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そんなダサいことしません
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車は、思ったよりもすぐにやってきた。
この辺の近くでご飯を食べようとしていたらしい。
「ゴメンね、君もご飯食べそこねちゃったね」
「いえ、大丈夫です」
弦人に話かけられて、少し緊張した様子で運転手は答えた。
「それにしても、どこでご飯食べようか。うちの店行ってもいいんだけど。何か食べたいのある?」
弦人に聞かれて、ハナは少し考えた。
「あの、正直さっきみたいな所だと食べた気がしないので、どこか居酒屋でも」
正直、ハナは居酒屋の料理が好きだった。オーナーが嫌味なあの店を続けていたのも、あの料理が好きだった事が大きい。
「そっか。市原、今から席空いてる所探してもらえる?」
「かしこまりました」
市原はスマホを操作しだした。
結局、混雑時期なのもあってなかなか空きがなく、ようやく一軒見つけたチェーンの居酒屋に行くことになった。
4人の席で、と伝えたが、運転手の男が、もじもじと何かを言いたそうにしている。
「ああ、そっか」
弦人は察して言った。
「いいよ。さっき渡したお金で好きなとこで食べてきても。余ったお金でパチスロしてても大丈夫だよ」
「あ、あざす!」
運転手は嬉しそうに言った。
居酒屋に到着し、三人で席についた。
市原は遠慮して別の席に行こうとしたが、席の空きもないようだったので仕方なく弦人の隣に座った。
「私はいないものだとして、二人でお楽しみ下さい」
「変に気を使わないでよ。だったらはじめからついてこなかったらよかったじゃん」
「それは駄目です」
市原はそう言いながら、チラリとハナを睨んだ。
――嫌われてるなぁ。そりゃそうか。
ハナは苦笑いしながらメニューを覗いた。
「市原は今日運転しないからビールでいいよね?ハナちゃんはソフトドリンクだよね?何食べようか」
弦人の問いに、ハナは恐る恐る言った。
「あの、面倒くさい奴だと思われるかもしれないんですが……」
「なに?」
「私、焼き鳥は串で食べたい人なんです」
「うん?」
弦人は首をかしげた。ハナは早口で続けた。
「ほら、こういうとこで食べると、焼き鳥とか皆で食べるために串から外してシェアしてくれる人いるじゃないですか。でも、私は一人で丸々一本串でいきたいんですよ。あと、女子だからってサラダとか頼まないで下さい。普段ちゃんと野菜取るようにしてるのでこういうときくらいはおつまみ系だけいきたいんです。どうせ野菜食べるなら一本漬けとかいきたいです。あとシェアできない物頼むのは非常識みたいなこと昔言われたんですけど、メニューにあるのに頼むと非常識呼ばわりされるのはどうも納得出来なくて」
「オッケ分かった、ハナちゃん好きなの注文して。こっちは気にしなくていいから」
弦人は一旦ハナを落ち着かせてから店員を呼んだ。
飲み物と枝豆が到着した。
「とりあえず乾杯のやり直しだね」
弦人はそう言って、ジョッキを傾けた。
「結果的に、ここで良かったかもしれない。さっきのお店だと、あんなに喋るハナちゃん見られなかっただろうから」
「すみません」
ハナは急に恥ずかしくなった。
「いいよいいよ。せっかく気楽なお店に来たのに、メニューで気を使ってちゃつまらないよ」
そう言って、弦人はすごい勢いでビールを飲んだ。
「ところでさっき、全然怒ったりしなかったですよね」
「さっき?」
「あの、さっきのレストランの。あんまり弦人さんは怒るイメージはないけど、市原さんなら店員さんに食って掛かりそうなイメージだったから」
チラリとハナは市原を見た。市原はバツの悪そうな顔をしている。弦人はニヤニヤ顔を市原に向けた。
「市原、あんな事言われちゃってるよ~」
「店で怒鳴るなんて、そんなダサい悪い事しません」
市原はそっぽを向いて言った。
「昔社長にそうご指導頂きましたから」
「ご指導って?」
ハナが聞き返すと、市原は嫌そうな顔をした。
「昔は。秘書になったばかりの頃は血の気も多い躾のなってないガキだったもんで。まあその、ああいうことが起きたときに店で暴れてみせまして……」
まあ予想はできるな、とハナは思った。
市原は言いづらそうに続けた。
「後から社長から、堅気の店で暴れるとかダセェ事するんじゃねえ。ああいうときはあえて笑顔で大人しく立ち去るもんだ、と指導されました」
「案外ちゃんとした指導だ……」
ハナは少し感心した。
「それはもう厳しい指導で、土下座した頭を靴で踏みつけれながら、小刀を目の前の床に突き刺され、髪の毛を引っ張られながら……」
「誰の話?」
ハナはつい途中で突っ込んだ。
