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腕はまた生えてくるのです?

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「ま……魔族っ?!」
 あまりの突然すぎる登場に、僕は声を上げて驚いてしまう。
 以前会った妖美な雰囲気の女性とは違い、執事でもしていそうな黒衣装の男の魔族。

「ドミノ様っ! 助けに来てくれたのですねっ!」
 拘束されている男は、その魔族の登場に大変喜んでいる。
 魔族とつながりがあることを自白しているわけなのだが、これは随分とまずいことになっている気がしてしまう……

「そうです、救って差し上げるのですよ。
 まずは、貴方のそのくだらない悩みを消し去ってあげましょう」
 ドミノと呼ばれた魔族の男は、手をスッと差し出すと、冒険者の足元に魔法陣を浮かび上がらせた。
 僕が転移させられたのと同じような、淡い光を放つものではあるが、大きさは人一人を包み込むものだ。

「がぁぁっ?! な、なにを……ドミノ……様っ!」
 急に冒険者は苦しみだし、異形の形へと作り替えられていく。
 ボコボコと体内で何かが暴れているような。
 寄生虫にでも侵されているのか、目からは何匹もの虫が……うげっ……

「グ……ヴォォォ……ドミ゛ノ゛ォォ……」
 異形の何かに変わった冒険者を見て楽し気に笑う魔人。
 目線を僕たちへと向けると、今度はこちらに向けてスッと手を差し出している。

「悩むのならば、何も考えなければいいのです。魔物たちのようにね……
 君たちもあまり余計なことに首を突っ込むと、こんな風に後悔することになるのですよ。
 では、消えてもらいましょうか……」
 このまま黙って見ていれば、僕たちも同じようにされてしまうのか?
 だがしかし、そんなことを甘んじて受け入れるつもりなんて毛頭ない!

「……させるかっ!」
 魔法陣発動までは、少しの間がある。
 前回の僕は、驚きのあまり足が動かなかったのだが、今度はそうはさせない。
 僕の高いステータスで、全力で駆け寄って間合いを詰めていく。

「ほぉ……素晴らしい動きだ少年。
 少しだけ遊びたくなってしまうじゃないか……」
「うるさいっ!」ブンッ……ガツッ!
 近付いて、僕は思い切り剣を振り切ったが、魔人はそれを両の手で軽く防御してしまった。
 生身なのに、魔人だと鉄の鎧並みの硬い皮膚を持っているのか?

「なかなか強いね……じゃあ私もお返しにっ!」
 魔人は右手を高く上げ、宙に魔法陣が浮かび上がる。
 技によって発動時間は違うようで、氷がいくつも撃ちだされてきたそれは、ごく短時間で作られたものだった。
「たっ、盾っ!」
 ガガガッと衝撃が伝わってくる。
 それでもなんとか堪えることはできるので、次こそと思い僕は右手にタバスコ爆弾を構えていた。

「ふふっ、甘いね」「クロウっ危ないっ!!」
 盾ごしに聞こえる魔人の声。叫ぶヤエ。
 次の瞬間、僕の背中には強い衝撃が走っていた。
 魔人はもう一つ魔法陣を作り出し、盾では防げない僕の背中を狙っていたのだ。

 まるでバットで叩かれたような衝撃だ。
 一瞬呼吸が止まり、地に伏したまま動けなくなってしまう。
 考えもうまくまとまらず、次はどうしたらいいのだろうかと困惑してしまった。

「てめぇっ! クロウから離れろっ!」
 フロックスが剣を抜いて走ってくる。
「遅いよ、せっかく楽しい戦いをしているのだから水を差すのは良くないよねぇ」
 魔人は近くに転がっている石を手に取って、ただ投げつけた。
 魔法や技術など関係なく、投げた石がフロックスの腹に当たり、そのままうずくまってしまった。

「クロウというのか、君は面白い力を使うんだね。
 実験のために持ち帰っちゃおうかなぁ?」
 クスクスと魔人が笑うが、今の僕には抵抗することは難しいみたいだ……

 もうダメか……そう諦めかけていた。
 スッと僕の頭に手を近づける魔人。
 だが、まだ諦めていない者もいた。
 サクアとヤエである。

 ヒュッと頭上を何かが通る。
 それは魔人の手首から先を消し飛ばし、あまりの出来事に魔人も不思議そうな表情を浮かべている。
「聖属性が弱点よ、あの手さえ使わせなかったらあの変な魔法は使えないはずっ!」
 黒いローブの女が的確な指示を出し、小さな獣人が高威力の魔法を放つ。
 そんなことがありえていいものかと、きっと魔人も思っただろう。

「なんなんだ? 貴様らは……」
 魔人の目つきが変わる。
 身の危険を感じるというよりは、思い通りに事が進まない苛立ちに近い感情であったのだろう。

「大丈夫、落ち着いて狙えば当てられるわ。
 相手は魔人……クロウを助けると思って殺すつもりで撃って!」
「う、うん……私だってクロウを助けたいもんっ!」
 再び放たれた聖属性魔法が魔人のもう一方の腕を吹っ飛ばす。
 サクアが教えてあげたのだろうか?
 出力は小さいが、確実に魔族が嫌がっているのを感じる。

「ちっ、分が悪くなってきたな……
 ただの獣人風情が……エゾリスのクソガキめ、覚えたぞ!
 ……ん? エゾリス……ははっ、そうか。あのゴミが生んだ失敗作か、ウノのやつに教えたら面白いことになりそうだっ」
 腕を失ったというのに笑いが止まらない様子の魔人は、どこか満足げに宙へと舞って消えてしまう。

 命は助かった? それともまた襲ってくるのか?
 ズルズルと動いてどこかへ向かっていく異形の魔物を見ながら、僕たちは茫然とその場で立ち尽くしていたのだった……
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