スローライフの鬼! エルフ嫁との開拓生活。あと骨

小倉ひろあき

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67話 次への備え

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 人間たちが帰ったあと、俺は状況を説明するために館に向かった。

 近づくと上がっていた跳ね橋が下ろされる。
 跳ね橋の上げ下ろしは重労働だ、なんだか俺一人のために申しわけない気もする。

 防壁の中では館に入りきらなかった者が建物の外で身を寄せ合うようにしていた。

(うーん、これは建物を増やすしかないな)

 全員が避難するには館では小さくなってしまった。
 この里も大きくなったものである。

「ベルク、だ、大丈夫だったか?」

 俺の姿を見つけたアシュリンがドテドテと歩いてくる。
 子供ができて彼女はさらに肥えた。

 普通はつわりなどで満足に食べれなくなると聞いたが、アシュリンの食欲は衰えるどころではない。
 下手をすれば俺よりも食べている。
 毎食がこの世の終わりみたいな食事風景なのだ。

(しかし、相変わらず乳と尻は平らなままだがな)

 もう太ったオジサンみたいな体型である。
 本人は『赤ちゃんが欲しがってるんだ』というが、赤子がそこまで食うはずはない。
 いい加減に膨張をやめてほしい……本人には言わないけど。

「これから説明する。みんな聞いてくれ」

 俺は集まっている皆に今回の経緯を説明した。
 そのうちスケサンからも説明はあるだろうが、とりあえず非常事態が終わったことは伝える必要がある。

 俺は特に人間たちが持ち込もうとした嗜好品についての危険を強調し「知らない人間から食べ物をもらわない」「ついていかない」「1人で対応せず、仲間をよぶ」を徹底して呼びかけた。

 里で人間への悪感情が先行してしまうことに懸念はある。
 小さな約束を律儀に守ったコスタスもまた、人間なのだ。

 だが、能天気に『信じよう』と教えては取り返しのつかないことにかりかねない。
 事実として、人間は毒を蔓延させるような取引を持ちかけてきたのだ。
 小さな善意を信じて大きな悪意を見逃すわけにはいかないだろう。

「しかし、毒でいいなりにするなんて人間ってのは怖いこと考えるんすねえ」
「ほ、ほんとだぞ。ベルクが毒を口にしてたら大変なことになってた」

 防壁の中は緊張で静まり返っていたが、バーンとアシュリンが口火を切ると皆がワイワイと騒ぎだした。
 不安から解放され、弛緩した雰囲気だ。

「もう少しだけ待ってくれよ! スケサンたちが戻るまではなにがあるか分からないからな!」

 戦は始まりよりも始末にトラブルが多いものだ。
 俺は門から出ようとする里人を押し止め、スケサンを待った。

「バーンは数人連れてナイヨの元に行けよ、ほかの里にも事情が伝わった方がいい」
「そうっすね。リザードマンの里やオオカミ人の里は川辺だし、人間が来ないとも限らないっすから」

 バーンはすぐさま数人のイヌ人と共に溜め池に向かった。
 ちなみにバーンはイヌ人と非常に仲がよい。

 ほどなくしてスケルトン隊はコナンやイヌ人のヘラルドを伴い帰還した。

「無事でなによりだ。その様子なら交戦はなかったようだな」
「うむ、とりあえずは川を下って行くのを確認した。オオカミ人の里もガイが事情を把握している。警戒と連絡は密にするはずだ」

 スケサンの言葉に皆が「わっ」と沸き立った。
 ここにいるのは戦えない女、子ども、老人も多い。
 30人もの武装集団と戦闘にならなくて本当によかったと思う。

「よし、スケサンより話を聞きたい者のみ残れ。あとは解散!」

 俺の号令と共に門が開く。
 数人のみを残し、皆が明るい顔で居住区に戻っていった。

「スケサン、助かったぞ。留守のときに人間が入ってきて、毒をばら蒔かれていたら手も足もでなかった」
「うむ、川から直接ここに来れるのは問題だな。どこか下流に橋でもかけるか」

 スケサンによると、人間の舟を発見したのは川漁をしていたイヌ人らしい。
 これはただ、運がよかったのだろう。

「オオカミ人の里で見張り櫓を造る必要があるのでは?」
「うむ、オオカミ人の里の防備も考えねばなるまい」

 コナンとスケサンは地面にガリガリとなにか描きながら相談している。
 時折ウシカになにかを訊ねているところを見るに、川になにか細工をしたいようだ。

 ウシカはすでにほぼ視力を失っている。
 だが、いまでもこうして知恵を貸してくれるのだ。

「あ、そういえばモリー、預かりものがあるんだ」

 イマイチ話についていけない俺はモリーを呼び、コスタスから預かった布切れを手渡した。

「これ、なんですか? キレイなお花の模様……糸を縫い込んで模様にしてるんですね」

 モリーは疑問を口にしながらも、真剣に布切れを調べている。
 俺にはよく分からないが、珍しいものらしい。

「これはコスタスからだ。この前、モリーと服の柄行がらゆきの話をしたとかなんとか……」
「あ! しましたしました。だけど、こんなの貰えるなんて――いま追いかけてもお礼はいえませんよね?」

 スケサンの話によるともう出発したあとだ。
 たしかに遅いだろう。

「ま、次でいいんじゃないか?」
「そうですね。そのときまでになにか用意しなくちゃ」

 モリーは「ふんすっ」と鼻から大きく息を吐き、張り切っている。
 よほど嬉しかったらしい。

(次の機会、か)

 次があるか、それは俺には分からない。
 だが、ないかもしれない次に備えることは重要だ。

 居住区の防壁、舟を止める仕掛け、オオカミ人の里の防備もある。
 溜め池にも新しい集落を作らねばならない。

 まだまだやることは山積のようだ。



■■■■


コスタスからの布切れ

おそらくはハンカチのようなもの。
小さい花の柄が刺繍されている。
刺繍の歴史は大変古く、紀元前のエジプトや中国ではすでに原型のようなものがあったらしい。
世界各地で様々な進化を遂げ、それぞれの地域、民族で刺繍は独自の発展を見せた。
時代と共に機械化が進み、上流階級のための美術的な刺繍は工業製品へと変化した。
だが、いまなおハンドメイド刺繍を好む層は多く、根強い人気がある。
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