怖がりで優しくて、とても恐ろしい人 〜ビビリヤクザに恋人になるよう攻められています〜

りりぃこ

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ごめんなさい

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 ※※※※

「珍しいね。ハナちゃんから誘ってくれるなんて。ここもハナちゃんが選んだの?」

 夕方、個室の居酒屋にハナは弦人を呼び出した。

 向かい合って掘りごたつの席に座った。

「お仕事は大丈夫でしたか?」

「うん、大丈夫。ハナちゃんは?」

「……当日欠勤です」

 申し訳なさそうに言うハナに、弦人は顔をしかめてみせた。

「これは、経営者としては見過ごせないね。当日欠勤してデートだなんて。なんて悪い子だろう」

「すみません」

 ハナは本気で首をすくませた。しかし弦人はすぐに微笑んでみせ、ハナの顔を覗き込んだ。

「……どうかした?」

「どうかって?」

 ハナはドキッとして聞き返した。

「最近、妙に甘えたり、かと思ったら上の空だったり。急に誘ってきたり、真面目なハナちゃんが当日欠勤したり。
 何かあったね?どうしたの?」

 弦人はゆっくりとした口調でたずねた。

 ハナは思わず顔をそらした。

 そのタイミングで店員が注文を取りに来た。

「まあ、とりあえずちょっと食べてからにしようか」

 弦人は飲み物を頼みながらそう優しく言った。


 烏龍茶と冷奴が運ばれてきて、二人は軽く乾杯した。

「本当は、またお酒飲んでもらいたい」

 弦人は真剣な顔で言った。

「もちろんそのままのハナちゃんも可愛い。しかし、お酒を飲んで全てが無防備になったハナちゃんの爆発力は正直ヤバい」

「私何したんですかね?」

 ハナは笑ってみせた。弦人も笑いながら烏龍茶を傾けた。

「でも、今日はちゃんとお話聞かなきゃ。まずはお互いお酒無しでね。
 ハナちゃん、一体何を悩んでるの?」

 真剣な顔で、真っ直ぐにコチラを向く弦人に、ハナは泣きそうになった。

「……あの、……えっと」

「ゆっくりでいいよ。大丈夫」

 向かい合って座っていた弦人は、ハナの隣に移動して背中をさすった。


 ハナは決心し、持ってきた紙袋に手を入れた。


「ハナちゃん?」

 弦人が怪訝そうにハナの顔を見たその時だった。


 ドタドタと騒がしい音と、小さな悲鳴が店内から聞こえてきた。

 そして、勢いよくハナと弦人のいる部屋の仕切りが開けられた。

「いたぞ!」

「社長、ご無事ですか」

 急に数人の男達が入ってきて、ハナはもちろん、弦人も驚いてしまった。

「何?ど、どうしたの?」


 その時、ハナは思わず紙袋を落とした。

 中からは、半分ハンカチで巻かれた状態の、一丁の拳銃が現れた。


「拳銃……ハナちゃん何で……」

 戸惑う弦人に、ハナはうまく言葉が出なかった。

「あの、これは」

 ハナが答えようとしたとき、男達がハナの身体を捕らえた。


「貴様、まさかこんな事までやるとは!」

 突入してきた男達の中には市原がいた。

 市原はハナを見て、どこかがっかりしたような表情を浮かべていた。


「ハナちゃんを乱暴に掴まないでくれる」

 静かな、しかし地を這うような低い声が、弦人から発せられ、ハナを掴んでいた手は少しだけ緩んだ。


「ハナちゃん、この拳銃はどうしたの?どこで入手したの?」

 弦人が低い声のままハナに問いかけた。ハナが答えようとしたが、ハナを捕らえている男が先に答えた。

「これは、水沢組の裏切り者がパクッた拳銃を、池田隼が譲り受けたものらしいです」

「池田隼から?ハナちゃん池田隼と会っていたの?」

 弦人はショックを受けた顔でハナを見た。

「ごめんなさい」

 ハナは震える声で小さく謝った。 


「さっき捕まえた池田が言うには、この女、この拳銃で社長を殺そうとしていたらしいです」

 男が弦人に説明した。

 それを聞いたハナは、ああ、隼はやっぱり捕まってしまったか、という絶望感に苛まれていた。


 隼は殺されるだろう。そして弦人も悲しませてしまった。

 もうハナは体に力が入らず、ぐったりと項垂れた。


「ハナちゃん、俺を殺そうとしたの?」

「隼に言われて……ごめんなさい……でも私」

「謝って済む話じゃねえからな」

 市原は怖い顔でハナの項垂れた顔を上げさせて威嚇する。


「ハナちゃん、どうして」

 弦人はいつもの笑顔は一切無かった。怯え、悲しみ、怒り、それらが混ざった表情は、ハナにもショックを与えた。

 こんな顔をさせたくなかったのに。


「女を連れて行け。社長はこちらへ」

 市原は男達にそう指示し、ハナは物のように持ち上げられて、ボロいワゴン車に詰め込まれた。

 ふと首を動かして弦人を見ると、弦人は一切こちらを見ずに、市原に促されながらいつもの黒塗りの車に乗り込んで行った。


 ハナは涙も出ないまま諦めたように目を瞑った。


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