【未完】ファミレス転生 〜デザートはケモノ成分大盛りで〜

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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これは……倒した方が良かったのです?

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「クロウには常識なんて通じないってことはよくわかったよ……」
 フロックスが僕にそんなことを言う。

「キューキュー……」
 不安そうに鳴くフェレット。キメラは多分実験で付けられた名前だろうから、本当の名前はなんなのだろうか?
 僕は、そんなフェレットを腕に抱いでいた。

「だって、どう考えても操られていたっぽいし、殺すの可哀想じゃん」
「そうだよ、フロックスは残酷だよぉ」
 ヤエまで、僕に続いてフロックスを責めている。
 それも仕方がない。フロックスは剣を抜いて、罪のないフェレットに斬りかかっていたのだから。

「いやいや、どう考えても俺たちが殺されるところだったじゃねぇか!」
「でもクロウが捕まえちゃったのよね、ふふっ……」
「ったく……もういいさ別に……」
 ムキになっているフロックスだが、サクアに笑われて黙ってしまう。
 僕もまさか、簡単に捕獲できた上に、首輪も普通に壊れるものだとは思わなかった。

 確かに動きはすばしっこく、勢いよく突撃してきたので僕は驚いてしまう。
 だが、目の前に出現させた鍋のフタに思い切り頭を打って、フェレットの動きは止まってしまったのだ。
 脳震盪でもおこして気絶してしまったのだろう。
 僕は、操られている元凶っぽい首輪が壊れないかと思い、失神しているフェレットの首元目掛けて剣を突き立てた。

 パキッ……とアッサリ割れてしまって、とりあえずは様子を見てみようと思っう。
「何を躊躇しているのだっ、早く殺してしまえっ!」
 まぁ、そんな風にのんびりと眺めていたものだから、剣を向けたフロックスが言ったのだ。
 僕はフェレットを庇ってフロックスの前に立つ。
 何をしているのかと言われるのは覚悟で、それでも殺す必要はないと思ってしまった。

「キャッ……」
 ヤエが軽い悲鳴をあげる。
「お、おい……クロウ、大丈夫か?」
「え? どうかした?」
 何かあったのだろうかと思い聞いてみると、ちょいちょいと後ろを指差すフロックス。

「シャーッ!」
 気付いたら、僕は足首を噛みつかれていたみたいだった。
 全然痛くないのだけど、防御力を鍛えた賜物だろうか?
 まぁでも、噛まれたのが僕でよかった。気付かなかったけれど、いつの間に意識を取り戻したのだろう?
 後はもう首根っこつまんで、身動きが取れないようにギュッと抱きしめていただけである。

「ふんっ……威勢だけは良かったが、呆気ないもんだな。
 おいキメラッ、どこに行った!」
 何も知らないアルビナ司教が、暗い部屋に入ってくる。

 後ろにもう一人、誰かがいるみたいだ。
 僕たちは身を潜めて様子を見ていたが、そのまさかの登場人物に驚きを隠せないでいる。
「そんな……セドリック様……」
 最も驚いていたのがサクア。
 そんな感情は微塵も見せておらず、サクアに対しても悪い感情は持っていなかったそうなのだが。

 もしかして無関心であり、目的はまた全然違うところにあったために、サクアもセドリック大司教の感情が正しく読めていなかったのでは……?
 そんな風にさえ思ってしまうほど、やってきたセドリック大司教は冷たい表情をしていたのだ。

「おや、どういうことですかアルビナ司教。
 全員生きているではありませんか」
「なっ、どういうことだ⁈
 B級冒険者並の力を持つキメラから逃れられるはずが……」
 司教たちの姿を見たフェレットは、僕の腕の中で興奮して身体に力が入っていた。

 それに、僕たちはすぐに二人を取り押さえてやろうと思っていたのだが、驚きのあまり動けないでいた。
 冷静すぎるセドリック大司教に対し、ある種の恐怖みたいなものをかんじてしまっていたのだ。

「ふむ、つまりこの者たちはキメラでは対処できないと仰るわけですね。
 ……まぁいいでしょう。後始末はしなくてはいけませんね、アルビナ司教」
 セドリック大司教は踵を返し、通路の奥へと消えていってしまった。
 アルビナ司教さえもセドリック大司教の行動は予想外だったようで、その表情には焦りが感じられていた。
「そ、そんな……
 くそぅっ、こうなったらドミノ様よりいただいた秘薬を!」

 アルビナ司教の取り出したのは、一つの小瓶。
 グイッと飲み干すと、『この力で貴様らを屠ってやろうぞ……』と言って帯刀していた小刀を手に握っていた。
 ドミノ……というと、先程出会った魔人のことだ。
 やはり教会と魔人はつながりが……と思った途端に、アルビナ司教の身体に変化が起きる。
「なんだ……こんなことは聞いて……ぐ、ぐがァァァ……ふざける、な……」
 本人も想定外の出来事だったようで、自身の変わっていく姿が信じられないようだ。

 とてつもない力を感じるとかではない。
 ただただ異形の何かに変化していく様は不気味で仕方がなかった。
 ヤエもサクアも完全に怯えてしまい、戦える雰囲気ではない。
 こうなったら、とっ捕まえて……くらいにしか考えていなかったのに、姿は完全に魔物のそれなのだから……

 フロックスも剣を抜き、僕もとにかくここからの脱出を試みる。
 見た目が魔物でも、元は人間なのだ。殺してしまっていいものか悩んでしまう。
「来るぞっ!」
 アルビナ司教は、その変化してだらんと伸びた腕を振り回す。
 部屋の中の物など、どれだけ壊れようとお構いなしの攻撃だ。

 もはや理性など無いようにも思えてしまう。
 それに、確かに破壊力はとんでもないが、大振りの攻撃は隙だらけで逃げるのはそう難しくはなさそうだ……が。
「僕たちが足止めするから、二人は先に外へっ!」
 すぐにスキルを使って、足元を冷たい液体で凍らせる。
 サイの魔物でも効果を発揮した液体だが、これは何かと便利なスキルだ……

「出てこい盾っ! 今のうちだよっ!」
 動きは止めた、腕の攻撃は盾で防いだ。
 隙間を掻い潜ってヤエとサクアが通路へと向かい、僕とフロックスも後をつづいた。
 倒そうかとも思ったのだけど、人に戻る可能性もあるのに殺してしまうのも嫌なのだ。

「でも、完全にバレちゃったし……」
「仕方ねぇよ。夜明けと同時に街を出てしまおう……」
 4人揃って外に出ると、すでにそこにはセドリック大司教の姿はない。
 裏口から外に出て、僕たちは荷物をまとめるために宿へと戻っていったのだった。
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