここからいなくなるの、嫌だよ」
「カンナさん……」
ハナは感激してカンナを見つめた。
「なんか、嬉しい」
「ともかく、明日のデートは楽しんできなよ」
カンナはキッパリ言った。ハナは頷いた。
「そうだね!とりあえずは」
「そうだそうだ」
カンナは笑う。
「あ、ついでに、市原さんと仲良くなったら紹介して」
「え?市原さん?」
いたずらっ子のように言うカンナに、ハナは眉をしかめる。
「え?まさかそれ狙い?」
「ヤダなぁ、ついでよついで。なかなかあのレベルのイケメンはお近づきになれないから、あわよくば、みたいな」
ケラケラ笑うカンナに、ハナは脱力した。
「……わたしのさっきの感動返してほしい」
そう言いながらも、二人はクスクス笑いあった。
ただ、ハナはまだ少しだけ不安が残っていた。
デート、というのは本当にデートだけなのだろうか。仮にも弦人を刺そうとしたのだ。何か裏で仕掛けられても不思議ではあるまい。
――警戒は怠らないようにしないと。
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