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107 アツレンでの再会 1
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タムとルウェンが高山から下山してくるときに、タムの事情なども幾分打ち明けたようだ。もともと十二部族の族長の子どもだったタムには教育もしっかりされていて隣国であるカルカロア王国の事情などにも明るかった。宴会の手伝いに来た時の優秀さを、家令であるハウザはしっかり目をつけていたのだが、加えてルウェンからの推薦もあり屋敷で働くことになったのだと言う。
数字にも強く、領政に関わることにも明るいタムが来てくれたことで、アツレンの屋敷では随分と助かっているらしい。
「あー、たぶんあれだな、俺の親は多分もうピルカ売りには戻らないと思うな」
まるで大人のような口ぶりでナシュはそう言い切った。そんなナシュを、何だかかわいいなあと思いながら微笑ましく見つめる。
「ナシュは、タムがいなくて寂しいの?」
ナシュは黒い目を丸くしてマヒロを見た。
「いや、あと五年もしたら俺も成人だぞ?全然そんなことないよ。‥タムには、幸せになってほしいしな」
後半は口の中でもごもごと離されたのだったが、最近耳がよくなってしまったマヒロにはしっかりと聞き取れて、思わずふふっと笑ってしまった。
「でも、学校はちゃんと行った方がいいよ。知識は絶対に邪魔にならないし、可能性を広げるから」
ナシュはまた丸い目でマヒロを見た。
「‥マヒロ、タムとおんなじこと言ってるよ」
「え、そうなんだ」
笑い合ってから、ナシュのピルカを一椀買って食べながら色々と話をした。ナシュはやはり、食べ物を作って売るのが好きだからそう言った仕事に就きたいらしい。
「ピルカもいいけど、色んな食べ物を食べてみて、うまいものを売りたいんだ。だから勉強して金をためて、いつか自分のちゃんとした店を持ちたいって思ってる」
「いいね!私も食べに行くよ!」
マヒロは将来のナシュの事を想像しながらそう言った。
それまで黙っていたハルタカが初めて口を開いた。
「では、マヒロや私が行けるようになるまで、お前は必死になって努力をするがいい。‥‥お前が店を持ったからといって私たちはすぐに訪れることはしないからな」
あまり感情ののらないハルタカの淡々とした声に、マヒロはきっと後ろを振り向いて睨んだが、ナシュはすぐさまこくんと頷いて返事をした。
「そうだな、評判よくなってマヒロたちの耳に届くように頑張るよ!じゃな!」
少し離れた場所に配達に行くと言って、ナシュは荷物を担ぎ、その場所から離れた。
「‥なんか、冷たい気がする」
歩きながらそう呟いたマヒロに、ハルタカは肩を抱いてかがみ込んで耳を寄せた。
「何だ?」
「ナシュに、あの言い方って冷たいんじゃないかなって」
「ああ。」
ハルタカはすっと背を伸ばしてマヒロを見た。
「‥マヒロ、お前も龍人の番いとなるからには覚えておくがいい。前にも言ったことがあるが、龍人が立ち寄る店はすぐに繁盛する」
「ああ、うん、なんか言ってたよね。みんな色々とくれようとするからもらわないようにしてるとか」
「そうだ」
あながち厳しいばかりではない顔で頷いたハルタカは、言葉を続けた。
「お前がいるからこのところ、よくアツレンの街に降りてきているが‥本来龍人がこのような頻度で同じ街に来ることはない」
「そうなんだ」
「龍人が立ち寄った店は、一時的に繁盛するがその後努力を怠れば店はつぶれてしまう。元来龍人はあまりヒトの前に姿を現さないものだからな」
マヒロはそこまで聞いて、黙り込んだ。
先ほどのハルタカの言葉は、ナシュの未来を考えて言われたものであることを理解したのだ。
龍人が来たから、ではなく、その店に魅力があるから、という理由で繁盛しなくては長く続けることはできないのだ。
