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ヤクザだからだよ
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車で次に連れられて行ったのは、高級レストランの前だった。
「こ、こ、ここって普通に入れるんですか?」
ハナはレストランを前にして動揺してしまった。
確かにカンナが、ドレスコードあるような所に……みたいな事を言っていたが、ちょっと予想以上だ。
「大丈夫だよ。ほら、おいでよ」
慣れた様子で弦人がエスコートしてくる。
背筋のきれいな店員にジャケットを預けて席についた。
「あれ?市原さんは?」
テーブルには弦人とハナだけが座ったので、キョロキョロと辺りを見渡した。
市原はカウンター席で一人座っている。
「一応、気を使って二人きりにしてくれてるんだよ」
弦人は市原を見ながら、小さく笑う。
「運転手の方は?さっきも映画中ずっと車で留守番だったみたいだし。ご飯は食べなくてもいいんですか?」
「さっきは留守番だったけど、今度は彼にも好きに食べておいでって充分なお金渡してあるから。余ったお金でパチスロ行ってくるってノリノリだったよ」
「そうなんですか」
ハナは少しホッとした。さすがに誰かを待たせてこんな所でゆっくり食事するとなると落ち着かない。
「えっと、コース料理でいいかな?一応メニュー見る?」
弦人に言われてメニューを受け取ったが、料理名がさっぱりわからない。
「よくわからないんでおまかせします」
「分かった。飲み物は?お酒飲める?」
「お酒弱いので、なんかジュースを」
ハナが答えると、弦人はサッと手を上げて店員を呼び、注文した。
ああ、慣れてるんだろうな。
さっきの映画館の時の頼りない弦人とはとうってかわって、全然違う世界の人間なんだ、とハナは感じた。
すぐに飲みものが来た。
「じゃ、乾杯しよ」
そう言って弦人がワインのグラスを掲げた時だった。
店の偉い人らしいが、弦人の近くにやってきて、膝をついて小声で何かを言った。
弦人は一瞬、目を泳がせたが、すぐに店の人に、満面の笑みを向けて立ち上がった。
「分かりました。それでは失礼致します。ご迷惑おかけしました。ハナちゃん、悪いけど帰るよ」
弦人に言われて慌ててハナも立ち上がった。
こちらの様子に気づいた市原も、立ち上がって合流した。
「それではお邪魔しました」
弦人は笑顔を絶やさないまま、店を出た。
ハナもよくわからないままにそれに続いて外に出た。
「今、すぐに車、迎えに来るそうです」
市原がそう言うと、弦人は頷いた。
「そっか。せっかく彼、パチスロ楽しみにしてたのに可哀相に」
レストランから少し離れた通りで、三人は車を待っていた。
「あの、さっきは何があったんですか?」
ハナが尋ねると、弦人は申し訳なさそうな顔になった。
「ゴメンね。せっかく予約したんだけどね。店長さんから、『ドリンクのお代は結構ですので、このままお帰り願いますか』って言われちゃったからさ」
「?どうして?」
「僕がヤクザだからだよ」
弦人はサラリと言った。
「暴力団お断り。あのレストラン、立派だね。店長全く物怖じしないで俺の利用を断った。ちゃんとしてる立派なレストランだよ」
遠くを見つめる弦人の表情を、ハナは初めて見た。
「よく、あること何ですか?」
「たまに、ね。やっぱりうちの系列店にしとけば良かったかな。でもデートだし、ちょっとカッコつけたかったんだ」
弦人は恥ずかしそうに笑った。
「それにしても、何でわかったのかなあ。ちょっと暑くてネクタイ緩めたときに入れ墨とか見えちゃったかのなー」
さっきハナは、弦人を全然違う世界の人なんだ、と感じた。
しかし今、全く違う意味で、全然違う世界の人だったと痛感してしまった。
