怖がりで優しくて、とても恐ろしい人 〜ビビリヤクザに恋人になるよう攻められています〜

やましい事

　結局、夜に弦人はハナの部屋を訪れた。

「熱は無いみたいだけど、顔色がすごく悪いね」

　弦人はハナの顔を覗き込んだ。

　ハナは弦人の目を見ることができなかった。

「薬と、ゼリーくらいしか買ってないけど。明日も具合悪かったら無理しないで病院行くんだよ。辛いなら市原にでも送らせるからね」

「大丈夫です。ありがとう」

　弦人の優しさが、今は痛い。

「弦人さん、風邪移しちゃいけないので、帰った方がいいですよ」

「大丈夫だよ。でも俺がいたらゆっくり休めないかな？帰るね。なんかあったら遠慮しないで連絡してね」

　そう言って優しくハナの頭を撫でると、弦人は玄関に向った。

「弦人さん」

　ハナは思わず背中に呼びかけた。

　弦人は振り向いて、何？と首を傾げた。

「あの、ありがとうございます。あの私……」


　今アパートに隼がいます。私は今隼に助けてほしいと言われています。隼に乱暴に抱かれてしまいました。

　やっぱり弦人に言うべきだ、とハナは思ったが声が出ない。


「どうした？具合悪い？」

「いえ……」

　ハナは俯いてしまった。

「私、弦人さんが好きです」

「うん？」

「好きです。だからその……大丈夫です」

「うん。わかってるよ。俺も好きだよ」

　弦人はそう言って笑った。



　弦人が部屋を出て言って、ハナは力を抜いた。

　机には熱冷ましとゼリーが置かれていた。

　ハナはゼリーを食べながら、隼をアパートから追い出す方法を必死で考えるのだった。




　一方で、ハナの部屋から車に戻った弦人は、首を傾げながら呟いた。

「ハナちゃん様子がおかしい」

「風邪引いてたら様子がおかしいのは当然では？」

　運転席の市原は冷たく答えるが、弦人は無視してブツブツ言った。

「何かいいかけてる気がするんだよね。それに、急に俺に好きだなんて言うなんて、なんかハナちゃんらしくないというか」

「やましいことでもあるのでは？人はやましいことがあれば無意識に機嫌を取ろうとしますからね」

「やましいこと？」

「浮気してるとか」

　市原がそう言った瞬間、背筋が凍るような殺気を感じた。市原はすぐに後部座席の弦人を振り返って慌てて謝った。

「失礼しました。そんな事ないですよね」

「そうだよ。風邪引いてる子を疑うとかやめよう。それに浮気とか言われたら俺が不安になるからやめてよー」

　弦人の声は相変わらずのんびりしたものだったが、目は一切笑っていなかった。

「でも浮気かあ。市原、暇なときでいいから、ハナちゃんの事よく見ておいてくれない？もし浮気とかしてたら、相手の竿、ちょっと刈り取っておいて。それをハナちゃんに見せて二度とそんな事にならないようにしてあげないと」

「かしこまりました」

　市原が素直に頷いたのを満足げに確認すると

　弦人は考え込んだ。

「でも、浮気っていったって、ハナちゃんの行動範囲は把握してるし……。相手は職場の黒服とかくらいしか……あとは」

　弦人は窓の外を見ながら呟いた。

「もし池田隼なら、ちょっと許せないけど」