59 / 68
番外編Ⅰ ☆チョコレートの罠
しおりを挟む
番外編①☆チョコレートの罠
「また、休みが取れないんだ」
夜の7時ころ。瑞希の部屋を訪ねてきた弦人がうめく。
社長である弦人は最近繁忙期でほとんど休みが取れていない。
わずかな時間の隙間をみては、瑞希の部屋にやってくるが、たいていお茶でも飲んで話をしてさよならだ。
「でも、あと少ししたらゆっくりできるはずだって、市原さんが言ってたじゃないですか」
瑞希がなだめるように言った。
「あ、そういえば、最近、お店で出すおつまみのサンプルもらってさ。このチョコレート、10袋位もらったから瑞希ちゃんにも一袋あげる」
そういって弦人は、なにやら外国語のパッケージのチョコレートを差し出した。
一粒袋から出して、あーん、と瑞希の口に入れた。
「美味しい……。でもなんかちょっと癖がありますね。あ、最近おいしい紅茶買ったからそれ入れてきますね」
キッチンに立った瑞希を見て、弦人はふとたずねた。
「瑞希ちゃん、さっきまで、お酒飲んでた?」
「え?」
「だって、その瓶」
弦人はキッチンの隅においてあった赤ワインの瓶を指差した。
瑞希は恥ずかしそうに瓶を持ち上げながら言った。
「あは。お酒を夕食のときにちょっとのむと、寝付きが良くなるので……」
「お酒に頼らないと寝れないの?何か悩み事?」
心配そうにたずねる弦人に、瑞希はゆっくりと紅茶の準備をしながら微笑んだ。
「悩みなんて、そんなの」
紅茶ポットとカップを机に並べると、瑞希は弦人の横にすっと座った。
「どうしたの?」
「弦人さんが最近抱っこして寝てくれないから、寂しくて寝れないんです」
「瑞希ちゃん!?」
ポン、と頭を弦人の胸によせながら、甘えるように言う瑞希に、弦人は慌てた。
「どうしたの急に?え?今まで普通だったのに何で甘えん坊モードに入ったの!?」
「いっつもお話だけで帰っちゃうし。チューくらいして行けよー。チューよこせチュー」
「何この可愛いカツアゲ!」
ハ、と突然弦人は思い当たり、さっき瑞希にあげたチョコレートの包の匂いを嗅いだ。
そして別の一粒を口に入れてみた。
「ウィスキーボンボンだったんだ。それも結構濃度高めの。え?まさかこれ一粒で酔ったってこと?いくらなんでもそこまでお酒に弱くはないはず。いや……」
弦人は、タコのような口で迫ってくる瑞希を必死で押さえつけながら考えた。
「違うな。あれだ、さっきまで飲んでだ赤ワイン。ちょうど気持ちよく眠れるくらいの量を飲んで、そして、ウィスキーボンボンでギリギリのラインを超えた?そんなまさか」
「弦人さん、無視しないで」
考え込む弦人に、瑞希はぷくっと膨れた。
「チューと!抱っこ!して!」
「する!」
考え込んでいた弦人は、あっさりと陥落した。
弦人はぎゅうぎゅうに瑞希を抱きしめ、勢いよく久しぶりのキスをしてやった。
呼吸をするために一度瑞希を離すと、ほんのり頬をピンクに染めた愛しい恋人が、ボンヤリした顔で見つめてきた。
弦人はちらりと時計を観た。
「えっと、今からの会合、集まりは8時半からだって言ってたから……ここを出るのは8時だから、今から可愛がってあげれば……どこまでイケるかな」
「何考えてるのー」
「ふふ、瑞希ちゃんの事だよ。服、苦しいから脱ごうか?」
そう言って弦人は瑞希の服のボタンを外し始めた。
その時だった。
勢いよく瑞希の部屋の玄関のドアが開いた。
「うわぁぁぁ」
弦人は飛び上がって驚いた。
玄関から、市原が入ってきた。
「失礼します社長。会合の時間が繰り上がりましたのでお迎えに上がりました」
「部屋、鍵かかってなかった!?」
「社長秘書たる者、ピッキングくらいは心得ております」
「ピッキングされない鍵に変えるよう瑞希ちゃんに言っておくよ……」
弦人はぐったりと言った。
「さ、社長ご準備を」
「今から?本当にいまから出なきゃだめ?こんな食べ頃……じゃなかった、酔っ払った瑞希ちゃんを放置する気?」
「酔っ払いなんて、布団で簀巻きにしときゃ大人しく寝ますよ」
冷たく市原は言い捨てた。
弦人は瑞希を抱きしめたまま必死で食い下がる。
「ほら、今チョコ食べたんだよ。歯を磨かせないと、虫歯になるでしょ!」
「子供じゃねえんですから」
市原はため息をついて、そして瑞希の前にしゃがみこんだ。
「瑞希、聞いてるか」
「なんですか、お邪魔虫」
「おいっ。今から社長は仕事だ。いい子で待っていられるな?」
「寝ないで待ってる」
「ちゃんとねんねして待ってろ。朝、瑞希が起きる頃には、ちゃんと社長をまたここに送り届けてやるからおはようのチューでもしてもらえ。その為にちゃんと歯磨いて寝ろ」
「本当?わかった」
