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【第2話】 商人フェルト
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シンがギルドを訪れた最初の日、アビルマの隣で冒険者から素材を引き取る獣人がいた。
名をフェルトといい、白いウルフのような耳と尾を持つ青年。
獣人と一口に言っても、獣と人間のハーフというわけではない。
いつの時代からか、胎児の頃にマナの影響を受けることで生まれるようになった獣人。
モンスターだと言う者もいるが、世界には相当な人数が存在しており、特に差別なく暮らしている。
それも狼のようであったり大きな翼を携えていたり。
どのような姿であれど我が子は可愛いもので、それを誇りに思う者さえいるくらいである。
そんな獣人のフェルトは、冒険者志願のシンを見送ったのち、アビルマに語りかけていた。
「あの子……明日も来ますかね?」
パティの研修を受けた志願者は、そのほとんどがしばらく疎遠になるか、気まずい顔をして中を覗くようになる。
「さぁねぇ?
でも最近は少なくなったんじゃないの?」
「そういえばここ数年は減りましたね。
なにかあったんですか?」
「アタシに聞いたってわかんないわよー。
大方、噂が広まりすぎたから意思の弱い志願者が減った、とかそんなところでしょ?」
「ははっ。たしかに希望者自体も減ってましたもんね」
口ではそんな適当なことを言うアビルマだが、内心ではパティの気持ちが落ち着いたのではないかと思い期待をするところもあった。
そんなアビルマの期待など、どこへやら。
夜になってようやく戻ってきたのは、怒り心頭のヴァルと、指で耳栓をするパティの二人。
獣人のフェルトがギルド内のモップがけをしているのを横目に、早足で通り過ぎ扉の向こうへと。
「な、何かあったんですかね?」
「知らないわよ……まったく、あのバカ娘たちはもう……」
隅で帳面を付けていたアビルマも呆れ返る。
研修を終えたにしてもそうでないにしても、まずは報告。
そもそもまずは当人のシンが帰ってこなくては話にならなかった。
あまりに過酷な内容で逃げたのか、それとも倒れて動けずにいるのだろうか?
フェルトがそんな想像をしていると、パタパタと階段を降りてくる一つの足音が聞こえてくる。
カチャリと扉は開かれ、パティは『明日はここで研修するから!』と一言。
ポカーンと呆気にとられてしまった。
今のが報告なのだろうか?
パタンと扉は閉まる。
「どうやら今度はうまくやっているみたいじゃないか。
魔道具作りを人に見せるなんて、何年振りなのかねぇ?」
「え……あっ!
今のって、そういうことなんですね……」
モップを持つ手が止まるフェルト。
自分ですら間近でそれを見ることはない。
シンという子は、よほどパティに気に入られる何かをしたのだろうか?
謎は深まるばかりであった。
翌日は朝から非常に騒がしい。
ヴァルが隣の部屋でバタバタと何かをやっている。
朝食に向かう時にチラッと覗いたのだが、また理容師のまねごとでもするようだった。
まったく、刃物を扱う仕事ならなんでもやりたがるヴァルのこともイマイチ理解できない。
以前は料理人の真似事や、大工にノミの使い方を聞いていることもあった。
本業はギルド職員として新人の研修と、素材の解体作業を行ったり……のはずなのだけど。
まぁ、よほど難解な解体作業でない限り、ヴァルの手を借りるまでもないのだから、アビルマさんも好き勝手させているようだ。
昼の休憩過ぎ、ちょうど冒険者たちも隅の方で雑談をしていた。
この時間はいつも暇であり、持ち込みや依頼が来ることも少ない。
食事を終えて眠気が襲ってくるのだが、フェルトはそれを堪えて先日分の集計作業を行っていた。
「あのー、こんにちはー……」
聞き覚えのある声に、一気に目が覚めた。
来た、あの新人冒険者のシンである!
アビルマの前に立つ彼を見て、尾をパタパタ動かしてしまうフェルトであった。
名をフェルトといい、白いウルフのような耳と尾を持つ青年。
獣人と一口に言っても、獣と人間のハーフというわけではない。
いつの時代からか、胎児の頃にマナの影響を受けることで生まれるようになった獣人。
モンスターだと言う者もいるが、世界には相当な人数が存在しており、特に差別なく暮らしている。
それも狼のようであったり大きな翼を携えていたり。
どのような姿であれど我が子は可愛いもので、それを誇りに思う者さえいるくらいである。
そんな獣人のフェルトは、冒険者志願のシンを見送ったのち、アビルマに語りかけていた。
「あの子……明日も来ますかね?」
パティの研修を受けた志願者は、そのほとんどがしばらく疎遠になるか、気まずい顔をして中を覗くようになる。
「さぁねぇ?
でも最近は少なくなったんじゃないの?」
「そういえばここ数年は減りましたね。
なにかあったんですか?」
「アタシに聞いたってわかんないわよー。
大方、噂が広まりすぎたから意思の弱い志願者が減った、とかそんなところでしょ?」
「ははっ。たしかに希望者自体も減ってましたもんね」
口ではそんな適当なことを言うアビルマだが、内心ではパティの気持ちが落ち着いたのではないかと思い期待をするところもあった。
そんなアビルマの期待など、どこへやら。
夜になってようやく戻ってきたのは、怒り心頭のヴァルと、指で耳栓をするパティの二人。
獣人のフェルトがギルド内のモップがけをしているのを横目に、早足で通り過ぎ扉の向こうへと。
「な、何かあったんですかね?」
「知らないわよ……まったく、あのバカ娘たちはもう……」
隅で帳面を付けていたアビルマも呆れ返る。
研修を終えたにしてもそうでないにしても、まずは報告。
そもそもまずは当人のシンが帰ってこなくては話にならなかった。
あまりに過酷な内容で逃げたのか、それとも倒れて動けずにいるのだろうか?
フェルトがそんな想像をしていると、パタパタと階段を降りてくる一つの足音が聞こえてくる。
カチャリと扉は開かれ、パティは『明日はここで研修するから!』と一言。
ポカーンと呆気にとられてしまった。
今のが報告なのだろうか?
パタンと扉は閉まる。
「どうやら今度はうまくやっているみたいじゃないか。
魔道具作りを人に見せるなんて、何年振りなのかねぇ?」
「え……あっ!
今のって、そういうことなんですね……」
モップを持つ手が止まるフェルト。
自分ですら間近でそれを見ることはない。
シンという子は、よほどパティに気に入られる何かをしたのだろうか?
謎は深まるばかりであった。
翌日は朝から非常に騒がしい。
ヴァルが隣の部屋でバタバタと何かをやっている。
朝食に向かう時にチラッと覗いたのだが、また理容師のまねごとでもするようだった。
まったく、刃物を扱う仕事ならなんでもやりたがるヴァルのこともイマイチ理解できない。
以前は料理人の真似事や、大工にノミの使い方を聞いていることもあった。
本業はギルド職員として新人の研修と、素材の解体作業を行ったり……のはずなのだけど。
まぁ、よほど難解な解体作業でない限り、ヴァルの手を借りるまでもないのだから、アビルマさんも好き勝手させているようだ。
昼の休憩過ぎ、ちょうど冒険者たちも隅の方で雑談をしていた。
この時間はいつも暇であり、持ち込みや依頼が来ることも少ない。
食事を終えて眠気が襲ってくるのだが、フェルトはそれを堪えて先日分の集計作業を行っていた。
「あのー、こんにちはー……」
聞き覚えのある声に、一気に目が覚めた。
来た、あの新人冒険者のシンである!
アビルマの前に立つ彼を見て、尾をパタパタ動かしてしまうフェルトであった。
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