スローライフの鬼! エルフ嫁との開拓生活。あと骨

小倉ひろあき

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68話 嫁探しの旅

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 冬の寒さが深まる時期、暖かな森でも上着がなければ凍えてしまう季節になった。

「――てワケさ。なかなか頑固というか、物分かりが悪いのさ。アイツらちょいと頭が鈍いんじゃないかね?」

 そうこぼすのはヌー人隊商を率いるベルだ。
 彼女は俺の頼みで他の地域に住むヤギ人集落に出かけてくれていた。
 もちろん用件はピーターとモリーの結婚相手探しだ。

 だがベルの話によると、それが不調に終わったらしい。
 ベルも不満顔だ。

「ヤギ人の里って、一族なんだろ? 見ず知らずの土地に身内を嫁がせたくないって話なら分からんでもないさ」
「まあねえ、そりゃそうなんだけど、山に住んでるヤギ人なんて地震で土地がメチャクチャになってるのさ。ごちゃ混ぜ里に住めるなら飛びつくのが本当だろうに」

 現金なところのあるベルらしい意見だと思う。

 だが、多少荒れても自分たちが暮らしてきた土地は大切なものだ。
 土地を大切にする者からすればピーターたちは土地を失い、ごちゃ混ぜ里に居候しているように見えるのだろう。
 自分たちより、さらに貧しい場所に娘をやりたくない気持ちは十分理解できる。

「まあいいさ、俺が挨拶に行くとしよう。そこで話をして、ダメなら違う里を頼む」
「うーん、違う里ね。ないこともないけどさ……ま、とりあえずは今回の案内に人を残していくよ。悪いけどヤギ人とは取引が少ないから何度も隊商を率いて行けないのさ――ノーマン!」

 ベルは話が早くて助かる。
 隊商から屈強なヌー人の男が呼ばれ、俺に頭を下げた。
 この男は古株らしく、俺も見覚えがある。

「ノーマンです。私が案内します」
「よろしくノーマン、俺はベルクだ」

 ノーマンと名乗るヌー人は厳つい顔つきでがっしりした体格だ。
 ちょっと力比べしてみたい気もするが、さすがの俺もピーターの嫁探しの前に力試しをするほどバカではない。

「ありがとうベル。これは礼だ」

 俺は腰の帯をスルリと外し、ベルに渡す。
 これは樹皮の布を染色し、編み込んだ紐に銅のバックルがついたなかなかのモノだ。

 俺は喧嘩の仲裁などでモノでカタがつきそうなときはパッと渡して終わらすようにしている。
 そうしたときに、こうした値打ちものを身につけておくと便利なのだ。

「へえ、バックルの細工がいいね」
「ああ、里のドワーフが作ったものさ」

 ベルは帯を受け取り「悪いね」とニンマリ笑う。
 どうやら満足してもらえたようだ。

「里長さんは気前がいいから好きさね。あとはノーマンに頼むとするよ」

 そういい残し、ベルは「よいしょ」と立ち上がる。
 少し垂れた大きな尻が実に重そうだ。

 彼女はそのまま隊商に戻り、次の目的地へと向かう。
 ヌー人隊商は半年を待たずしてやってくる。
 ノーマンも数ヶ月後には合流して戻るだろう。

「ノーマン、改めてよろしく頼む。聞いての通りヤギ人の里に身内の嫁を探しに行きたいんだ。なにか必要なものがあるか」
「……訪れるヤギ人の里は貧しく、生活は苦しい。食料がいいでしょう」

