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15話 やっとお出ましだぞ

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 村人たちがダンジョンに現れてより2日、たまに様子を見に斧男が現れるのみで全く変化がない。

 あまりに暇なので俺たちはボードゲームで遊んでいた。
 双六すごろくの要領でドワーフの社長を操作し、資産を増やす古典的なやつだ。
 
 こいつがなかなかルールが複雑で俺は連敗中なのである。

「おっ、土地を購入か……いや、やめとくかな」
「マスに止まったプレイヤーが土地を買わないと、その土地は全プレイヤーを対象にした競売にかけられるっす!」

 だが、ゲームに慣れていない俺はゴルンにまで後れをとり残念な人扱いだ。
 今もタックの資産を増やすのに協力してしまったらしい。

「大将は弱いな」
「ルールがイマイチ頭に入らん。お茶でも淹れよう」

 リリーが「あ、私が」と反応したが、俺は「まあまあ」と制して立ち上がる。

「ちょっと気分を変えたくてな、たまには俺がやろう」

 マスタールームにはコンロもティーセットも持ち込まれている。
 俺はコンロにヤカンをかけ、火をつける。

(こんなのも生命エネルギーで動いてるんだからな……ダンジョンてのはすごいもんだ)

 急須にお茶っ葉を入れる瞬間、モニターが変化をとらえた。
 冒険者だ、7人もいる。

「お、やっとお出ましだぞ」

 俺が声をかけると、皆がガタガタと椅子から立ち上がる。

「分析します……アベレージ15の冒険者パーティーです。1番の高レベルは女性のドワーフ、こちらが19レベルです」
「ほほう、人間の国に住むドワーフか。いまだに鉱山で穴を掘ってるのかと思いきや冒険者かよ」

 リリーの言葉に反応したのはゴルンだ。

 ドワーフは人間の国にも魔族領にも分布する民族だが、決して一枚岩ではない。
 彼らの中でも対立があり、その結果として分裂した経緯がある。

 基本的に両者は『古臭いモグラども』『魔族に飼い慣らされたダークドワーフ』などと呼び合い好感情は持っていない。

「ま、しばらくは外でウザウザしてるだろ。お茶でも飲んでゆっくり待とう」

 俺は皆のカップを並べ、お茶を注ぐ。

 俺のカップは軍用の鉄製。
 リリーのはソーサーまでついた高そうな磁器。
 タックはネコがデザインされたかわいいやつ……取っ手が尻尾になっており面白い形だ。
 ゴルンは自作のゴツい湯呑み。
 なかなか個性的で、カップを並べるだけで面白い。

「こいつら3人と4人の2組編成だな。アベレージ18と13のパーティーだ。普通にやれば2組とも攻略するだろ」
「うむ、だがヤツらにとっては未知のダンジョンだ。片方は後方支援ではないか?」

 俺とゴルンがお茶をすすりながら冒険者の作戦を予想する。
 人の仕事を茶飲み話にするとは、ダンジョンマスターとは因果な商売である。



「回復の泉か……ここはどうやら安全地帯のようだね」
「ああ、場所も広いし、ここを起点に攻略しよう」

 7人の探検隊をまとめるドワーフの女がキャンプの設営を指示し、一同が荷物を下ろした。
 数日分の物資はなかなかの量で、未知の探検に持ち運ぶには向いていない。

「いいかい、初めは基本の通り左手に添って進む。これは探検だ、攻略ではなくマッピングを優先すること。無理せずパーティーをスイッチして進めるよ」

 女ドワーフの指示で先行は高レベルの3人と決まる。

 重武装タンクかつ回復魔法ヒーラーが得意な女ドワーフのリーダー。
 偵察スカウトに優れ、曲刀と体術で敵を殲滅するアタッカー曲刀剣士……ちなみに唯一の男性だ。
 トリッキーな付与魔法マジシャンと投石による遠距離攻撃が得意レンジャーな女野伏のぶせり

 皆がマルチジョブであり、少数ながら欠点の少ない編成と、女ドワーフの慎重な性格があいまってレベル以上に完成したパーティーと言われていた。

「交代で休憩しながら探検すれば消耗率は下がる、目標は全員の生還だ。成果によらず2日で帰還する」

 女ドワーフの指示は一攫千金を願う冒険者には物足りないものだ。
 露骨に不満の色を見せる者もいたが、女ドワーフは「勝手をしてケガをされたら迷惑だ」と念押しした。

「隊列は曲刀剣士、私、女野伏だ。マッピングは私がする。前後の警戒は任せたよ」

 女ドワーフは背後から聞こえる舌打ちを黙殺し、仲間と共に洞穴を進む。

「チッ、なんだよアイツら! ヘボのクセに文句は一丁前だね」
「そう言うな。ギルドの依頼は2組のパーティーでのダンジョン調査だ。アレでも数合わせにはなる」

 憤る女野伏を曲刀剣士がなだめる。
 この2人と女ドワーフはパーティーを組むようになって長い。

 互いが互いの欠点を補うように成長し、今では3人だけで難度の高い依頼をこなすようになった。
 安定して結果を出してきた反面で、突出したモノのない無難なパーティーでもある。

