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気にしていたのです?
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日が沈み、それでも街には多くの灯りが煌めいている。
火の神サランドラは夜の街、市場とはまた違う雰囲気の屋台が立ち並び、さながら祭りのような雰囲気に包まれている。
「宿も見つかったし、少し見ていこうよっ!」
『こんな時間に子供ばかりで!』と言われそうな気もするが、ヤエもサクアも興味津々。
ここはもう行くしかないじゃん。
それと、フロックスに案内されたお店が、この中にあるらしいのだ。
どのみちご飯の支度もまだなのだし、せっかくならいろんな店で買い食いしてやるつもりだ。
「人が多いからな、あまり離れるなよ」
「大丈夫だよフロックス。
ヤエもサクアも、ちょっと力を使えばみんなの位置くらい分かるんだから」
「あ、いや今のはクロウに言ったんだが……」
「え……?」
クスクスと笑うヤエとサクア。
何をしでかすか分からない、変なものに興味を持つ、そして索敵などの力は一切無い。
だから僕が一番の心配なのだと、フロックスが真剣な表情をして言うのだ。
……酷くない?
言ったよね、僕は見た目通りの年齢じゃないってさ。
まぁいいや、こんな祭りみたいな場所、何度も行ったことがあるから。
迷うわけないんだから……
「あ、串焼き美味しそう……
なんか醤油の焦がしたみたいな香り……懐かしいなぁ……」
うん、もっと色々見たいけど、この香りの誘惑には敵わない。
「ねぇフロックス! ……って、あれ?」
振り返ると、そこには見知らぬ獣人たちばかり。
鹿? あれはー……熊。こっちはシマウマか。
いやいやそうではなくて、フロックスは? 狼はどこいった?
……やっちまった。
この先は二手に道が分かれているが、どちらに向かったのだろうか……
「キュッ!」
首に巻き付いていたキュー助が、トンと地面に飛び降りる。
キュッキュッと鳴きながら、僕を案内するかのように人混みをすり抜けて奥へと進む。
「まさかキュー助にまで心配されるとは……」
大きな足がいくつもあり、踏まれるんじゃないかとハラハラしながらも僕の目の前でキュー助は進む。
「おっと……」
「あ、すみませんっ……」
僕はキュー助ほど器用には人混みを避けられない。
魔物の動きが遅く感じるとか、そんなことができてもこれはまた違う。
頑張ってついていった先には、一本の木にもたれかかっているフロックスの姿が。
『キュッ』っと一鳴きしたキュー助は、再び僕の肩に飛び乗って、首に巻き付いてきたのだ。
うん……僕が一番心配になるわけだ……気をつけよう。
「二人はその店に入ってお茶してるぜ。
俺は入ったことねぇが、ここの団子が美味いって話だからな」
「ははは……ごめんフロックス……」
「……ぷふっ! いやしかし……
本当に言ったそばからはぐれるとはな」
馬鹿にされた、フロックスに馬鹿にされたよ。
僕もふてくされて店内に入った。
フロックスは甘いのはあまり食べる気が無いみたいで、待っているのだと。
「あっ、クロウこっちこっち!」
「んんーっ!」
入るなり、大きく手を振って僕を呼ぶヤエとサクアがいた。
食べながら喋るヤエはちょっと愛らしい。
赤い布の敷かれた長椅子に腰掛けて、あんこのようなものの付いた団子を口に。
お茶は緑茶かなにか。座るなり店員さんが持ってきてくれたが、普通に美味しかった。
「僕もお団子同じのを」
ヤエの加えている団子を指差して、店員さんに注文する。
「えっと……クシアンを1つでいいのでしょうか?」
「え? ……あぁ、うん。2つちょうだい」
クシアン……串に刺さったあん団子をそう呼ぶのか。
「かしこまりました、すぐにご用意いたします」
ミタラシ、ズンダ、カラミ……いやオロシ?
「どうしたの?」
周りの人が食べている団子を見ながら、つい考えに耽ってしまった。
「ううん、なんでもないよヤエ」
「そっか、良かった。
美味しいよこのクシアン」
ニコッと可愛らしく笑う姿がまた堪らない。
まるで妹に構ってるような気持ちになってしまう。
……あぁ、そういえば妹はどうしているのだろうなぁ。
ふと思い出して、少し悲しい気持ちになってしまう。
「お待たせいたしました」
「あっ、ありがとうございます」
団子の乗った皿を受け取って、僕はその一本を口元へと運ぶ。
さっきの醤油の焦がした香ばしい匂いも良かったが、たっぷりあんこの団子も美味しそうだ。
あーん……と口を開けて食べようと思ったところで……
『パクッ……ムグムグ……』
「……キュー助?」
4つ刺さった団子の2つが消えた。
ポカーンと呆けている僕をチラリと見て、再びキュー助が団子にパクリっ!
