【未完】ファミレス転生 〜デザートはケモノ成分大盛りで〜

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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街を出るのです……

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 ガルムの聖地ではその後もしばらく滞在していた。
 後始末やらなんやらと教会が騒がしかったこともあるのだが、それ以上に教皇の死が街に混乱をもたらしていたのだ。

 特に奴隷市に顔を出していた者を中心に調査もされていたのだが、その理由が教皇の私室から出てきたという書類の束らしい。
 僕とフロックスも、その紙に書かれていたものだから、ギルド長に呼び出されて再び部屋で顔を合わせている。

「で、クロウ君に確認なのだが、その少女が奴隷売買で引き取った者で間違いないのだな?
 嘘をついているとは思いたくないが、健康状態はすこぶる良さそうだな。それ以外はまぁ……特徴は一致しているか」

 ここ数ヶ月で取引された奴隷が、今どうなっているのかを確認しているそうだ。
 既に教皇に言われて受け渡してしまった者もいて、その人数は両の手では数えられないほどだとギルド長は言っていた。

「ヤエは僕の持ってたポーションが効いたみたいで、だからそんなに具合が悪そうに見えないんだと……」
「ポーション? 魔力暴走で引き起こしたのは肺水腫だろう?
 そんなもので治療できるとは思えんが……まぁいい、疑いだしたらキリがない。
 それより、昨日のフード娘はどうしたんだ?
 キャンキャン噛み付いてきていたが、アイツもお前たちの仲間だろう?」

 パサッ……と書類をテーブルに置き、ギルド長は立ち上がる。
 そのまま後ろの棚に向かって行き、なにかを取り出しているようだ。
「えっと、あの子なら今日はキュー助と一緒に宿で待っててもらってます。
 ギルド長の迷惑にもなると思ったので……」

 ギルド長が、布に包まれた何かを取り出して、それもまたテーブルへと。
「わかった、少年が口裏を合わせているとは誰も思わんだろう。
 今回はそういう事にしておく。俺たちも教会には少々思うところがあったのでな」

 布の中身は僕たちへ渡すものだそうだ。
 何とも言わず、ギルド長は早めに街を出ることを勧めてきた。
 どういうことかはわからないが、とにかくこの布の中身は開けないまま去る方が良いだろうと言うのだ。

「開けてみてもいいのですか?」
「いや、できれば人目につく可能性がある場所では開けない方がいい。
 この街の者なら、中身を見れば勘付いてしまう可能性もあるからな……」

 とにかく、荷物は受け取った。
 フロックスも訝しげな表情は浮かべていたが、だからといって口をはさむことはなかった。

 帰り際にギルド長が、『君も戻りたいと思うのかな?』なんて言って、さっぱり意味がわからない。
 僕たちはたったそれだけの用事でギルトを出てきたのだが、終始フロックスは喋らせてあたらなかった。

「なんだって俺じゃなくてクロウに聞くんだよ……」
「僕が子供だからでしょ?
 フロックスが喋ったら、いくらでも嘘つけちゃうからってことじゃないの?」
「いや、それはわかるんだが……なんつーか、既に事情を知っていそうだというか……」

 まぁとにかく、この布を開けたら何かが分かるのだろう。
「クロウさんは時々大人よりも大人っぽいです」
「ヤエも思うよなぁ。俺の予想だと、本当の年齢は30くらいだな」
「んー……まぁそれについては後でちゃんと話すよ……」

「ただいまぁー」
「なんだ、具合でも悪いのか?」
 宿に戻るとサクアはベッドに突っ伏している。
 キュー助は近くでこれまたくるまって寝ているようだ。

「べーつにー……
 私って何のために幻獣姫なんてやらされてたのかなぁーって……」
 そう言われればそうなんだよね。
 象徴のためだけに教会にいたんだけど、都合が悪くなったら殺そうとするし、半獣人というのが世間一般的に嫌われている種族なら、別の種族にすればよかっただろうに……

「いいじゃん、もう教会はギルド長がなんかするってさ。
 それより、そのギルド長が街を出た方が良いって言うからさ、すぐに出るよっ」
「えぇー……もうやだ、やる気ない……」
 ぐたー……っとされても困る、意図はわからないけど早く街を出たいのだ。

「フロックス、サクアをお願い。
 僕は荷物まとめて先にヤエと馬車に行ってるね」
「あぁ、任せとけ。
 後でクロウの秘密を教えてもらえるなら、なんでもやってやるぞ」
「もぅ、さっきからそればっかり!
 わかったってば、僕だってずっと黙ってるつもりなんてないから!」

 最近のフロックスはいつもこうだ。
 ヤエもサクアもいて、キメラと呼ばれてたフェレットまで仲間になってるし。
 これから先、旅をするなら言わなきゃならないことだってあると思っていたんだから……

「待たせたな。荷物はそれで全部だな?」
「うん、ギルド長からもらったやつもそこに置いてある」

 ヤエは僕の膝にちょこんと座り、向かいの席に荷物を一つ。
 あまり無意味に喋ることのないようにして、僕たちは門の方へと馬を歩ませ始めたのだった……
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