「内部は意外と明るいね。たいまつは使わなくてもよさそうかな」
「ああ、ヒカリゴケだな。なんというか……異世界に迷いこんだような不気味さがあるぜ」

 内部に入ると、2人は気を引き締め直したようだ。
 緊張した面持ちで歩を進める。

(異世界か……確かに不思議で美しい光景だ)

 女ドワーフは曲刀剣士の言葉に感心した。

 ごつごつとした岩にヒカリゴケやヒカリダケが群生し、淡く輝いている。
 薄く足元に流れる水が光を反射し、幻想的な光景を生み出していた。

 たしかに日常とはかけ離れた別世界のようだ。

「分かれ道だ。左に曲がるぞ」
「了解、後ろを警戒する」

 曲刀剣士が打ち合わせどおりに左に進路をとる。

「待て……敵だ。あそこの岩、何かが擬態しているぞ」

 しばらく進むと曲刀剣士が少し開けた場所で足を止めた。
 パッと見ではよく分からないが、危険を察知したようだ。

「あそこの岩だ。アイツにぶつけられるか」

 曲刀剣士の言葉に女野伏が頷き石つぶてを取り出す。
 彼女の持っている杖は魔法の触媒に投石紐スリングを組み合わせた特別製のスタッフスリングだ。

 女野伏が放った石つぶてはうなりをあげて指定された岩にぶつかる。
 すると岩はぐらりと動き、それを合図にしたように周囲の岩もいくつか動き出した。

「カニか!? ウジャウジャいやがるぜ! あんなにいたのかよ!?」

 曲刀剣士が悲鳴に似た声をあげる。
 いくつか見逃していたのもいたらしい。

 女ドワーフは「任せろ!」と前に出てメイスと大盾を構える。
 カニをメイスで殴りつけるとジーンと手が痺れるような硬さを感じた。

「くそっ殻が硬いな! だけど動きは遅いぞ! 落ち着けば大したことはない!」

女ドワーフが大盾ですくいあげるようにカニをひっくり返し、すかさず曲刀剣士が曲刀を突き刺した。

「よし、腹なら刃が通る」
「もう一回だ!」

 カニは殻の硬さをのぞけば大した脅威はない。
 女ドワーフと曲刀剣士は作業のように冷静に全滅させた。

「素材は殻か、ハサミかな」
「これもギルドに提出する情報になるからね。丁寧に剥ぐんだよ」

 女野伏と女ドワーフがカニを解体し、偵察に長けた曲刀剣士が周囲を警戒する。
 いつもの動きだ。

「重いな……石みたいだ」
「増えすぎたら捨てるしかないね」

 ずっしりと重いカニの殻を道具袋に入れ、先に進む。
 先にも小部屋があり、ゼリーを2匹倒した。
 これは水を吹き出す亜種のようだ。

「直進と右折だな。左手の法則通りに直進するぜ」
「ああ、ここはどうやら水棲モンスターが多いようだな」

 一行はゼリーの体液を容器に収め、先に進む。
 こいつは強いモンスターではないが初めて見る個体だった。
 報告のために素材は必要だ。

「また小部屋だな。ローパーがいるぜ。宝箱の側にいやがるな」
「任せて――付与エンチャント爆発」

 女野伏が石つぶてに爆発の魔法を付与し、スタッフスリングで投擲する。
 見事に命中し、ローパーはドンッという衝撃と共に半ばまで吹き飛んで絶命した。

「助かるよ。ローパーは近づくと厄介だからね」
「よっしゃ、宝箱を開けるぜ。罠はあるが簡単だ」

 曲刀剣士が宝箱を開けると、魔貨マッカと呼ばれる魔族の通貨が入っていた。
 魔貨は人間が鋳造する貨幣よりも信頼度が高く、人間の国でも問題なく流通している。

「5万だな……ま、日当はでたってワケか」

 曲刀剣士はぼやくが、稼ぎとしては悪くない。
 三等分しても貧民の日当の倍はある……無論、命がけの報酬としては納得のいくものではないが。

「ここは行き止りのようだし、いったん切り上げてスイッチしよう。情報を持ち帰るのが仕事だからね」

 余力は十分にある。
 だが、無理をせずここで引き返すのが彼らの流儀だ。

 女ドワーフはマップに『行き止り』と記し、迷いなくきびすを返した。

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