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確かに怪しいのです
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冒険者ギルド内、ギルド長の男は神妙な面持ちで僕たちを見つめている。
別に睨まれているわけじゃない。
教会から出てきた魔物を退治しただけで、悪いことなど一つも行っていないのだから……
だが、どうしてだろうか?
なぜギルド長の視線が怖く感じられてしまうのだろうか?
「君たちがあの魔物を片付けてくれたことは、周りの者からの聞いたという調書を読めば分かる。
だが、私は一つ腑に落ちんことがあるのだよ……」
非常に低い声で、ギルド長が話し始めた。
机の上には、街の人たちから聞いたのであろうメモが書きなぐられている。
「それは一体、何のことでしょうか?」
毅然とした態度でフロックスが問う。
僕たちは特に怪しい行動をとった覚えはない。
そう思っていたのだが……
「まず、そもそも何故戦いに赴いたのだ?
待てば我々が討伐隊を組んで向かうだろうとは考えなかったのだろうか?
話では形勢が好転したのは、その……なんだ、その少年の従えている魔物が来たからだと聞いている。
足止めのためだけに、命を危険を晒すなど愚の骨頂。ましてや、自分たちは死ぬはずがないなどと考えているわけでもあるまい?」
長いっ!
要するにメリットもないのに戦う理由がわからないと言いたいだけだろうに。
「街の人たちが危険だと思ったから剣を握っただけですっ!
それとも、ギルド長さんは街の人の命なんてどうでもいいって言うのですか?」
少しだけ腹が立ち、僕が感情のままに言い返してやった。
フェレットも膝の上でビクッとはしていたが、僕が喋っていることを理解しているのか、すぐに落ち着いて身体を丸めている。
さすがに僕みたいな子供に言われるとは思わなかったのだろう。
ギルド長も驚いた表情で僕を見ている。
「……あ、いやそうだな。
冒険者たるもの、時には危機に立ち向かわねばならぬ時もある。
あまりにも逃げ隠れた冒険者どもが多い中で、何故君のような少年のいる者たちが……と気になっていたのだよ」
長い……もっと簡潔に、こうズバッと『なるほどな!』とかでもいいからっ。
ヤエなんか、意味もわからずに眠たそうにしちゃってるじゃないか。
「ま、まぁ俺たちは特に理由があって魔物退治をしたわけじゃない。
それよりも、教会から出てきたって話なんだが、ギルド長さんは何か知らないのか?」
フロックスもまた白々しいことを。
でもまぁ、これで教会が怪しいことをしていたのは公にできたわけだし、ちょっとくらい利用させてもらってもいいよね?
「う、うむ……それのことなんだが……
いや、教会部外者に話してよいものか……」
何故か言い淀むギルド長。
額に手を当て俯かれてしまっては、僕だって反応に困ってしまう。
「噂だけでしたら僕たちも耳にしていますよ?
なんでも地下で怪しい実験をしているんじゃないかって」
少し言い出しやすい雰囲気を作ってあげよう。
そうすれば……
「えぇそうよ、奴隷だって何人も運ばれてきていたわ。
何か知っているんじゃなくて?」
サクアさん? ちょっと不用意な発言は……
「えっと……ローブの貴女は何か知ってらっしゃるようで……?」
「私のことはいいのよ、教会は何の実験をしていたのか教えてほしいの」
サクアが前に出てしまったせいで、ギルド長が再び訝しげな表情を見せているじゃないか。
「まぁいい……一介の冒険者がそこまで知っているのなら、もはや隠しても無駄だということだろう。
確かに教会へは何人もの奴隷が連れ込まれている。
わざわざ深夜に……だ。
人族の者は砂漠の方で労働を強いられていると聞くが、それ以上に問題なのは獣人族の方だ」
まぁた長い話が始まったよ。
とりあえず口を挟める感じじゃないし、黙って聞いておこう……
獣人族の奴隷たちは、確かに教会で働かされているそうだが、そこで見るのは不思議なことに全員が一定以上の年齢ばかりなのだと言う。
連れて行かれた中には幼い者もいたはずだというのに、だ。
つまり、小さな子供の獣人だけを地下に連れて行き、何かしらの実験を行い監禁しているのではないか。
そう思って近いうちに探りを入れるつもりだった。