 ノーマンの言葉は素っ気ないが、俺はなんとなく好ましく感じた。
 コナンに声をかけ、食料と酒を背負子しょいごにまとめる。

「こんなもんですか? 山だと聞いたので干し魚や魚の塩漬けにしましたけど」
「ああ、あとは誰を連れてくかだけど――」

 現在、スケサンはオオカミ人の里で橋や見張り櫓についての打ち合わせを重ねているし、スケルトン隊は居住区の防壁造りに取りかかっているために無理はいえない。

 肩が悪いコナンに長時間荷を担いで歩かせるのも酷な話だ。

 ピーターやモリーはやめたほうがいいだろう。
 本人の結婚相手を探すのだ。
 うまくいけば問題ないが、不首尾に終わったとき余計な心労をかけてしまう。

 身重のアシュリンは論外だし、バーンやフィルもそれぞれ日常で忙しく働いている。
 声を掛ければ皆がついてきてくれるだろうが……この話は俺が勝手にやることなのだから、他の者に仕事を休ませて同行させるようなことでもない。

「どうしました?」
「いや、俺が荷を担いで行くのはいいが、道中には食料やらの物資も必要だろ? 誰に手伝ってもらうか考えてたんだ」

 誰に一緒に来てもらうか、これは意外と難しいとコナンもうなり始める。

「不吉なことをいいたくありませんが、不首尾に終わった場合を考えると、大げさなことをしたくないですね。私が同行しますか?」
「そうなるかなあ、肩のことを考えると申し訳ないが」

 俺とコナンが相談していると、ズボンを引っ張るヤツがいた。
 見ればウシカの子ども――兄ウシカだ。

「ん? どうした? 遊び相手がいないのか?」
「違う、我がついて行く」

 突然の申し出に戸惑ってしまったが、どうやら話を聞いたらしい。
 困っている俺を見て同行を申し出てくれたのだろう。

「そうか、ありがとな。でも重い荷物を運んで知らない道を歩くのは大変だ。山に登るらしいぞ」

 俺がやんわり断ると、兄ウシカは「我では不足か」と不快げに目を細めた。
 リザードマンはあまり感情を表に出さないが、付き合っていればこうした表情も読み取れる。

「ベルク様、私と兄ウシカで物資を分担するのはどうですか?」
「半分か、なら行けるか……?」

 兄ウシカはまだ幼く背は低いが、リザードマンらしく鱗は固まってきた(完全に固くなると成人らしい)。
 ごく幼い時期よりスケサンにヤーラを習い、体も強い。

「俺とコナンも荷物を担いでるんだ。途中でへたばっても助けてやれないぞ? それでもついてくる覚悟があるならウシカの許可をもらってこい」

 俺の言葉に兄ウシカは「承知した」と応じた。
 リザードマンらしい古風ないい回しがほほえましい。

「よし、明日の朝に集合だぞ。飯を食ったら出掛けよう。ノーマンも遠慮せずに館に来てくれよ」

 この場はこれで解散となる。
 ノーマンもゲストハウスに向かったようだ。

「やれやれ、もう連れていく気まんまんじゃないですか。わざわざ許可をとれなんてイジワルをしなくても」

 コナンが俺をたしなめるが、これはイジワルではない。
 家族に相談――つまり、自分の意思を口にすることで覚悟も決まるものだ。

「ま、明日だ。ヌー人隊商のルートを使うし危険はないと思うが、一応の備えはして行くぞ」
「分かりました。オリハルコンの槍は目だちますし、逆に盗人を呼び寄せてしまいます。棍棒になりそうな堅い木を杖にしますか」

 コナンは「人数分用意しますよ」と資材置き場に向かったようだ。
 諸事に器用な彼が来てくれるのは心強い。

 考えてみれば、俺はあまり他の種族の里を知らない。
 この旅は俺の見聞を広めてくれるだろうか。

 のちに、アシュリンが「これがお腹が痛くなったときの薬、こっちが切り傷、これは――」と世話を焼いてくれたので荷物が膨れ上がってしまった。
 兄ウシカの頑張りに期待しよう。



■■■■


ウシカ

リザードマンらしく、やや独特の話し方をするウシカの長男。
里に来たころのピーターと変わらぬくらいの年齢だが、リザードマンはやや成長が早い。
双子の弟ウシカと同じように育てられたが、成長と共に差ができてきた。
歩き始めたころよりスケサンに自然なかたちで鍛えられており、心身ともに年齢以上に壮健。
地味に今回が初セリフである。
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