番いに準ずる者になった身として、マヒロはハルタカのこのような考え方をしっかり身につけていかねばならないのだと思った。
「ハルタカ、ありがとう。‥‥また、色々教えてね」
「ああ」
ハルタカは柔らかく微笑んでマヒロの肩をまた引き寄せ、その頭に口づけた。
「マヒロ様!」
三か月ほどしか離れていなかったのにやけに懐かしく感じる屋敷の玄関先で、待ち構えていたジャックがマヒロの姿を認めるや否や、半泣きになりながら駆け寄ってきた。そのままマヒロに縋りついて声を上げて泣き出した。
「ま、マヒロ、様、も、もう、うっ、本当に、ぐず、でも、よかった、ああああ」
号泣するジャックにつられてマヒロも鼻の奥がつんと痛くなってくる。ジャックは顔中を涙と鼻水だらけにして泣いている。
「ごめ‥ジャック、ごめん」
「いいんでずぅぅ、マ、マヒロ様がぁ、っく、おげんきでぇ、よがっだぁぁ」
しがみついて離れないジャックと抱き合いながらぐすぐすと洟を啜っていると、横からハルタカがジャックの襟首をひょいと掴んで引き上げた。
「ぐえ」
首元を衣服の襟に絞められジャックから変な声が洩れ出る。そのまま少し離れたところにぽい、とジャックを立たせるとハルタカはすかさずマヒロを抱き込んだ。
「ハ、ハルタカ!何すんの、ジャック、ジャック大丈夫?」
「えほっげほっ、だ、だいじょぶれす‥」
少し咳き込みながらジャックはハルタカを涙目で見上げた。ハルタカは知らん顔をしてマヒロの頭に顔を埋めている。
そうかそうか。そこまでやるのか。‥くそ、龍人め!
「う”う”~、やっぱ、苦しいかも。マヒロ様‥」
わざとらしくジャックがまたゲホゲホ咳き込みながらマヒロの方へ手を伸ばす。はっとしたマヒロはハルタカの腕の中から抜け出してジャックの傍により、背中をさすった。
「ごめんね、ハルタカは力が強いからさ‥悪気はないと思うから‥ほら、ハルタカも謝って!ていうかなんであんなことすんの!?」
ジャックはちらりと指の隙間からハルタカを窺い見た。逞しく秀麗な顔立ちの龍人が、ぶすくれた顔でこちらを睨んでいる。
ジャックは心の中でべえ、と舌を出した。
さんざっぱしマヒロ様に心配かけて気苦労かけたあげく、何か月も独占したんだから。
しばらくは、僕たち友人にマヒロ様を返してもらうよ!
数字にも強く、領政に関わることにも明るいタムが来てくれたことで、アツレンの屋敷では随分と助かっているらしい。
「あー、たぶんあれだな、俺の親は多分もうピルカ売りには戻らないと思うな」
まるで大人のような口ぶりでナシュはそう言い切った。そんなナシュを、何だかかわいいなあと思いながら微笑ましく見つめる。
「ナシュは、タムがいなくて寂しいの?」
ナシュは黒い目を丸くしてマヒロを見た。
「いや、あと五年もしたら俺も成人だぞ?全然そんなことないよ。‥タムには、幸せになってほしいしな」
後半は口の中でもごもごと離されたのだったが、最近耳がよくなってしまったマヒロにはしっかりと聞き取れて、思わずふふっと笑ってしまった。
「でも、学校はちゃんと行った方がいいよ。知識は絶対に邪魔にならないし、可能性を広げるから」
ナシュはまた丸い目でマヒロを見た。
「‥マヒロ、タムとおんなじこと言ってるよ」
「え、そうなんだ」
笑い合ってから、ナシュのピルカを一椀買って食べながら色々と話をした。ナシュはやはり、食べ物を作って売るのが好きだからそう言った仕事に就きたいらしい。
「ピルカもいいけど、色んな食べ物を食べてみて、うまいものを売りたいんだ。だから勉強して金をためて、いつか自分のちゃんとした店を持ちたいって思ってる」
「いいね!私も食べに行くよ!」
マヒロは将来のナシュの事を想像しながらそう言った。
それまで黙っていたハルタカが初めて口を開いた。
「では、マヒロや私が行けるようになるまで、お前は必死になって努力をするがいい。‥‥お前が店を持ったからといって私たちはすぐに訪れることはしないからな」
あまり感情ののらないハルタカの淡々とした声に、マヒロはきっと後ろを振り向いて睨んだが、ナシュはすぐさまこくんと頷いて返事をした。
「そうだな、評判よくなってマヒロたちの耳に届くように頑張るよ!じゃな!」
少し離れた場所に配達に行くと言って、ナシュは荷物を担ぎ、その場所から離れた。
「‥なんか、冷たい気がする」
歩きながらそう呟いたマヒロに、ハルタカは肩を抱いてかがみ込んで耳を寄せた。
「何だ?」
「ナシュに、あの言い方って冷たいんじゃないかなって」
「ああ。」
ハルタカはすっと背を伸ばしてマヒロを見た。
「‥マヒロ、お前も龍人の番いとなるからには覚えておくがいい。前にも言ったことがあるが、龍人が立ち寄る店はすぐに繁盛する」
「ああ、うん、なんか言ってたよね。みんな色々とくれようとするからもらわないようにしてるとか」
「そうだ」
あながち厳しいばかりではない顔で頷いたハルタカは、言葉を続けた。
「お前がいるからこのところ、よくアツレンの街に降りてきているが‥本来龍人がこのような頻度で同じ街に来ることはない」
「そうなんだ」
「龍人が立ち寄った店は、一時的に繁盛するがその後努力を怠れば店はつぶれてしまう。元来龍人はあまりヒトの前に姿を現さないものだからな」
マヒロはそこまで聞いて、黙り込んだ。
先ほどのハルタカの言葉は、ナシュの未来を考えて言われたものであることを理解したのだ。
龍人が来たから、ではなく、その店に魅力があるから、という理由で繁盛しなくては長く続けることはできないのだ。
番いに準ずる者になった身として、マヒロはハルタカのこのような考え方をしっかり身につけていかねばならないのだと思った。
「ハルタカ、ありがとう。‥‥また、色々教えてね」
「ああ」
ハルタカは柔らかく微笑んでマヒロの肩をまた引き寄せ、その頭に口づけた。
「マヒロ様!」
三か月ほどしか離れていなかったのにやけに懐かしく感じる屋敷の玄関先で、待ち構えていたジャックがマヒロの姿を認めるや否や、半泣きになりながら駆け寄ってきた。そのままマヒロに縋りついて声を上げて泣き出した。
「ま、マヒロ、様、も、もう、うっ、本当に、ぐず、でも、よかった、ああああ」
号泣するジャックにつられてマヒロも鼻の奥がつんと痛くなってくる。ジャックは顔中を涙と鼻水だらけにして泣いている。
「ごめ‥ジャック、ごめん」
「いいんでずぅぅ、マ、マヒロ様がぁ、っく、おげんきでぇ、よがっだぁぁ」
しがみついて離れないジャックと抱き合いながらぐすぐすと洟を啜っていると、横からハルタカがジャックの襟首をひょいと掴んで引き上げた。
「ぐえ」
首元を衣服の襟に絞められジャックから変な声が洩れ出る。そのまま少し離れたところにぽい、とジャックを立たせるとハルタカはすかさずマヒロを抱き込んだ。
「ハ、ハルタカ!何すんの、ジャック、ジャック大丈夫?」
「えほっげほっ、だ、だいじょぶれす‥」
少し咳き込みながらジャックはハルタカを涙目で見上げた。ハルタカは知らん顔をしてマヒロの頭に顔を埋めている。
そうかそうか。そこまでやるのか。‥くそ、龍人め!
「う”う”~、やっぱ、苦しいかも。マヒロ様‥」
わざとらしくジャックがまたゲホゲホ咳き込みながらマヒロの方へ手を伸ばす。はっとしたマヒロはハルタカの腕の中から抜け出してジャックの傍により、背中をさすった。
「ごめんね、ハルタカは力が強いからさ‥悪気はないと思うから‥ほら、ハルタカも謝って!ていうかなんであんなことすんの!?」
ジャックはちらりと指の隙間からハルタカを窺い見た。逞しく秀麗な顔立ちの龍人が、ぶすくれた顔でこちらを睨んでいる。
ジャックは心の中でべえ、と舌を出した。
さんざっぱしマヒロ様に心配かけて気苦労かけたあげく、何か月も独占したんだから。
しばらくは、僕たち友人にマヒロ様を返してもらうよ!
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