【完結済】小柄で陰キャ、オタクなあいつは、実は‥‥

天知 カナイ

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特に、その存在を気にしていなかった。今年から同じクラスになって、出席番号順で座った時に斜め前の席に座っていたから目に入っただけ。それだけのはずだった。

身長は170cmにぎりぎり届くか届かないかくらいに見える。頭が小さいのか顔が小さいのか、デカい黒縁の眼鏡をかけていつも何やらの本を読んでいる。漫画だったり小説だったりするらしいが、そもそも読書を学校でするやつがいないから目についた。
どこで切ってんの?と聞きたくなるくらい、雑に切られたぼさぼさの頭。前髪が眼鏡にかかってるけどそれ見えてる?と何度も思った。授業中は普通に大人しく受けているように見えるが、タブレットを使った授業の時はこっそり何かのサイトを見ているようだった。大胆なことするなあ、と見ていたら教師に当てられ、あちゃ~と思っていると、ほっそい声でちゃんと正解を言う。

へえ、と思ったら何と成績は悪くないらしく、たいてい学年でも二十番内には入っているらしかった。これは去年同じクラスだったやつが言っていたので多分間違いないだろう。一見真面目そうではあるが、普段全然勉強している風にも見えないのにすげえなあと普通に感心した。
俺はあんまりやる気もないからいつも真ん中くらいだ。

何だかこいつがどんどん気になって、いつも見てしまっている。

父親が去年再婚して、新しく母親ができた。俺の父親は十八歳の時に俺が出来てしまい、そのまま結婚したのでまだ若い。その時俺を産んだ母親は、早めの結婚生活に嫌気がさしたのか。俺が二歳の時に男を作って出ていったそうだ。産みの母親の記憶はほとんどない。父親はまだ若かったのに、両親の助けも借りながらではあるが俺を男手一つでこの年まで育て上げてくれた。そこは感謝している。
そんなこんなで父親には感謝はしている俺だが、そうかといって今このタイミングで二十代の嫁を貰うのもどうかと思う。俺は今年で十七歳だ。新しい母親とは十二歳しか違わない。
そうなってくると家に帰るのも何だか気まずくなる。父親と再婚相手は言ってしまえば新婚だし、俺がいると微妙な空気になる時がある。何となく帰りづらくなって外にいる時間が多くなった。

かといって俺は別に不良、というような気質でもない。ただ、180cmを越したがっちり目の体格から強そうに見られることが多い。外をうろついている時に出会ったやつらから、強そうじゃん、ということで仲間に引き入れられた。
別にそこまでつき合いたいようなやつらでもなかったが、家には帰りづらいし行くところもないので何となくつるんでいる、という感じだった。その中の一人が同じ高校で今年同じクラスになったやつだった、というのも大きかった。

俺はあまり喋ることもないし、どちらかと言えば静かな方なのだが、見た目のいかつさでどうも周りから敬遠されている部分があったらしい。夜つるむようになった同じクラスの戸倉は「何だ笹井ってけっこう怖くないじゃん」と言われたので、喋るようになる前はよほど怖いと思われていたようだ。

そんなこんなで、学校では戸倉とたまに話し、外では戸倉やその連れたちと夜遅くまでふらふらする、というのが俺の日常になった。父親はあまりその事について色々言ってくることはなかった。逆に新しい母親‥美弥さんの方が心配して色々言ってくれたが、俺は適当な返事をしてかわしていた。

そんな生活の中でも、あいつ‥新條秋親にいじょうあきちかから目が離せなかった。いちいち行動が面白く、俺の期待を裏切ってくるのだ。

授業中に指された時もそうだったし、通りすがりに肩が当たって女子に「うわオタクきもっ触んなよ」と言われた時も、低い声で「うるせえブスそっちが当たったんだろうが」と返して女子たちの顔を真っ青にさせていたり、食堂の食券売り場に並んでいる時に上級生から「ねえボクぅ~奢ってくんない?」とカツアゲられそうになっていた時も「金ねえから無理っすね」とさらりとかわして上級生の度肝を抜いたりしていた。
さすがに上級生にたてついた時にはまずいんじゃないか、と思ったが、新條は素知らぬ顔をして食券を買い、クラスに戻っていった。新條がいなくなってはっとした上級生たちが逆上しクラスまで追いかけてきたのだが、その時も知らん顔で漫画を読みふけっていた。

「てめえ舐めてんのか?!」
と言って掴みかかってきた上級生に対し、新條は全く慌てる様子も困ったふうでもなく胸ぐらを掴まれるままになっていた。上級生が大きく腕を振りかぶったところを、早めの授業準備のためにやってきた教師に見られて事なきを得た。

上級生は結構評判の悪いやつ等だったので厳しく指導を受けたようだ。いつか報復に来るのではないかと他人事ながら心配していたが、よほど厳しい指導をされたのか、新條が仕返しをされた、という話は聞かなかった。

ぱっと見オタクで陰キャに見える新條は、あまりクラスメイトと話すこともないし騒ぐこともない。注目を集めることもほとんどなかった。クラスメイトもほとんど新條に注意を払っておらず、たまにキレることがある陰キャ、というくらいの認識のようだった。
そんな新條に、飄々としていておのれの道を進んでいる、という印象を俺は持っていた。新條のそういうところが、俺はどこかで羨ましかったのかもしれない。

新條には隣のクラスに仲のいいやつがいるようで、いつもそいつとよくつるんで何やらの話をしていた。色々な本を持ってきて話をしているから、読書仲間なのかもしれない。何となく耳を傾けていれば、とある漫画のファンでそれがアニメ化されたものに対して非常に思い入れがあるようだった。最近の新條とそいつの話はほとんど「ザンガレン戦記」というそのアニメの話ばかりのようだった。

何となく気になって俺も本屋に行き、その漫画を探してみた。意外に綺麗な絵柄で読みやすそうだったので一巻だけ買った。
部屋に戻って読んでみるとまあまあ面白かった。二巻を買うか、と身体を起こした時、何で新條の好きな漫画買ってるんだ俺、と冷静に考えてしまい、買うのをやめた。

でも、新條から目を離すことはできなかった。

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