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ギルドの異様な光景
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先日、酒場から出てすぐの話。
「売っちゃったハサミの代わり、ちゃんと作ってくださいよっ!」
ヴァルは涙を浮かべながら、そうパティに訴えていた。
それに仕方なく応じるパティ。
どうして誤魔化せると思ったのか?
しかもすぐに白状するのだから、最初から売り捌いたりしなければいいというのに。
あとは……変な話なのだが、パティがハサミの代わりを作れるのならば、わざわざヴァルのハサミをコッソリ売る必要なんてなかったんじゃないだろうか?
そんなことを思っていたシンであった。
次の日の朝からその作業に取り掛かろうとするパティだったが、一人物見部屋にこもっていた彼女を無理やり引きずり出したのがヴァルだった。
「もう見てられませんわっ!
なんで髪を整えるために使うハサミを作る人の髪がボサボサなんですかっ!」
「いーじゃん別にー!
誰も気にしてないもんっ!」
羽交い締めにされてなお、抵抗するパティ。
「お天道様がお許しになっても、私は許せませんっ!
今日という今日は絶対に髪を切らせてもらいますからっ!」
いつもいつもパティの姿を見るたびに気になっていた。
肩まで伸びたら私が切ってあげよう。
そんなことを思っているのに、いつも良いところでパティは自分で適当に切ってしまう。
人に切られるのが嫌だとか、今の髪型が気に入っているとかではない。
単に面倒なのと時間が惜しいだけなのだ。
今日に限ってはいい機会だと、昨夜からヴァルは一人、どんな風にセットするかを枕元で必死に考えていたのだった。
なんせ、今後このようなチャンスがいつ訪れるかは、誰にもわからないことだったのだから……
お昼過ぎ、シンは約束していた時間にギルドを訪れる。
研修は2日目に突入し、先日パティに連れていかれたばかりの新米が、翌日も変わらず顔を出すことが珍しいと思う冒険者は多かった。
「こんにちわー……」
「おや、昨日はお疲れさん。
パティから話は聞いてるよ。なんでも素直さが気に入ったとかで、魔道具作りを教えてやろうとか言ってたかねぇ。
……珍しいこともあるもんさね」
ザワザワと建物内が騒がしくなる。
パティが他人を『気に入った』と言うのだ。
まぁ全くないわけではないが、パティに気に入られた人物はほぼ例外なく有名な人物となっていた。
王宮魔道具師エディオン。
銀級冒険者サルバドール。
国に仕えれば人生勝ち組、ドラゴンを一体討伐すれば数年は遊んで暮らせる。
そんな生活を送る者たちの中には、パティから指導を受けた者が多いのは事実であった。
「おい……まさか、あんな小僧が将来有望株だと⁈」
「でも、あのパティが認めたんだぜ。
俺なんか終始ダメだしばかりで、イジメかと思ったくらいだっていうのに」
「そういやお前もパティ組だったんだな……辛かったろうに」
この時は、周りがなぜ騒いでいるのか、知る由もないシン。
確かにスライムと戦い死にかけたとはいえ、それ以外は別段変わった様子はなかったはずだ。
パティの機嫌が良かったのか、それ以外にも理由があったのか。
アビルマの言葉を聞くと、多くの冒険者たちは辛い思い出しか甦らない、酷な研修を思い出していた。
それぞれのギルド職員には得意分野があり、アビルマは指導者を育てるのを専門としている。
シンが初めて顔を出した時は、まさにそっち方面みたいな顔だと思ったのがアビルマの第一印象。
剣の腕を磨きたいものにはヴァルの指導が入る。
自ら剣を振るうことはないが、こちらもやはり指導を受けた者はどこの傭兵でも、騎士団でさえ入団を進めてくるそうだ。
まぁ、ほとんどが未熟すぎて、顔を合わせる前から門前払いなのだが……
そして、とにかく成功したいと願う者にはパテマがあてがわれるわけだ。
こちらは大半が逃げ出して、成し遂げた者でも平凡な人生を望むものが多い。
それでも成功すれば知らぬ者はいないと言われるくらいに有名になれるのだから、希望者は稀にいるわけだ。
もちろん他にも魔道具の専門や、交渉術、商売を専門とした職員もいるのだが、多くはそれ以外の一般的な座学を経て研修は終了となる。
そんなことなど知らなかったとはいえ『立派な冒険者』を希望したシン。
新米殺しのパティが彼を気にいるなどとは誰も想像していなかったわけだ。
「おーいパティ! お気に入りのシン様がご来客だよ!
早く降りて来んかね!」
背後のドアを開け叫ぶアビルマ。
普段の優しい声と表情とはうって変わって、まるで自分の母を見ているかのようだと感じるシン。
パティもそれに応えるように叫んでいるのが冒険者たちにも聞こえてくる。
「だ、誰がお気に入りよっ!
アンタも来るならもっと早く来なさいよーっ!」
何やら怒っている様な悲しんでいるような。
普段のやる気のない返事ではなかったものだから、不安を感じギルドから出て行く者の姿もあった。
そして声の主が、階段を強く踏み締めて降りてくる。
ズシズシ……とでも表現すれば良いのだろうか?