瑞希は素直に頷くと、鼻歌を歌いながら洗面台へ向かって行った。
「さ、これで問題ありませんね」
市原は立ち上がって、弦人を見た。
弦人は真っ青な顔をしていた。
「何それ……何で市原の方が瑞希ちゃんを上手く手懐けてんの……?」
「いや、彼女案外単純では?」
「ズルい」
不貞腐れた弦人に、市原は大きなため息をついた。
「そんなことより、早く行きますよ。早く終えないと、彼女におはようのチューできませんよ」
「それも、呼び捨てにしてた。俺の瑞希ちゃんを呼び捨てに……」
グズグズと言い続ける弦人を引きずるように、市原は彼を仕事の会合へ連れて行く為に車に乗せるのだった。
※※※※
酒豪の集まる夜通しの会合を終えた弦人は、約束通り早朝にはまた瑞希の部屋へ戻った。
しかし、朝には我に返っていた瑞希に、「え、弦人さん何でそんなに酒臭いんですか?」と言われて、おはようのキスをあっさり拒絶されてしまうのであった。
番外編①END
「また、休みが取れないんだ」
夜の7時ころ。瑞希の部屋を訪ねてきた弦人がうめく。
社長である弦人は最近繁忙期でほとんど休みが取れていない。
わずかな時間の隙間をみては、瑞希の部屋にやってくるが、たいていお茶でも飲んで話をしてさよならだ。
「でも、あと少ししたらゆっくりできるはずだって、市原さんが言ってたじゃないですか」
瑞希がなだめるように言った。
「あ、そういえば、最近、お店で出すおつまみのサンプルもらってさ。このチョコレート、10袋位もらったから瑞希ちゃんにも一袋あげる」
そういって弦人は、なにやら外国語のパッケージのチョコレートを差し出した。
一粒袋から出して、あーん、と瑞希の口に入れた。
「美味しい……。でもなんかちょっと癖がありますね。あ、最近おいしい紅茶買ったからそれ入れてきますね」
キッチンに立った瑞希を見て、弦人はふとたずねた。
「瑞希ちゃん、さっきまで、お酒飲んでた?」
「え?」
「だって、その瓶」
弦人はキッチンの隅においてあった赤ワインの瓶を指差した。
瑞希は恥ずかしそうに瓶を持ち上げながら言った。
「あは。お酒を夕食のときにちょっとのむと、寝付きが良くなるので……」
「お酒に頼らないと寝れないの?何か悩み事?」
心配そうにたずねる弦人に、瑞希はゆっくりと紅茶の準備をしながら微笑んだ。
「悩みなんて、そんなの」
紅茶ポットとカップを机に並べると、瑞希は弦人の横にすっと座った。
「どうしたの?」
「弦人さんが最近抱っこして寝てくれないから、寂しくて寝れないんです」
「瑞希ちゃん!?」
ポン、と頭を弦人の胸によせながら、甘えるように言う瑞希に、弦人は慌てた。
「どうしたの急に?え?今まで普通だったのに何で甘えん坊モードに入ったの!?」
「いっつもお話だけで帰っちゃうし。チューくらいして行けよー。チューよこせチュー」
「何この可愛いカツアゲ!」
ハ、と突然弦人は思い当たり、さっき瑞希にあげたチョコレートの包の匂いを嗅いだ。
そして別の一粒を口に入れてみた。
「ウィスキーボンボンだったんだ。それも結構濃度高めの。え?まさかこれ一粒で酔ったってこと?いくらなんでもそこまでお酒に弱くはないはず。いや……」
弦人は、タコのような口で迫ってくる瑞希を必死で押さえつけながら考えた。
「違うな。あれだ、さっきまで飲んでだ赤ワイン。ちょうど気持ちよく眠れるくらいの量を飲んで、そして、ウィスキーボンボンでギリギリのラインを超えた?そんなまさか」
「弦人さん、無視しないで」
考え込む弦人に、瑞希はぷくっと膨れた。
「チューと!抱っこ!して!」
「する!」
考え込んでいた弦人は、あっさりと陥落した。
弦人はぎゅうぎゅうに瑞希を抱きしめ、勢いよく久しぶりのキスをしてやった。
呼吸をするために一度瑞希を離すと、ほんのり頬をピンクに染めた愛しい恋人が、ボンヤリした顔で見つめてきた。
弦人はちらりと時計を観た。
「えっと、今からの会合、集まりは8時半からだって言ってたから……ここを出るのは8時だから、今から可愛がってあげれば……どこまでイケるかな」
「何考えてるのー」
「ふふ、瑞希ちゃんの事だよ。服、苦しいから脱ごうか?」
そう言って弦人は瑞希の服のボタンを外し始めた。
その時だった。
勢いよく瑞希の部屋の玄関のドアが開いた。
「うわぁぁぁ」
弦人は飛び上がって驚いた。
玄関から、市原が入ってきた。
「失礼します社長。会合の時間が繰り上がりましたのでお迎えに上がりました」
「部屋、鍵かかってなかった!?」
「社長秘書たる者、ピッキングくらいは心得ております」
「ピッキングされない鍵に変えるよう瑞希ちゃんに言っておくよ……」
弦人はぐったりと言った。
