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本当は長耳も大好きです
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「ん……あ、あれ? ここは?」
目が覚めると、僕はベッドの上で横になっていた。
酔ったつもりは無かったけど、気持ちが緩んで疲れが一気にやってきたのだろう。
よくよく考えてみれば、夜だったのが急に昼になっていて、いつもより長いこと起きていたのだ。
単純に眠気のピークに達しただけみたいだ。
「フロックス……は?」
むくりと起き上がり、部屋の中を見回した。
窓の外は薄暗く、夜明けにはまだ時間がありそうだ。
ベッドは二つあり、もう一方には巨体の男が大の字で寝そべっている。
僕をここまで運んでくれたのか……
僕は気を使ってかけ布団をかぶせてみるが、少し経つと暑いのか力強く振り払われてしまう。
全身が毛で覆われているし、もしかしたら布団は余計なのかもしれないな。
そんなことを思って、僕は窓から外を眺めていた。
横になって目を閉じてもみたが、どうにも寝れるような気分ではなかったのだ。
落ち着いて再び気になってしまう、家族のことを。
街灯がボンヤリと灯っていて、深夜だというのに外には何人もの人が歩いている。
人族だけでなく、フロックスみたいな大きな獣人もいれば、ウサギのような背の低い獣人も見えた。
「んん……なんだ、もう起きちまったのか?」
フロックスも目を覚まし、起きていた僕の方に目をやった。
「ごめん、起こしちゃった?」
「いや、俺たちはいつもこんなもんだ……
中にはほとんど寝ない種族もいるくらいだ」
『本当に知らないんだな』なんて言われて、少しだけ苦笑してしまう。
僕たちのいた街では、人族以外は見なかったし。
それが当たり前だと思っていたから、不思議にも思ってなかった。
「んー……実は家族のことも心配でさ、あまり寝付けないみたい」
「まぁそうだろうな……心配すんなっ、すぐに見つかるだろ。
俺に任せときなって」
……少し驚いた。
フロックスはこの街の住人だと思っていたし、僕を街まで送ってくれたら別れるものとばかり思っていたのだから。
そんな言い方をすると言うことは、つまり僕と一緒に家族を探す手伝いをしてくれるということだろう?
「本当に良いのっ?
まだ全然、どこにいるかもわからないよ?」
「転移させられてきたヒューマン達だろ?
んなもん、大きな街を片っ端からあたりゃどうにかなんだろ」
フロックスは、装備を身につけ始め、今にも冒険に出かけられそうな格好に早変わり。
時間は3時……活動しているのは獣人がメインだそうだが、ギルドは開いているそうだ。
「ギルドって、やっぱり冒険者が集う場所……だよね?」
僕たちの街でも、冒険者を取りまとめる組織があった。
魔物を倒して手に入れた素材を買い取ってくれるらしい。
それに、兵たちだけでは心許ない時に、多額の報償金を用意して国が依頼を出すことがあるのだとか。
あとは知らないし、そもそも子供の行く場所ではなかった。
「それだけじゃないぞ?
一般からの依頼はもちろん、商業の心臓部としても重要な役割をしている。
毎日様々な素材や装備なんかが入ってくるんだ。
物流を日々調整したり、商人たちを守るのもギルドの役割だな」
お、おぉ……てっきり討伐依頼とか素材の買取ばかりだと思っていた。
ちなみに取ってきたスコルピの素材も、一度に全部売りに出すと大変なことになるらしい。
十匹分程度だし大した量でもないだろうと思っていたけれど、『まぁ間違いなく首を吊る商人が出てくるだろう』なんて言われてしまった。
「そ、それは気をつけなきゃね…‥」
それにしても、そこそこ大きなスコルピの爪を10個。
よくまぁ運べるものだと感心してしまう。
「お前が寝こけちまわなかったら、もっと楽に持ち帰れたさ。
今から売却に行くが、どうする? ついてくるか?」
「もちろん行くよっ、どんなところか気になるもんっ」
「もんっ……てお前、時々やけに子供っぽい喋り方するよな……
いや子供だったな、すまん」
まだ暗い中、ギルドに向かって歩き出す僕とフロックス。
すれ違う獣人たちが珍し過ぎて、つい目をやってしまう。
「あまりキョロキョロしないほうがいいぞ。
中には短気なやつらもいるからな」
フロックスにそう言われて前を向き直す。
噛みつかれでもしたらと思うと怖い。
素直に従っておこう……
「あ……さっきの人だ……」
窓から見ていたウサギのような女性。
近くで見ると耳が長い違う種族にも見えてくる。
「なんだ、あのエゾリスの女を知っているのか?」
「リス……? いや、ウサギの獣人さんかなぁって思って気になっちゃって」
「エゾリスって種族だよ。
俺がワーウルフでお前がヒューマンって呼ばれるのと一緒だ。そのくらいわかるだろう」
うーん、いまいち伝わっている気がしない。
「フロックスは狼だよね?」
「なんだそれは? 俺はワーウルフの男で冒険者だ。あとはシルバーランクだな、他にあるか?」
「……ううん、なんでもないよ」
狼が禁句……なわけないよね。
これはもう、そういう種族なんだと割り切るしかない?
じゃあ逆にうさ……ラビット族みたいなものはいるのかと聞いてみる。
「なんだ? クロウは長耳がお好みか?
まだ小さいってのに、とんだマセガキだぜ」
「いやいや、気になっただけだし!
