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動きが人間ではないのです
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荷物はまとめた、魔物の素材は持てるだけ持った。
ともかく、この街を錚々に立ち去ってしまおう。
まだ夜が明けない内から、僕たちは馬車の元へと駆けて行った。
「連れてきちゃったけど、大丈夫なのかな?」
僕の腕の中には一匹のフェレットがいたのだが、意外にも大人しく特に暴れる様子はない。
「いいんじゃねぇか?
どこかの森の近くに寄ったら、逃してやればいいだろう」
フロックスが馬を繋ぎ止めていた綱を外していると、腕の中からシュルリと抜け出して馬車に乗り込むフェレット。
まるで僕たちの行動を理解しているようだ。
だが、僕たちも馬車に乗り込んでいざ……となった時に、教会の方がやたらと騒ついていたのに気付いてしまった。
「しまった……もしかしてアイツ、元の姿に戻れないなんて事ないよね……」
僕は不安を口にする。
ウガーとかなんとか叫んでいたのだ。
魔人から貰った薬で、何事もなく平穏に終わるとも思えない。
遠くから人間のものとは思えない咆哮も聞こえてきて、ヤエは怯えてしまっていた。
最初から魔物だったものとは違い、人が醜い姿に変化したのだ。
意味もわからないし、正直僕だって気持ち悪いとさえ思う。
「どうする、クロウ?」
「放って……おけないよね」
教会から出てきて街で暴れているとしたら……
そう考えると黙って街を出ていくわけにはいかなかった。
自分の身を守るのなら、街を見捨てて出ていくべきなのだろう。
現に、周りでは大慌てて門へと駆けていく冒険者の姿も見えるのだから……
サクアはセドリックの姿を見てから、どこか意識がここにはないような様子。
きっと信じていたのだろう、あの男を。
何が目的だったのかは知らないが、とにかく今は……
「僕とフロックスでアイツを止めてくる!
二人は宿に戻って身を隠してて!」
「ちっ、やっぱり俺も行くのかよっ!」
「当たり前でしょ、いい大人なんだから!」
「ったく、こんな時だけ大人扱いしやがって……」
フロックスは一度外した綱を軽く結び直すと、すぐに僕の後についてきた。
大勢の人が逃げ回り、遠くでは建物の壊れる音も聞こえてくる。
教会内部の人もいるようだ、白い衣装に身を包んだ同じ装いの集団もどこかへ向かって走っている。
「見えたぞっ!」
「う、うん……なんか大きくなってない?」
こんな事になるのなら、危険でもあの時に始末するべきだったのか?
だが、異形のものになったとしても元は人間だ。
戦うなんて、とてもじゃないが考える気にはなれなかった。
だが、今目の前にいるアレはなんだ?
教会の壁を壊し、目の前の民家を破壊しているのは魔物以外の何者でもないではないか。
そう思うと、僕はスッと気持ちが落ち着いたようにも感じられてしまった。
「……倒すよフロックス」
「お、おう……」
まずはタバスコ爆弾で意識をこちらに向けてもらうことにしよう。
右手にスッと取り出した三本の小瓶を、僕は力強く魔物に向かって投げつける。
そうだな、アレのことは新種の魔物『アルビーナ=シキョー』とでも呼んでおけばいいか。
身体に命中し爆発すると、逃げ遅れていた街の人たちも驚いていた。
だが、おかげでアルビーナは僕の方を向いて破壊活動は収まったようだ。
「俺は背後から足元を狙うっ、こんなことを言うのは恥ずかしいが……ヤバかったら助けてくれ!」
「当たり前だよっ、威勢だけ良いプライドの塊みたいな冒険者よりもやり易くて嬉しいくらいだっ!」
「ハハッ……ったく、ぜってぇに年齢誤魔化してるだろお前は」
「……そうだねっ、まぁそんな事は後でいいじゃん!」
僕はさらに三本の爆弾をアルビーナに浴びせ、続け様に接近してドリンクバーで急所を狙い撃つ。
少しだけ膨らんだ股の間を攻撃すれば、きっと僕のスキルでも多少のダメージは与えられるだろう。
「ウグァァァ……」
低い唸り声をあげ、僕のことを睨みつけるアルビーナ。
一瞬の間をおくと、足元にいたフロックスまでも睨み付けて暴れだす。
そちらは攻撃させやしないっ!
予め予測していれば対応も早い。すぐに盾を出現させ、フロックスを庇う。
「た、助かったぜ」
「ううん、それよりも……」
そう、思った以上に硬い。
盾で防げば攻撃はどうにかなるが、やはりヤエの魔法が必要か……
とにかく僕とフロックスは足元を狙い続けた。
そうして暴れている内に街の衛兵もやってきたのだが、恐ろしくて周りを囲むのが精一杯のようだ。
「な、なんだこの動物はっ!」
背後で衛兵の一人が叫んでいる。
何事かと思って目をやると、あのフェレットが衛兵の腰に着けていた剣を奪い取っていたのだ。
しかもそのままこちらに走ってくる。
すごい勢いで……
僕には噛みつきでは効果が無かったから、今度は剣で攻撃を……?
フェレットは剣を口に加えたまま大跳躍。身を捻らせて勢いを増したまま……
「クロウッ!」
ハッと意識をアルビーナに戻すと、その腕は今にも僕の顔に当たりそうな……
「いてっ!」
当たった……のだが、何か変である。
そのまま腕は地面に落ち毒々しい煙と共に消えていく。
「フーッ、フーッ!」
足元にいる剣を持ったフェレット。
その様子から僕を守ってくれたのだと理解するのは早かった。
「恨みでもあるなら……手伝うよっ!」
改めて僕も戦闘に加わると、アルビーナを倒すのにはそれほど時間はかからなかったのだった。
ともかく、この街を錚々に立ち去ってしまおう。
まだ夜が明けない内から、僕たちは馬車の元へと駆けて行った。
「連れてきちゃったけど、大丈夫なのかな?」
僕の腕の中には一匹のフェレットがいたのだが、意外にも大人しく特に暴れる様子はない。
「いいんじゃねぇか?
どこかの森の近くに寄ったら、逃してやればいいだろう」
フロックスが馬を繋ぎ止めていた綱を外していると、腕の中からシュルリと抜け出して馬車に乗り込むフェレット。
まるで僕たちの行動を理解しているようだ。
だが、僕たちも馬車に乗り込んでいざ……となった時に、教会の方がやたらと騒ついていたのに気付いてしまった。
「しまった……もしかしてアイツ、元の姿に戻れないなんて事ないよね……」
僕は不安を口にする。
ウガーとかなんとか叫んでいたのだ。
魔人から貰った薬で、何事もなく平穏に終わるとも思えない。
遠くから人間のものとは思えない咆哮も聞こえてきて、ヤエは怯えてしまっていた。
最初から魔物だったものとは違い、人が醜い姿に変化したのだ。
意味もわからないし、正直僕だって気持ち悪いとさえ思う。
「どうする、クロウ?」
「放って……おけないよね」
教会から出てきて街で暴れているとしたら……
そう考えると黙って街を出ていくわけにはいかなかった。
自分の身を守るのなら、街を見捨てて出ていくべきなのだろう。
現に、周りでは大慌てて門へと駆けていく冒険者の姿も見えるのだから……
サクアはセドリックの姿を見てから、どこか意識がここにはないような様子。
きっと信じていたのだろう、あの男を。
何が目的だったのかは知らないが、とにかく今は……
「僕とフロックスでアイツを止めてくる!
二人は宿に戻って身を隠してて!」
「ちっ、やっぱり俺も行くのかよっ!」
「当たり前でしょ、いい大人なんだから!」
「ったく、こんな時だけ大人扱いしやがって……」
フロックスは一度外した綱を軽く結び直すと、すぐに僕の後についてきた。
大勢の人が逃げ回り、遠くでは建物の壊れる音も聞こえてくる。
教会内部の人もいるようだ、白い衣装に身を包んだ同じ装いの集団もどこかへ向かって走っている。
「見えたぞっ!」
「う、うん……なんか大きくなってない?」
こんな事になるのなら、危険でもあの時に始末するべきだったのか?
だが、異形のものになったとしても元は人間だ。
戦うなんて、とてもじゃないが考える気にはなれなかった。
だが、今目の前にいるアレはなんだ?
教会の壁を壊し、目の前の民家を破壊しているのは魔物以外の何者でもないではないか。
そう思うと、僕はスッと気持ちが落ち着いたようにも感じられてしまった。
「……倒すよフロックス」
「お、おう……」
まずはタバスコ爆弾で意識をこちらに向けてもらうことにしよう。
右手にスッと取り出した三本の小瓶を、僕は力強く魔物に向かって投げつける。
そうだな、アレのことは新種の魔物『アルビーナ=シキョー』とでも呼んでおけばいいか。
身体に命中し爆発すると、逃げ遅れていた街の人たちも驚いていた。
だが、おかげでアルビーナは僕の方を向いて破壊活動は収まったようだ。
「俺は背後から足元を狙うっ、こんなことを言うのは恥ずかしいが……ヤバかったら助けてくれ!」
「当たり前だよっ、威勢だけ良いプライドの塊みたいな冒険者よりもやり易くて嬉しいくらいだっ!」
「ハハッ……ったく、ぜってぇに年齢誤魔化してるだろお前は」
「……そうだねっ、まぁそんな事は後でいいじゃん!」
僕はさらに三本の爆弾をアルビーナに浴びせ、続け様に接近してドリンクバーで急所を狙い撃つ。
少しだけ膨らんだ股の間を攻撃すれば、きっと僕のスキルでも多少のダメージは与えられるだろう。
「ウグァァァ……」
低い唸り声をあげ、僕のことを睨みつけるアルビーナ。
一瞬の間をおくと、足元にいたフロックスまでも睨み付けて暴れだす。
そちらは攻撃させやしないっ!
予め予測していれば対応も早い。すぐに盾を出現させ、フロックスを庇う。
「た、助かったぜ」
「ううん、それよりも……」
そう、思った以上に硬い。
盾で防げば攻撃はどうにかなるが、やはりヤエの魔法が必要か……
とにかく僕とフロックスは足元を狙い続けた。
そうして暴れている内に街の衛兵もやってきたのだが、恐ろしくて周りを囲むのが精一杯のようだ。
「な、なんだこの動物はっ!」
背後で衛兵の一人が叫んでいる。
何事かと思って目をやると、あのフェレットが衛兵の腰に着けていた剣を奪い取っていたのだ。
しかもそのままこちらに走ってくる。
すごい勢いで……
僕には噛みつきでは効果が無かったから、今度は剣で攻撃を……?
フェレットは剣を口に加えたまま大跳躍。身を捻らせて勢いを増したまま……
「クロウッ!」
ハッと意識をアルビーナに戻すと、その腕は今にも僕の顔に当たりそうな……
「いてっ!」
当たった……のだが、何か変である。
そのまま腕は地面に落ち毒々しい煙と共に消えていく。
「フーッ、フーッ!」
足元にいる剣を持ったフェレット。
その様子から僕を守ってくれたのだと理解するのは早かった。
「恨みでもあるなら……手伝うよっ!」
改めて僕も戦闘に加わると、アルビーナを倒すのにはそれほど時間はかからなかったのだった。
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