「キュッ!」
そうか……美味しいんだな。
いいよいいよ、ちゃんとキュー助の分も思って二本買っておいたんだから。
……嘘だけど。
「あー美味しかったー」
「サクア、お口にあんこ付いてるー」
「えっ、嘘っ?」
他にも色々とお店はあったが、団子を食べてお腹も落ち着いたせいか、食事処に寄るほどでもなくなってしまった。
ワイワイと騒ぎながら宿へと向かう道中に少しばかし買い食いを。
締めはもちろん入り口近くにあった香ばしい串焼き、身は牛肉のようだ。
「ったく、さっきから食いすぎだろ。太るぞお前たち……」
そんなことを言われても食欲には勝てないのだ。
宿でつまむ分も用意して、『エールと一緒にどう?』なんて言ったらフロックスの顔もニヤけてた。
なんだ、我慢してるだけじゃんか。
「ダイエット中? プニプニしてるなら、ちょっと触ってみたいかも。」
「んなわけねーだろ! その……ちょっとだけ気になってきただけだ」
僕たちは笑いながら宿へと戻っていくのだった。
火の神サランドラは夜の街、市場とはまた違う雰囲気の屋台が立ち並び、さながら祭りのような雰囲気に包まれている。
「宿も見つかったし、少し見ていこうよっ!」
『こんな時間に子供ばかりで!』と言われそうな気もするが、ヤエもサクアも興味津々。
ここはもう行くしかないじゃん。
それと、フロックスに案内されたお店が、この中にあるらしいのだ。
どのみちご飯の支度もまだなのだし、せっかくならいろんな店で買い食いしてやるつもりだ。
「人が多いからな、あまり離れるなよ」
「大丈夫だよフロックス。
ヤエもサクアも、ちょっと力を使えばみんなの位置くらい分かるんだから」
「あ、いや今のはクロウに言ったんだが……」
「え……?」
クスクスと笑うヤエとサクア。
何をしでかすか分からない、変なものに興味を持つ、そして索敵などの力は一切無い。
だから僕が一番の心配なのだと、フロックスが真剣な表情をして言うのだ。
……酷くない?
言ったよね、僕は見た目通りの年齢じゃないってさ。
まぁいいや、こんな祭りみたいな場所、何度も行ったことがあるから。
迷うわけないんだから……
「あ、串焼き美味しそう……
なんか醤油の焦がしたみたいな香り……懐かしいなぁ……」
うん、もっと色々見たいけど、この香りの誘惑には敵わない。
「ねぇフロックス! ……って、あれ?」
振り返ると、そこには見知らぬ獣人たちばかり。
鹿? あれはー……熊。こっちはシマウマか。
いやいやそうではなくて、フロックスは? 狼はどこいった?
……やっちまった。
この先は二手に道が分かれているが、どちらに向かったのだろうか……
「キュッ!」
首に巻き付いていたキュー助が、トンと地面に飛び降りる。
キュッキュッと鳴きながら、僕を案内するかのように人混みをすり抜けて奥へと進む。
「まさかキュー助にまで心配されるとは……」
大きな足がいくつもあり、踏まれるんじゃないかとハラハラしながらも僕の目の前でキュー助は進む。
「おっと……」
「あ、すみませんっ……」
僕はキュー助ほど器用には人混みを避けられない。
魔物の動きが遅く感じるとか、そんなことができてもこれはまた違う。
頑張ってついていった先には、一本の木にもたれかかっているフロックスの姿が。
『キュッ』っと一鳴きしたキュー助は、再び僕の肩に飛び乗って、首に巻き付いてきたのだ。
うん……僕が一番心配になるわけだ……気をつけよう。
「二人はその店に入ってお茶してるぜ。
俺は入ったことねぇが、ここの団子が美味いって話だからな」
「ははは……ごめんフロックス……」
「……ぷふっ! いやしかし……
本当に言ったそばからはぐれるとはな」
馬鹿にされた、フロックスに馬鹿にされたよ。
僕もふてくされて店内に入った。
フロックスは甘いのはあまり食べる気が無いみたいで、待っているのだと。
「あっ、クロウこっちこっち!」
「んんーっ!」
入るなり、大きく手を振って僕を呼ぶヤエとサクアがいた。
食べながら喋るヤエはちょっと愛らしい。
赤い布の敷かれた長椅子に腰掛けて、あんこのようなものの付いた団子を口に。
お茶は緑茶かなにか。座るなり店員さんが持ってきてくれたが、普通に美味しかった。
「僕もお団子同じのを」
ヤエの加えている団子を指差して、店員さんに注文する。
「えっと……クシアンを1つでいいのでしょうか?」
「え? ……あぁ、うん。2つちょうだい」
クシアン……串に刺さったあん団子をそう呼ぶのか。
「かしこまりました、すぐにご用意いたします」
ミタラシ、ズンダ、カラミ……いやオロシ?
「どうしたの?」
周りの人が食べている団子を見ながら、つい考えに耽ってしまった。
「ううん、なんでもないよヤエ」
「そっか、良かった。
美味しいよこのクシアン」
ニコッと可愛らしく笑う姿がまた堪らない。
まるで妹に構ってるような気持ちになってしまう。
……あぁ、そういえば妹はどうしているのだろうなぁ。
ふと思い出して、少し悲しい気持ちになってしまう。
「お待たせいたしました」
「あっ、ありがとうございます」
団子の乗った皿を受け取って、僕はその一本を口元へと運ぶ。
さっきの醤油の焦がした香ばしい匂いも良かったが、たっぷりあんこの団子も美味しそうだ。
あーん……と口を開けて食べようと思ったところで……
『パクッ……ムグムグ……』
「……キュー助?」
4つ刺さった団子の2つが消えた。
ポカーンと呆けている僕をチラリと見て、再びキュー助が団子にパクリっ!
「キュッ!」
そうか……美味しいんだな。
いいよいいよ、ちゃんとキュー助の分も思って二本買っておいたんだから。
……嘘だけど。
「あー美味しかったー」
「サクア、お口にあんこ付いてるー」
「えっ、嘘っ?」
他にも色々とお店はあったが、団子を食べてお腹も落ち着いたせいか、食事処に寄るほどでもなくなってしまった。
ワイワイと騒ぎながら宿へと向かう道中に少しばかし買い食いを。
締めはもちろん入り口近くにあった香ばしい串焼き、身は牛肉のようだ。
「ったく、さっきから食いすぎだろ。太るぞお前たち……」
そんなことを言われても食欲には勝てないのだ。
宿でつまむ分も用意して、『エールと一緒にどう?』なんて言ったらフロックスの顔もニヤけてた。
なんだ、我慢してるだけじゃんか。
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