わざと音を立てて降りてくるあたり、やはり怒りの感情が入っているのであろう。
そんな不安に駆られながら待っていたシンが見たものは、昨日とはまるで別人の美しく髪の整った女神のような少女であった……
「売っちゃったハサミの代わり、ちゃんと作ってくださいよっ!」
ヴァルは涙を浮かべながら、そうパティに訴えていた。
それに仕方なく応じるパティ。
どうして誤魔化せると思ったのか?
しかもすぐに白状するのだから、最初から売り捌いたりしなければいいというのに。
あとは……変な話なのだが、パティがハサミの代わりを作れるのならば、わざわざヴァルのハサミをコッソリ売る必要なんてなかったんじゃないだろうか?
そんなことを思っていたシンであった。
次の日の朝からその作業に取り掛かろうとするパティだったが、一人物見部屋にこもっていた彼女を無理やり引きずり出したのがヴァルだった。
「もう見てられませんわっ!
なんで髪を整えるために使うハサミを作る人の髪がボサボサなんですかっ!」
「いーじゃん別にー!
誰も気にしてないもんっ!」
羽交い締めにされてなお、抵抗するパティ。
「お天道様がお許しになっても、私は許せませんっ!
今日という今日は絶対に髪を切らせてもらいますからっ!」
いつもいつもパティの姿を見るたびに気になっていた。
肩まで伸びたら私が切ってあげよう。
そんなことを思っているのに、いつも良いところでパティは自分で適当に切ってしまう。
人に切られるのが嫌だとか、今の髪型が気に入っているとかではない。
単に面倒なのと時間が惜しいだけなのだ。
今日に限ってはいい機会だと、昨夜からヴァルは一人、どんな風にセットするかを枕元で必死に考えていたのだった。
なんせ、今後このようなチャンスがいつ訪れるかは、誰にもわからないことだったのだから……
お昼過ぎ、シンは約束していた時間にギルドを訪れる。
研修は2日目に突入し、先日パティに連れていかれたばかりの新米が、翌日も変わらず顔を出すことが珍しいと思う冒険者は多かった。
「こんにちわー……」
「おや、昨日はお疲れさん。
パティから話は聞いてるよ。なんでも素直さが気に入ったとかで、魔道具作りを教えてやろうとか言ってたかねぇ。
……珍しいこともあるもんさね」
ザワザワと建物内が騒がしくなる。
パティが他人を『気に入った』と言うのだ。
まぁ全くないわけではないが、パティに気に入られた人物はほぼ例外なく有名な人物となっていた。
王宮魔道具師エディオン。
銀級冒険者サルバドール。
国に仕えれば人生勝ち組、ドラゴンを一体討伐すれば数年は遊んで暮らせる。
そんな生活を送る者たちの中には、パティから指導を受けた者が多いのは事実であった。
「おい……まさか、あんな小僧が将来有望株だと⁈」
「でも、あのパティが認めたんだぜ。
俺なんか終始ダメだしばかりで、イジメかと思ったくらいだっていうのに」
「そういやお前もパティ組だったんだな……辛かったろうに」
この時は、周りがなぜ騒いでいるのか、知る由もないシン。
確かにスライムと戦い死にかけたとはいえ、それ以外は別段変わった様子はなかったはずだ。
パティの機嫌が良かったのか、それ以外にも理由があったのか。
アビルマの言葉を聞くと、多くの冒険者たちは辛い思い出しか甦らない、酷な研修を思い出していた。
それぞれのギルド職員には得意分野があり、アビルマは指導者を育てるのを専門としている。
シンが初めて顔を出した時は、まさにそっち方面みたいな顔だと思ったのがアビルマの第一印象。
剣の腕を磨きたいものにはヴァルの指導が入る。
自ら剣を振るうことはないが、こちらもやはり指導を受けた者はどこの傭兵でも、騎士団でさえ入団を進めてくるそうだ。
まぁ、ほとんどが未熟すぎて、顔を合わせる前から門前払いなのだが……
そして、とにかく成功したいと願う者にはパテマがあてがわれるわけだ。
こちらは大半が逃げ出して、成し遂げた者でも平凡な人生を望むものが多い。
それでも成功すれば知らぬ者はいないと言われるくらいに有名になれるのだから、希望者は稀にいるわけだ。
もちろん他にも魔道具の専門や、交渉術、商売を専門とした職員もいるのだが、多くはそれ以外の一般的な座学を経て研修は終了となる。
そんなことなど知らなかったとはいえ『立派な冒険者』を希望したシン。
新米殺しのパティが彼を気にいるなどとは誰も想像していなかったわけだ。
「おーいパティ! お気に入りのシン様がご来客だよ!
早く降りて来んかね!」
背後のドアを開け叫ぶアビルマ。
普段の優しい声と表情とはうって変わって、まるで自分の母を見ているかのようだと感じるシン。
パティもそれに応えるように叫んでいるのが冒険者たちにも聞こえてくる。
「だ、誰がお気に入りよっ!
アンタも来るならもっと早く来なさいよーっ!」
何やら怒っている様な悲しんでいるような。
普段のやる気のない返事ではなかったものだから、不安を感じギルドから出て行く者の姿もあった。
そして声の主が、階段を強く踏み締めて降りてくる。
ズシズシ……とでも表現すれば良いのだろうか?
わざと音を立てて降りてくるあたり、やはり怒りの感情が入っているのであろう。
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