弦人は真っ赤になりながら慌てて言った。
「ちょっと大袈裟すぎ、そこまでしてないでしょ」
「そうでしたっけ」
市原はとぼけたような顔をしてみせた。
この辺の近くでご飯を食べようとしていたらしい。
「ゴメンね、君もご飯食べそこねちゃったね」
「いえ、大丈夫です」
弦人に話かけられて、少し緊張した様子で運転手は答えた。
「それにしても、どこでご飯食べようか。うちの店行ってもいいんだけど。何か食べたいのある?」
弦人に聞かれて、ハナは少し考えた。
「あの、正直さっきみたいな所だと食べた気がしないので、どこか居酒屋でも」
正直、ハナは居酒屋の料理が好きだった。オーナーが嫌味なあの店を続けていたのも、あの料理が好きだった事が大きい。
「そっか。市原、今から席空いてる所探してもらえる?」
「かしこまりました」
市原はスマホを操作しだした。
結局、混雑時期なのもあってなかなか空きがなく、ようやく一軒見つけたチェーンの居酒屋に行くことになった。
4人の席で、と伝えたが、運転手の男が、もじもじと何かを言いたそうにしている。
「ああ、そっか」
弦人は察して言った。
「いいよ。さっき渡したお金で好きなとこで食べてきても。余ったお金でパチスロしてても大丈夫だよ」
「あ、あざす!」
運転手は嬉しそうに言った。
居酒屋に到着し、三人で席についた。
市原は遠慮して別の席に行こうとしたが、席の空きもないようだったので仕方なく弦人の隣に座った。
「私はいないものだとして、二人でお楽しみ下さい」
「変に気を使わないでよ。だったらはじめからついてこなかったらよかったじゃん」
「それは駄目です」
市原はそう言いながら、チラリとハナを睨んだ。
――嫌われてるなぁ。そりゃそうか。
ハナは苦笑いしながらメニューを覗いた。
「市原は今日運転しないからビールでいいよね?ハナちゃんはソフトドリンクだよね?何食べようか」
弦人の問いに、ハナは恐る恐る言った。
「あの、面倒くさい奴だと思われるかもしれないんですが……」
「なに?」
「私、焼き鳥は串で食べたい人なんです」
「うん?」
弦人は首をかしげた。ハナは早口で続けた。
「ほら、こういうとこで食べると、焼き鳥とか皆で食べるために串から外してシェアしてくれる人いるじゃないですか。でも、私は一人で丸々一本串でいきたいんですよ。あと、女子だからってサラダとか頼まないで下さい。普段ちゃんと野菜取るようにしてるのでこういうときくらいはおつまみ系だけいきたいんです。どうせ野菜食べるなら一本漬けとかいきたいです。あとシェアできない物頼むのは非常識みたいなこと昔言われたんですけど、メニューにあるのに頼むと非常識呼ばわりされるのはどうも納得出来なくて」
「オッケ分かった、ハナちゃん好きなの注文して。こっちは気にしなくていいから」
弦人は一旦ハナを落ち着かせてから店員を呼んだ。
飲み物と枝豆が到着した。
「とりあえず乾杯のやり直しだね」
弦人はそう言って、ジョッキを傾けた。
「結果的に、ここで良かったかもしれない。さっきのお店だと、あんなに喋るハナちゃん見られなかっただろうから」
「すみません」
ハナは急に恥ずかしくなった。
「いいよいいよ。せっかく気楽なお店に来たのに、メニューで気を使ってちゃつまらないよ」
そう言って、弦人はすごい勢いでビールを飲んだ。
「ところでさっき、全然怒ったりしなかったですよね」
「さっき?」
「あの、さっきのレストランの。あんまり弦人さんは怒るイメージはないけど、市原さんなら店員さんに食って掛かりそうなイメージだったから」
チラリとハナは市原を見た。市原はバツの悪そうな顔をしている。弦人はニヤニヤ顔を市原に向けた。
「市原、あんな事言われちゃってるよ~」
「店で怒鳴るなんて、そんなダサい悪い事しません」
市原はそっぽを向いて言った。
「昔社長にそうご指導頂きましたから」
「ご指導って?」
ハナが聞き返すと、市原は嫌そうな顔をした。
「昔は。秘書になったばかりの頃は血の気も多い躾のなってないガキだったもんで。まあその、ああいうことが起きたときに店で暴れてみせまして……」
まあ予想はできるな、とハナは思った。
市原は言いづらそうに続けた。
「後から社長から、堅気の店で暴れるとかダセェ事するんじゃねえ。ああいうときはあえて笑顔で大人しく立ち去るもんだ、と指導されました」
「案外ちゃんとした指導だ……」
ハナは少し感心した。
「それはもう厳しい指導で、土下座した頭を靴で踏みつけれながら、小刀を目の前の床に突き刺され、髪の毛を引っ張られながら……」
「誰の話?」
ハナはつい途中で突っ込んだ。
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