それに僕は猫派だからねっ!」
「ねこは……は、よくわかんねぇけど、やっぱ意味わかってんじゃねーか。
十年はえぇっての」
ケラケラと笑うフロックスに、この世界に来て初めて軽い殺意を抱いた瞬間だった……
目が覚めると、僕はベッドの上で横になっていた。
酔ったつもりは無かったけど、気持ちが緩んで疲れが一気にやってきたのだろう。
よくよく考えてみれば、夜だったのが急に昼になっていて、いつもより長いこと起きていたのだ。
単純に眠気のピークに達しただけみたいだ。
「フロックス……は?」
むくりと起き上がり、部屋の中を見回した。
窓の外は薄暗く、夜明けにはまだ時間がありそうだ。
ベッドは二つあり、もう一方には巨体の男が大の字で寝そべっている。
僕をここまで運んでくれたのか……
僕は気を使ってかけ布団をかぶせてみるが、少し経つと暑いのか力強く振り払われてしまう。
全身が毛で覆われているし、もしかしたら布団は余計なのかもしれないな。
そんなことを思って、僕は窓から外を眺めていた。
横になって目を閉じてもみたが、どうにも寝れるような気分ではなかったのだ。
落ち着いて再び気になってしまう、家族のことを。
街灯がボンヤリと灯っていて、深夜だというのに外には何人もの人が歩いている。
人族だけでなく、フロックスみたいな大きな獣人もいれば、ウサギのような背の低い獣人も見えた。
「んん……なんだ、もう起きちまったのか?」
フロックスも目を覚まし、起きていた僕の方に目をやった。
「ごめん、起こしちゃった?」
「いや、俺たちはいつもこんなもんだ……
中にはほとんど寝ない種族もいるくらいだ」
『本当に知らないんだな』なんて言われて、少しだけ苦笑してしまう。
僕たちのいた街では、人族以外は見なかったし。
それが当たり前だと思っていたから、不思議にも思ってなかった。
「んー……実は家族のことも心配でさ、あまり寝付けないみたい」
「まぁそうだろうな……心配すんなっ、すぐに見つかるだろ。
俺に任せときなって」
……少し驚いた。
フロックスはこの街の住人だと思っていたし、僕を街まで送ってくれたら別れるものとばかり思っていたのだから。
そんな言い方をすると言うことは、つまり僕と一緒に家族を探す手伝いをしてくれるということだろう?
「本当に良いのっ?
まだ全然、どこにいるかもわからないよ?」
「転移させられてきたヒューマン達だろ?
んなもん、大きな街を片っ端からあたりゃどうにかなんだろ」
フロックスは、装備を身につけ始め、今にも冒険に出かけられそうな格好に早変わり。
時間は3時……活動しているのは獣人がメインだそうだが、ギルドは開いているそうだ。
「ギルドって、やっぱり冒険者が集う場所……だよね?」
僕たちの街でも、冒険者を取りまとめる組織があった。
魔物を倒して手に入れた素材を買い取ってくれるらしい。
それに、兵たちだけでは心許ない時に、多額の報償金を用意して国が依頼を出すことがあるのだとか。
あとは知らないし、そもそも子供の行く場所ではなかった。
「それだけじゃないぞ?
一般からの依頼はもちろん、商業の心臓部としても重要な役割をしている。
毎日様々な素材や装備なんかが入ってくるんだ。
物流を日々調整したり、商人たちを守るのもギルドの役割だな」
お、おぉ……てっきり討伐依頼とか素材の買取ばかりだと思っていた。
ちなみに取ってきたスコルピの素材も、一度に全部売りに出すと大変なことになるらしい。
十匹分程度だし大した量でもないだろうと思っていたけれど、『まぁ間違いなく首を吊る商人が出てくるだろう』なんて言われてしまった。
「そ、それは気をつけなきゃね…‥」
それにしても、そこそこ大きなスコルピの爪を10個。
よくまぁ運べるものだと感心してしまう。
「お前が寝こけちまわなかったら、もっと楽に持ち帰れたさ。
今から売却に行くが、どうする? ついてくるか?」
「もちろん行くよっ、どんなところか気になるもんっ」
「もんっ……てお前、時々やけに子供っぽい喋り方するよな……
いや子供だったな、すまん」
まだ暗い中、ギルドに向かって歩き出す僕とフロックス。
すれ違う獣人たちが珍し過ぎて、つい目をやってしまう。
「あまりキョロキョロしないほうがいいぞ。
中には短気なやつらもいるからな」
フロックスにそう言われて前を向き直す。
噛みつかれでもしたらと思うと怖い。
素直に従っておこう……
「あ……さっきの人だ……」
窓から見ていたウサギのような女性。
近くで見ると耳が長い違う種族にも見えてくる。
「なんだ、あのエゾリスの女を知っているのか?」
「リス……? いや、ウサギの獣人さんかなぁって思って気になっちゃって」
「エゾリスって種族だよ。
俺がワーウルフでお前がヒューマンって呼ばれるのと一緒だ。そのくらいわかるだろう」
うーん、いまいち伝わっている気がしない。
「フロックスは狼だよね?」
「なんだそれは? 俺はワーウルフの男で冒険者だ。あとはシルバーランクだな、他にあるか?」
「……ううん、なんでもないよ」
狼が禁句……なわけないよね。
これはもう、そういう種族なんだと割り切るしかない?
じゃあ逆にうさ……ラビット族みたいなものはいるのかと聞いてみる。
「なんだ? クロウは長耳がお好みか?
まだ小さいってのに、とんだマセガキだぜ」
「いやいや、気になっただけだし!
それに僕は猫派だからねっ!」
「ねこは……は、よくわかんねぇけど、やっぱ意味わかってんじゃねーか。
十年はえぇっての」
ケラケラと笑うフロックスに、この世界に来て初めて軽い殺意を抱いた瞬間だった……
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