「さ、社長ご準備を」
「今から?本当にいまから出なきゃだめ?こんな食べ頃……じゃなかった、酔っ払った瑞希ちゃんを放置する気?」
「酔っ払いなんて、布団で簀巻きにしときゃ大人しく寝ますよ」
冷たく市原は言い捨てた。
弦人は瑞希を抱きしめたまま必死で食い下がる。
「ほら、今チョコ食べたんだよ。歯を磨かせないと、虫歯になるでしょ!」
「子供じゃねえんですから」
市原はため息をついて、そして瑞希の前にしゃがみこんだ。
「瑞希、聞いてるか」
「なんですか、お邪魔虫」
「おいっ。今から社長は仕事だ。いい子で待っていられるな?」
「寝ないで待ってる」
「ちゃんとねんねして待ってろ。朝、瑞希が起きる頃には、ちゃんと社長をまたここに送り届けてやるからおはようのチューでもしてもらえ。その為にちゃんと歯磨いて寝ろ」
「本当?わかった」
瑞希は素直に頷くと、鼻歌を歌いながら洗面台へ向かって行った。
「さ、これで問題ありませんね」
市原は立ち上がって、弦人を見た。
弦人は真っ青な顔をしていた。
「何それ……何で市原の方が瑞希ちゃんを上手く手懐けてんの……?」
「いや、彼女案外単純では?」
「ズルい」
不貞腐れた弦人に、市原は大きなため息をついた。
「そんなことより、早く行きますよ。早く終えないと、彼女におはようのチューできませんよ」
「それも、呼び捨てにしてた。俺の瑞希ちゃんを呼び捨てに……」
グズグズと言い続ける弦人を引きずるように、市原は彼を仕事の会合へ連れて行く為に車に乗せるのだった。
※※※※
酒豪の集まる夜通しの会合を終えた弦人は、約束通り早朝にはまた瑞希の部屋へ戻った。
しかし、朝には我に返っていた瑞希に、「え、弦人さん何でそんなに酒臭いんですか?」と言われて、おはようのキスをあっさり拒絶されてしまうのであった。
番外編①END
20
あなたにおすすめの小説
虚弱なヤクザの駆け込み寺
菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。
「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」
「脅してる場合ですか?」
ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。
※なろう、カクヨムでも投稿
お客様はヤの付くご職業・裏
古亜
恋愛
お客様はヤの付くご職業のIf小説です。
もしヒロイン、山野楓が途中でヤンデレに屈していたら、という短編。
今後次第ではビターエンドなエンドと誰得エンドです。気が向いたらまた追加します。
分岐は
若頭の助けが間に合わなかった場合(1章34話周辺)
美香による救出が失敗した場合
ヒーロー?はただのヤンデレ。
作者による2次創作的なものです。短いです。閲覧はお好みで。
愛し愛され愛を知る。【完】
夏目萌
恋愛
訳あって住む場所も仕事も無い神宮寺 真彩に救いの手を差し伸べたのは、国内で知らない者はいない程の大企業を経営しているインテリヤクザで鬼龍組組長でもある鬼龍 理仁。
住み込み家政婦として高額な月収で雇われた真彩には四歳になる息子の悠真がいる。
悠真と二人で鬼龍組の屋敷に身を置く事になった真彩は毎日懸命に家事をこなし、理仁は勿論、組員たちとの距離を縮めていく。
特に危険もなく、落ち着いた日々を過ごしていた真彩の前に一人の男が現れた事で、真彩は勿論、理仁の生活も一変する。
そして、その男の存在があくまでも雇い主と家政婦という二人の関係を大きく変えていく――。
これは、常に危険と隣り合わせで悲しませる相手を作りたくないと人を愛する事を避けてきた男と、大切なモノを守る為に自らの幸せを後回しにしてきた女が『生涯を共にしたい』と思える相手に出逢い、恋に落ちる物語。
※ あくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定等合わない場合はごめんなさい。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
堅物上司の不埒な激愛
結城由真《ガジュマル》
恋愛
望月かなめは、皆からオカンと呼ばれ慕われている人当たりが良い会社員。
恋愛は奥手で興味もなかったが、同じ部署の上司、鎌田課長のさり気ない優しさに一目ぼれ。
次第に鎌田課長に熱中するようになったかなめは、自分でも知らぬうちに小悪魔女子へと変貌していく。
しかし鎌田課長は堅物で、アプローチに全く動じなくて……
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる