【完結済】龍人に救われた女子高生が、前提条件の違う異世界で暮らしていくには

天知 カナイ

文字の大きさ
85 / 120

85 マヒロの決意

しおりを挟む
マヒロは、ただルウェンの説明を聞いていた。

自分は危うく、ルウェンと関係を持たされるところだったと知った。しかも、ティルンの悪意によって。
そういう、実際に危害を加えるような悪意にあったのは、自分が覚えている限り初めてだったので思わず身体の震えを覚えた。たまらない嫌悪感も。
ティルンは、他人を傷つけてまで自分の恋を成就したかったのだろうか。他人を傷つけた上に成立する恋で、本当に幸せになれると思っていたのだろうか。
いくら考えても、マヒロにはわからない感覚だった。

更には、ルウェンの考えも。

アーセルのために、国のために、自分を無理にでもアーセルと関係を持たせようと考えていたと。‥しかもマヒロの記憶が確かなら、ルウェンはアーセルを愛しているのに。
自分やアーセルの気持ちを無視してそんな酷いことをルウェンが考えていた、というその事実がただ衝撃だった。そして何とも言えない無力感と失望に襲われた。
ルウェンの事を、いつの間にか近しいものとして、心から信頼していた。だが、その相手は自分の目的のために、マヒロを、そして愛しているはずのアーセルをもいいように利用しようと考えていたのだ。

異世界に来て、色々な常識や世の中の仕組みが違うことは、実際に話を聞いたり自分が経験したりしてある程度理解したつもりでいた。だが、全くそんな理解も追いつかないほど、この世界の仕組みは自分に現実というものを突き付けてくる。

いや、自分は子どもだったのだ。ヒトは、それぞれ自分の利益のために動く生き物なのだということを、自分の価値観は全てのヒトに当てはまるものではないということを、真のところではわかっていなかっただけなのだ。

自分にとって、都合のいい事実しか、目を向けられていなかったのだ。

ルウェンの話を聞きながら、マヒロはどんどん気持ちが昏くなるのを感じていた。

ハルタカの話を聞くまでは。

ハルタカは、マヒロの危機を察知してやってきてくれた。そして助けてくれた。
それなのに。
「‥百年‥?」
「はい、百年です」
「な、んで‥?」
「なぜ‥そうですね、ソウガイ様は、ハルタカ様が未熟な龍人タツトだから、というように言っていたそうです」
未熟‥?
確かに、ハルタカは自分でもそう言っていた。でも、だからこそ自分を律しないといけないと言っていたし、ハルタカ自身も気をつけようとしていたのに。
どうして?
私を助けたから?
私を助ける事で、ヒトの世にいっぱい関わっちゃったから?
「‥本当に、百年も?百年も、眠れって‥?」
「‥ええ、間違いなく、百年、と言っていたそうです。百年ほど眠って眠りの中で龍人タツトの役割と使命を考えろ、と」

何だよそれ!
なんで、ハルタカがそんな目に遭わないといけないんだよ!
私のせいじゃん!私が、甘ちゃんで、危機意識が薄くて変な目に遭っちゃったから、だからハルタカが助けてくれただけなのに!
くそ~~!最長老!なんで私が寝てる間に帰りやがったんだ!くそーくそーーー!
今目の前にいたら、ぶん殴ってやるのに‥!

「‥ねえ、ハルタカはどこで眠らされてるの‥?」
「場所は‥おそらくアツレンにほど近い高山にある龍人タツトの住処ではないかと言っていました」
「私が、最初いたところかな」
「ああ、マヒロ様もおいでになったところですか。多分そこです」
「どうやったら、そこまで行けるかな」
「‥え?いや‥ちょっとヒトの足では近くにも寄れないと思います。そもそも道がありませんし」

道がないのは知ってる。確かにあの住処から伸びている道はなかった。
でも、ハルタカに会いたい。
百年も会えないなんて、冗談じゃない。
本当はその最長老とかにあってぶちくそ文句言ってやりたいけど、そいつがどこいるかは判んないし。
とにかく、ハルタカに会いたい。眠ってたら、私が起こす。絶対に叩き起こす。
「どうにか行ける道、ないかな」
「‥‥え?いや無理ですよ。無理です、本当に険しい山なんですよ?あそこの山に登ろうなんてもの好きはいません。大きな獣もいますし、気性の荒い飛竜もたまに飛んでいます」
「テンセイのこと?」
「いいえ、テンセイではない、野生の飛竜です」
「ふうん‥でも、何とか行きたい。ていうか、絶対に行く」
「無理です、無理だからいつもハルタカ様がテンセイに乗っていらしてたんですよ?ヒトの足でどうにかなるものではないんです」
「‥わかった。ちょっとどいて」
「マヒロ様?
マヒロ様ちょっと待ってください!マヒロ様!!」

マヒロはくらくらする身体を押して無理にも立ち上がり、アーセルの部屋に行くべく室内履きを素早く履いて、よろよろと部屋を出た。慌てふためいたルウェンが後ろから名前を呼びながら追いかけてくる。腕を取ろうとしたので、思い切り振り払った。
すると、息を呑み込んだような音がして、ルウェンの足音が止まった。だがマヒロはそれに気づきながらも構うことなく、よろめきながら屋敷内の廊下を歩いた。

しばらくして後ろからものすごく急いで走ってくる足音がしたが、無視して歩いた。
「マヒロ様!」
追いついてきたのはジャックだった。血相を変えて手に厚手のショールを握りしめている。
「何歩いてるんですか⁉まだお身体本調子じゃないんですよ?」
「うん、でもアーセルに話があるから。絶対話がしたいから」

ジャックはマヒロの顔を見つめ、はあと息をつくと手に握っていたショールをマヒロの身体に巻き付け、その手を取った。
「じゃあ僕もお供します。倒れちゃったら大変ですから」
「‥ありがと」

アーセルは執務室にいた。マヒロがノックをして部屋に入ると、驚いた顔をしてマヒロとジャックを交互に見た。ルウェンがいないことを不思議に思ったようだった。
「マヒロ様、話は」
「うん、大体聞いた。アーセル、私ハルタカの住処に行く。絶対に行くから、手を貸してほしい。行けたら、あとでちゃんと色々かかった費用とかなんとか働いて返すから」
「‥は?」
アーセルはぽかんとした顔でマヒロを見た。何を言われたのか、よくわからない、という感じだ。それに構わずマヒロは話を続けた。
「具体的には、アツレンの近くの高山に詳しい人を紹介してほしい。そいで山登りに必要な道具とか携帯用の食料とか売ってるところ教えて。そういうの準備できたら出発する。出来れば登山口に近いところまで送ってもらえると嬉しい、体力温存しときたいし。図々しくてごめんね、他に頼める人がいないから‥色々悪いんだけど」
「いや、マヒロ様、そんな、あの」
アーセルのこんなにあたふたしている顔を見たのは初めてだった。それくらい、自分は無茶なことを言っているんだなあと実感しながらも、マヒロは言葉を止めなかった。
「アーセル、私は絶対にハルタカのところに行く。決めたんだ」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...