「つもりだったのだ……しかし先ほど教皇は遺体で見つかり、実験室だったであろう場所は黒こげで何も手掛かりは見つからなかった。
始末されたかどこかへ連れて行かれたのか……」
ギルド長は、急にスッと立ち上がる。
『少しばかり喋りすぎたな。忘れてくれ……』と、棚に飾られた置物を触りながら言うのだ。その最後のセリフは少しカッコいいな。
「わかった、俺たちも別に教会に楯突こうってわけじゃねーんだ。すまなかった」
「ちょっとフロックス!」
どうにかしたいという気持ちが強いのだろう。
サクアは納得いかない様子。
「いーんだよ、この件にはそれ以上首を突っ込むな!」
すぐにフロックスから強い口調で言われてしまい、サクアも口を開いたまま黙ってしまった。
迂闊に関われば、ここにいる全員が目をつけられる。
教皇の遺体は『見つかった』という言い方から、おそらく死因もわかっていないんじゃないか。
その犯人にでもされたらたまったもんじゃないし、ここは街を出てしまうのが一番。
それも少し落ち着いてから……の方が良さそうだな。
「今は出入りをしている者たちを中心に身辺調査などをさせてもらっている。
街を救ってもらった君たちに失礼なことは言いたくないが、幻獣姫様、それに教皇と続いて、行方不明も数多い。
大司教セドリックにその部下。ちょうど焼け焦げた地下のある塔にいた者だ」
うん。長いのはわかったのだが、このギルド長、機密事項っぽいこともポロポロ発言してないか?
つまりは、僕たちも必要とあらばその身を証明できるものを、つまりギルドカードなどの提示をしなくてはならないというわけだ。
死んだはずの幻獣姫様はここにいるし、僕はどこか遠い地の少年。その少年が御主人様の獣人と保護者的存在唯一のまともフロックス。
あとは使役している魔物という設定だが、キメラと呼ばれていたフェレットが一匹。
僕たちは少しばかりの謝礼をいただいて解放され、宿に戻ると頭を抱えて悩んでしまうのだった。
あ、今もサクアは一人不満げにしています……
別に睨まれているわけじゃない。
教会から出てきた魔物を退治しただけで、悪いことなど一つも行っていないのだから……
だが、どうしてだろうか?
なぜギルド長の視線が怖く感じられてしまうのだろうか?
「君たちがあの魔物を片付けてくれたことは、周りの者からの聞いたという調書を読めば分かる。
だが、私は一つ腑に落ちんことがあるのだよ……」
非常に低い声で、ギルド長が話し始めた。
机の上には、街の人たちから聞いたのであろうメモが書きなぐられている。
「それは一体、何のことでしょうか?」
毅然とした態度でフロックスが問う。
僕たちは特に怪しい行動をとった覚えはない。
そう思っていたのだが……
「まず、そもそも何故戦いに赴いたのだ?
待てば我々が討伐隊を組んで向かうだろうとは考えなかったのだろうか?
話では形勢が好転したのは、その……なんだ、その少年の従えている魔物が来たからだと聞いている。
足止めのためだけに、命を危険を晒すなど愚の骨頂。ましてや、自分たちは死ぬはずがないなどと考えているわけでもあるまい?」
長いっ!
要するにメリットもないのに戦う理由がわからないと言いたいだけだろうに。
「街の人たちが危険だと思ったから剣を握っただけですっ!
それとも、ギルド長さんは街の人の命なんてどうでもいいって言うのですか?」
少しだけ腹が立ち、僕が感情のままに言い返してやった。
フェレットも膝の上でビクッとはしていたが、僕が喋っていることを理解しているのか、すぐに落ち着いて身体を丸めている。
さすがに僕みたいな子供に言われるとは思わなかったのだろう。
ギルド長も驚いた表情で僕を見ている。
「……あ、いやそうだな。
冒険者たるもの、時には危機に立ち向かわねばならぬ時もある。
あまりにも逃げ隠れた冒険者どもが多い中で、何故君のような少年のいる者たちが……と気になっていたのだよ」
長い……もっと簡潔に、こうズバッと『なるほどな!』とかでもいいからっ。
ヤエなんか、意味もわからずに眠たそうにしちゃってるじゃないか。
「ま、まぁ俺たちは特に理由があって魔物退治をしたわけじゃない。
それよりも、教会から出てきたって話なんだが、ギルド長さんは何か知らないのか?」
フロックスもまた白々しいことを。
でもまぁ、これで教会が怪しいことをしていたのは公にできたわけだし、ちょっとくらい利用させてもらってもいいよね?
