怖がりで優しくて、とても恐ろしい人 〜ビビリヤクザに恋人になるよう攻められています〜

りりぃこ

文字の大きさ
13 / 68

そんなダサいことしません

しおりを挟む
 車は、思ったよりもすぐにやってきた。

 この辺の近くでご飯を食べようとしていたらしい。

「ゴメンね、君もご飯食べそこねちゃったね」

「いえ、大丈夫です」

 弦人に話かけられて、少し緊張した様子で運転手は答えた。



「それにしても、どこでご飯食べようか。うちの店行ってもいいんだけど。何か食べたいのある?」

 弦人に聞かれて、ハナは少し考えた。

「あの、正直さっきみたいな所だと食べた気がしないので、どこか居酒屋でも」

 正直、ハナは居酒屋の料理が好きだった。オーナーが嫌味なあの店を続けていたのも、あの料理が好きだった事が大きい。

「そっか。市原、今から席空いてる所探してもらえる?」

「かしこまりました」

 市原はスマホを操作しだした。



 結局、混雑時期なのもあってなかなか空きがなく、ようやく一軒見つけたチェーンの居酒屋に行くことになった。

 4人の席で、と伝えたが、運転手の男が、もじもじと何かを言いたそうにしている。

「ああ、そっか」

 弦人は察して言った。

「いいよ。さっき渡したお金で好きなとこで食べてきても。余ったお金でパチスロしてても大丈夫だよ」

「あ、あざす!」

 運転手は嬉しそうに言った。



 居酒屋に到着し、三人で席についた。

 市原は遠慮して別の席に行こうとしたが、席の空きもないようだったので仕方なく弦人の隣に座った。

「私はいないものだとして、二人でお楽しみ下さい」

「変に気を使わないでよ。だったらはじめからついてこなかったらよかったじゃん」

「それは駄目です」

 市原はそう言いながら、チラリとハナを睨んだ。

 ――嫌われてるなぁ。そりゃそうか。

 ハナは苦笑いしながらメニューを覗いた。



「市原は今日運転しないからビールでいいよね?ハナちゃんはソフトドリンクだよね?何食べようか」

 弦人の問いに、ハナは恐る恐る言った。

「あの、面倒くさい奴だと思われるかもしれないんですが……」

「なに?」

「私、焼き鳥は串で食べたい人なんです」

「うん?」

 弦人は首をかしげた。ハナは早口で続けた。

「ほら、こういうとこで食べると、焼き鳥とか皆で食べるために串から外してシェアしてくれる人いるじゃないですか。でも、私は一人で丸々一本串でいきたいんですよ。あと、女子だからってサラダとか頼まないで下さい。普段ちゃんと野菜取るようにしてるのでこういうときくらいはおつまみ系だけいきたいんです。どうせ野菜食べるなら一本漬けとかいきたいです。あとシェアできない物頼むのは非常識みたいなこと昔言われたんですけど、メニューにあるのに頼むと非常識呼ばわりされるのはどうも納得出来なくて」



「オッケ分かった、ハナちゃん好きなの注文して。こっちは気にしなくていいから」

 弦人は一旦ハナを落ち着かせてから店員を呼んだ。




 飲み物と枝豆が到着した。

「とりあえず乾杯のやり直しだね」

 弦人はそう言って、ジョッキを傾けた。


「結果的に、ここで良かったかもしれない。さっきのお店だと、あんなに喋るハナちゃん見られなかっただろうから」

「すみません」

 ハナは急に恥ずかしくなった。

「いいよいいよ。せっかく気楽なお店に来たのに、メニューで気を使ってちゃつまらないよ」

 そう言って、弦人はすごい勢いでビールを飲んだ。



「ところでさっき、全然怒ったりしなかったですよね」

「さっき?」

「あの、さっきのレストランの。あんまり弦人さんは怒るイメージはないけど、市原さんなら店員さんに食って掛かりそうなイメージだったから」

 チラリとハナは市原を見た。市原はバツの悪そうな顔をしている。弦人はニヤニヤ顔を市原に向けた。

「市原、あんな事言われちゃってるよ~」

「店で怒鳴るなんて、そんなダサい悪い事しません」

 市原はそっぽを向いて言った。

「昔社長にそうご指導頂きましたから」

「ご指導って?」

 ハナが聞き返すと、市原は嫌そうな顔をした。

「昔は。秘書になったばかりの頃は血の気も多い躾のなってないガキだったもんで。まあその、ああいうことが起きたときに店で暴れてみせまして……」

 まあ予想はできるな、とハナは思った。

 市原は言いづらそうに続けた。

「後から社長から、堅気の店で暴れるとかダセェ事するんじゃねえ。ああいうときはあえて笑顔で大人しく立ち去るもんだ、と指導されました」

「案外ちゃんとした指導だ……」

 ハナは少し感心した。

「それはもう厳しい指導で、土下座した頭を靴で踏みつけれながら、小刀を目の前の床に突き刺され、髪の毛を引っ張られながら……」

「誰の話?」

 ハナはつい途中で突っ込んだ。

 弦人は真っ赤になりながら慌てて言った。

「ちょっと大袈裟すぎ、そこまでしてないでしょ」

「そうでしたっけ」

 市原はとぼけたような顔をしてみせた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。 「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」 「脅してる場合ですか?」 ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。 ※なろう、カクヨムでも投稿

お客様はヤの付くご職業・裏

古亜
恋愛
お客様はヤの付くご職業のIf小説です。 もしヒロイン、山野楓が途中でヤンデレに屈していたら、という短編。 今後次第ではビターエンドなエンドと誰得エンドです。気が向いたらまた追加します。 分岐は 若頭の助けが間に合わなかった場合(1章34話周辺) 美香による救出が失敗した場合 ヒーロー?はただのヤンデレ。 作者による2次創作的なものです。短いです。閲覧はお好みで。

ヤクザは喋れない彼女に愛される

九竜ツバサ
恋愛
ヤクザが喋れない女と出会い、胃袋を掴まれ、恋に落ちる。

愛し愛され愛を知る。【完】

夏目萌
恋愛
訳あって住む場所も仕事も無い神宮寺 真彩に救いの手を差し伸べたのは、国内で知らない者はいない程の大企業を経営しているインテリヤクザで鬼龍組組長でもある鬼龍 理仁。 住み込み家政婦として高額な月収で雇われた真彩には四歳になる息子の悠真がいる。 悠真と二人で鬼龍組の屋敷に身を置く事になった真彩は毎日懸命に家事をこなし、理仁は勿論、組員たちとの距離を縮めていく。 特に危険もなく、落ち着いた日々を過ごしていた真彩の前に一人の男が現れた事で、真彩は勿論、理仁の生活も一変する。 そして、その男の存在があくまでも雇い主と家政婦という二人の関係を大きく変えていく――。 これは、常に危険と隣り合わせで悲しませる相手を作りたくないと人を愛する事を避けてきた男と、大切なモノを守る為に自らの幸せを後回しにしてきた女が『生涯を共にしたい』と思える相手に出逢い、恋に落ちる物語。 ※ あくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定等合わない場合はごめんなさい。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

堅物上司の不埒な激愛

結城由真《ガジュマル》
恋愛
望月かなめは、皆からオカンと呼ばれ慕われている人当たりが良い会社員。 恋愛は奥手で興味もなかったが、同じ部署の上司、鎌田課長のさり気ない優しさに一目ぼれ。 次第に鎌田課長に熱中するようになったかなめは、自分でも知らぬうちに小悪魔女子へと変貌していく。 しかし鎌田課長は堅物で、アプローチに全く動じなくて……

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

処理中です...