普通なら関わらないはずの世界の人。
その世界にナイフを持って突っ込んでいったのは、紛れもないハナ自身だ。
「こ、こ、ここって普通に入れるんですか?」
ハナはレストランを前にして動揺してしまった。
確かにカンナが、ドレスコードあるような所に……みたいな事を言っていたが、ちょっと予想以上だ。
「大丈夫だよ。ほら、おいでよ」
慣れた様子で弦人がエスコートしてくる。
背筋のきれいな店員にジャケットを預けて席についた。
「あれ?市原さんは?」
テーブルには弦人とハナだけが座ったので、キョロキョロと辺りを見渡した。
市原はカウンター席で一人座っている。
「一応、気を使って二人きりにしてくれてるんだよ」
弦人は市原を見ながら、小さく笑う。
「運転手の方は?さっきも映画中ずっと車で留守番だったみたいだし。ご飯は食べなくてもいいんですか?」
「さっきは留守番だったけど、今度は彼にも好きに食べておいでって充分なお金渡してあるから。余ったお金でパチスロ行ってくるってノリノリだったよ」
「そうなんですか」
ハナは少しホッとした。さすがに誰かを待たせてこんな所でゆっくり食事するとなると落ち着かない。
「えっと、コース料理でいいかな?一応メニュー見る?」
弦人に言われてメニューを受け取ったが、料理名がさっぱりわからない。
「よくわからないんでおまかせします」
「分かった。飲み物は?お酒飲める?」
「お酒弱いので、なんかジュースを」
ハナが答えると、弦人はサッと手を上げて店員を呼び、注文した。
ああ、慣れてるんだろうな。
さっきの映画館の時の頼りない弦人とはとうってかわって、全然違う世界の人間なんだ、とハナは感じた。
すぐに飲みものが来た。
「じゃ、乾杯しよ」
そう言って弦人がワインのグラスを掲げた時だった。
店の偉い人らしいが、弦人の近くにやってきて、膝をついて小声で何かを言った。
弦人は一瞬、目を泳がせたが、すぐに店の人に、満面の笑みを向けて立ち上がった。
「分かりました。それでは失礼致します。ご迷惑おかけしました。ハナちゃん、悪いけど帰るよ」
弦人に言われて慌ててハナも立ち上がった。
こちらの様子に気づいた市原も、立ち上がって合流した。
「それではお邪魔しました」
弦人は笑顔を絶やさないまま、店を出た。
ハナもよくわからないままにそれに続いて外に出た。
「今、すぐに車、迎えに来るそうです」
市原がそう言うと、弦人は頷いた。
「そっか。せっかく彼、パチスロ楽しみにしてたのに可哀相に」
レストランから少し離れた通りで、三人は車を待っていた。
「あの、さっきは何があったんですか?」
ハナが尋ねると、弦人は申し訳なさそうな顔になった。
「ゴメンね。せっかく予約したんだけどね。店長さんから、『ドリンクのお代は結構ですので、このままお帰り願いますか』って言われちゃったからさ」
「?どうして?」
「僕がヤクザだからだよ」
弦人はサラリと言った。
「暴力団お断り。あのレストラン、立派だね。店長全く物怖じしないで俺の利用を断った。ちゃんとしてる立派なレストランだよ」
遠くを見つめる弦人の表情を、ハナは初めて見た。
「よく、あること何ですか?」
「たまに、ね。やっぱりうちの系列店にしとけば良かったかな。でもデートだし、ちょっとカッコつけたかったんだ」
弦人は恥ずかしそうに笑った。
「それにしても、何でわかったのかなあ。ちょっと暑くてネクタイ緩めたときに入れ墨とか見えちゃったかのなー」
さっきハナは、弦人を全然違う世界の人なんだ、と感じた。
しかし今、全く違う意味で、全然違う世界の人だったと痛感してしまった。
普通なら関わらないはずの世界の人。
その世界にナイフを持って突っ込んでいったのは、紛れもないハナ自身だ。
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