「う、うむ……それのことなんだが……
いや、教会部外者に話してよいものか……」
何故か言い淀むギルド長。
額に手を当て俯かれてしまっては、僕だって反応に困ってしまう。
「噂だけでしたら僕たちも耳にしていますよ?
なんでも地下で怪しい実験をしているんじゃないかって」
少し言い出しやすい雰囲気を作ってあげよう。
そうすれば……
「えぇそうよ、奴隷だって何人も運ばれてきていたわ。
何か知っているんじゃなくて?」
サクアさん? ちょっと不用意な発言は……
「えっと……ローブの貴女は何か知ってらっしゃるようで……?」
「私のことはいいのよ、教会は何の実験をしていたのか教えてほしいの」
サクアが前に出てしまったせいで、ギルド長が再び訝しげな表情を見せているじゃないか。
「まぁいい……一介の冒険者がそこまで知っているのなら、もはや隠しても無駄だということだろう。
確かに教会へは何人もの奴隷が連れ込まれている。
わざわざ深夜に……だ。
人族の者は砂漠の方で労働を強いられていると聞くが、それ以上に問題なのは獣人族の方だ」
まぁた長い話が始まったよ。
とりあえず口を挟める感じじゃないし、黙って聞いておこう……
獣人族の奴隷たちは、確かに教会で働かされているそうだが、そこで見るのは不思議なことに全員が一定以上の年齢ばかりなのだと言う。
連れて行かれた中には幼い者もいたはずだというのに、だ。
つまり、小さな子供の獣人だけを地下に連れて行き、何かしらの実験を行い監禁しているのではないか。
そう思って近いうちに探りを入れるつもりだった。
「つもりだったのだ……しかし先ほど教皇は遺体で見つかり、実験室だったであろう場所は黒こげで何も手掛かりは見つからなかった。
始末されたかどこかへ連れて行かれたのか……」
ギルド長は、急にスッと立ち上がる。
『少しばかり喋りすぎたな。忘れてくれ……』と、棚に飾られた置物を触りながら言うのだ。その最後のセリフは少しカッコいいな。
「わかった、俺たちも別に教会に楯突こうってわけじゃねーんだ。すまなかった」
「ちょっとフロックス!」
どうにかしたいという気持ちが強いのだろう。
サクアは納得いかない様子。
「いーんだよ、この件にはそれ以上首を突っ込むな!」
すぐにフロックスから強い口調で言われてしまい、サクアも口を開いたまま黙ってしまった。
迂闊に関われば、ここにいる全員が目をつけられる。
教皇の遺体は『見つかった』という言い方から、おそらく死因もわかっていないんじゃないか。
その犯人にでもされたらたまったもんじゃないし、ここは街を出てしまうのが一番。
それも少し落ち着いてから……の方が良さそうだな。
「今は出入りをしている者たちを中心に身辺調査などをさせてもらっている。
街を救ってもらった君たちに失礼なことは言いたくないが、幻獣姫様、それに教皇と続いて、行方不明も数多い。
大司教セドリックにその部下。ちょうど焼け焦げた地下のある塔にいた者だ」
うん。長いのはわかったのだが、このギルド長、機密事項っぽいこともポロポロ発言してないか?
つまりは、僕たちも必要とあらばその身を証明できるものを、つまりギルドカードなどの提示をしなくてはならないというわけだ。
死んだはずの幻獣姫様はここにいるし、僕はどこか遠い地の少年。その少年が御主人様の獣人と保護者的存在唯一のまともフロックス。
あとは使役している魔物という設定だが、キメラと呼ばれていたフェレットが一匹。
僕たちは少しばかりの謝礼をいただいて解放され、宿に戻ると頭を抱えて悩んでしまうのだった。
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