怖がりで優しくて、とても恐ろしい人 〜ビビリヤクザに恋人になるよう攻められています〜

りりぃこ

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番外編Ⅰ ☆チョコレートの罠

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番外編①☆チョコレートの罠


「また、休みが取れないんだ」

 夜の7時ころ。瑞希の部屋を訪ねてきた弦人がうめく。

 社長である弦人は最近繁忙期でほとんど休みが取れていない。

 わずかな時間の隙間をみては、瑞希の部屋にやってくるが、たいていお茶でも飲んで話をしてさよならだ。


「でも、あと少ししたらゆっくりできるはずだって、市原さんが言ってたじゃないですか」

 瑞希がなだめるように言った。


「あ、そういえば、最近、お店で出すおつまみのサンプルもらってさ。このチョコレート、10袋位もらったから瑞希ちゃんにも一袋あげる」

 そういって弦人は、なにやら外国語のパッケージのチョコレートを差し出した。

 一粒袋から出して、あーん、と瑞希の口に入れた。

「美味しい……。でもなんかちょっと癖がありますね。あ、最近おいしい紅茶買ったからそれ入れてきますね」

 キッチンに立った瑞希を見て、弦人はふとたずねた。


「瑞希ちゃん、さっきまで、お酒飲んでた?」

「え?」

「だって、その瓶」

 弦人はキッチンの隅においてあった赤ワインの瓶を指差した。

 瑞希は恥ずかしそうに瓶を持ち上げながら言った。

「あは。お酒を夕食のときにちょっとのむと、寝付きが良くなるので……」

「お酒に頼らないと寝れないの?何か悩み事?」

 心配そうにたずねる弦人に、瑞希はゆっくりと紅茶の準備をしながら微笑んだ。

「悩みなんて、そんなの」

 紅茶ポットとカップを机に並べると、瑞希は弦人の横にすっと座った。


「どうしたの?」


「弦人さんが最近抱っこして寝てくれないから、寂しくて寝れないんです」

「瑞希ちゃん!?」

 ポン、と頭を弦人の胸によせながら、甘えるように言う瑞希に、弦人は慌てた。

「どうしたの急に?え?今まで普通だったのに何で甘えん坊モードに入ったの!?」

「いっつもお話だけで帰っちゃうし。チューくらいして行けよー。チューよこせチュー」

「何この可愛いカツアゲ!」


 ハ、と突然弦人は思い当たり、さっき瑞希にあげたチョコレートの包の匂いを嗅いだ。

 そして別の一粒を口に入れてみた。

「ウィスキーボンボンだったんだ。それも結構濃度高めの。え?まさかこれ一粒で酔ったってこと?いくらなんでもそこまでお酒に弱くはないはず。いや……」

 弦人は、タコのような口で迫ってくる瑞希を必死で押さえつけながら考えた。

「違うな。あれだ、さっきまで飲んでだ赤ワイン。ちょうど気持ちよく眠れるくらいの量を飲んで、そして、ウィスキーボンボンでギリギリのラインを超えた?そんなまさか」

「弦人さん、無視しないで」

 考え込む弦人に、瑞希はぷくっと膨れた。

「チューと!抱っこ!して!」

「する!」

 考え込んでいた弦人は、あっさりと陥落した。


 弦人はぎゅうぎゅうに瑞希を抱きしめ、勢いよく久しぶりのキスをしてやった。


 呼吸をするために一度瑞希を離すと、ほんのり頬をピンクに染めた愛しい恋人が、ボンヤリした顔で見つめてきた。

 弦人はちらりと時計を観た。


「えっと、今からの会合、集まりは8時半からだって言ってたから……ここを出るのは8時だから、今から可愛がってあげれば……どこまでイケるかな」

「何考えてるのー」

「ふふ、瑞希ちゃんの事だよ。服、苦しいから脱ごうか?」

 そう言って弦人は瑞希の服のボタンを外し始めた。


 その時だった。

 勢いよく瑞希の部屋の玄関のドアが開いた。


「うわぁぁぁ」

 弦人は飛び上がって驚いた。

 玄関から、市原が入ってきた。

「失礼します社長。会合の時間が繰り上がりましたのでお迎えに上がりました」

「部屋、鍵かかってなかった!?」

「社長秘書たる者、ピッキングくらいは心得ております」

「ピッキングされない鍵に変えるよう瑞希ちゃんに言っておくよ……」
 弦人はぐったりと言った。

「さ、社長ご準備を」

「今から?本当にいまから出なきゃだめ?こんな食べ頃……じゃなかった、酔っ払った瑞希ちゃんを放置する気?」

「酔っ払いなんて、布団で簀巻きにしときゃ大人しく寝ますよ」

 冷たく市原は言い捨てた。

 弦人は瑞希を抱きしめたまま必死で食い下がる。

「ほら、今チョコ食べたんだよ。歯を磨かせないと、虫歯になるでしょ!」

「子供じゃねえんですから」

 市原はため息をついて、そして瑞希の前にしゃがみこんだ。


「瑞希、聞いてるか」

「なんですか、お邪魔虫」

「おいっ。今から社長は仕事だ。いい子で待っていられるな?」

「寝ないで待ってる」

「ちゃんとねんねして待ってろ。朝、瑞希が起きる頃には、ちゃんと社長をまたここに送り届けてやるからおはようのチューでもしてもらえ。その為にちゃんと歯磨いて寝ろ」

「本当?わかった」

 瑞希は素直に頷くと、鼻歌を歌いながら洗面台へ向かって行った。


「さ、これで問題ありませんね」

 市原は立ち上がって、弦人を見た。

 弦人は真っ青な顔をしていた。

「何それ……何で市原の方が瑞希ちゃんを上手く手懐けてんの……?」

「いや、彼女案外単純では?」

「ズルい」

 不貞腐れた弦人に、市原は大きなため息をついた。

「そんなことより、早く行きますよ。早く終えないと、彼女におはようのチューできませんよ」

「それも、呼び捨てにしてた。俺の瑞希ちゃんを呼び捨てに……」

 グズグズと言い続ける弦人を引きずるように、市原は彼を仕事の会合へ連れて行く為に車に乗せるのだった。


 ※※※※


 酒豪の集まる夜通しの会合を終えた弦人は、約束通り早朝にはまた瑞希の部屋へ戻った。


 しかし、朝には我に返っていた瑞希に、「え、弦人さん何でそんなに酒臭いんですか?」と言われて、おはようのキスをあっさり拒絶されてしまうのであった。


 番外編①END
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