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「あー美味しかった。
なんだかんだでフロックスもしっかり食べてたじゃん」
「うっせっ! これ見よがしに目の前で食われりゃ、俺だって我慢したくねぇよ」
串焼きの入っていた包紙をくしゃっと丸めてくずかごに投げるフロックス。
すでに串焼きは4本を平らげていた。
僕の出したエールだと喉越しはいいが、やはり酔えないのは違うのだと。
冷たい方がよくて炭酸も効かせて欲しいとか、結構なわがままを言っていたが、そこは僕のスキルとヤエの魔法でどうにでもできた。
「んくっ……んくっ……んっ、ぷぁぁっ!」
いやぁ、なんていい飲みっぷり。
こんなんじゃ、またすぐにメタボっちゃうんだぞ、フロックス。
クシャッ……ポイっ、ガッ……コロコロ。
再びくずかご目掛けて投げられた包紙は、惜しくも縁に当たって外に弾かれた。
「もぅ……投げるのはいいけど、後でちゃんと拾っておいてよ?」
「あぁ、わかってるって……」
実はこの街に来てから、なんだかフロックスがソワソワしている気がする。
団子屋の前でも、宿に入った時も。
まるで誰かを探しているかのように、周囲を気にしたりしていたのだ。
そしてそれは本人にも気付いていない僅かな仕草。
サクアがそう言うのだから、きっと間違いはないのだろう。
カチャッ……
部屋の扉が静かに開く音がする。
(ほら、まだ寝てないじゃない)
「キュ……」
(うぅ……もう私我慢できないよぉ……)
扉の向こうでヒソヒソと話す声が聞こえている。
寝ていたら何をする気なのだ?
というか、ヤエは一体何が我慢できないんだよ!
……ダメだ、変な妄想をしてしまう。
どうせまた僕の寝ているところに潜り込む算段でもしているのだろう。
しかし残念だが、船でしっかりと寝かせていただいたからな。
今はまだ眠らずとも平気なのだよ。
(今、クロウの心がちょっと熱くなってたわ。うーん……押したらイケるかも!)
(本当? ……じゃあもう眠いから入ってもいいかなぁ?)
「キュキュッ」
(あ、ダメよ! すぐに冷たくなっちゃった……)
……やめてくれ二人とも。
僕だって男の子なんだ、変な妄想くらいしてもいいじゃないか……
というかキュー助、完全に聞こえてるからっ!
(それにしても大胆よねぇ、ヤエって)
「キュー……」
(ううん、獣人の寝る格好って本当はいつもこんな感じなの。
街じゃ種族の違いとかあったから、ちゃんとするように言われてたんだけど……)
(そうなんだぁ、じゃあ私も別にいいわよね?
でも残念ね、今日は出直そっかぁ)
……なにが?
何がいいんですか? サクアさん?
「じゃあ俺は寝るわ……
ふゎぁぁ……んー……」
えっ? いや、急に寝るの早くないですかフロックスさん?
しかもダイレクトにベッドイン、即寝息とか。
実は言うほどお酒に強くないとか?
あぁもう、結局ゴミはちゃんと捨てないし!
「……はぁ、こんな調子で大丈夫なのかなぁ……
お母さんもまだ安静にしてなきゃいけなかったし……お父さんはー……一応冒険者だし生きてるよね?」
妹……名前はアイビスだったかな……
女神が名付けたんだから、本当に転生者かもしれないし、ははっ。
笑うしかない。未だに情報を何一つ掴めておらず、もしかしたらもうこの世にはいないかもしれないのだ。
僕も、今は深く考えるのはやめることにした……
明日になったらちゃんと元気になるから……少しだけ、涙を流したっていい……よね……
ちゅんちゅん……と、鳥の鳴き声がする。
すでに日は登りつつあって、外はうっすらと明るんできたようだ。
フロックスもすでに目覚めている。
薄めを開けて気怠そうにしてしまう僕だが、なんとかその身を起こそうとしていた。
「んー……んん?」
うつ伏せ状態で寝ていた僕は、右腕が感覚が全くない。
変な体勢で寝てしまったから、一時的に痺れているのだろうか?
ふと視線をそちらに移すと……
「ちょっ、ちょっとサクア!
そんな格好で何してんのさぁ!」
「んー……まだ眠いぃ……」
僅かに膨らんだ双丘を腕に押しつけて、まるでそういう人形のようにガッチリと抱きついているサクア。
「眠いーじゃないよぉ!
もう勘弁してよー!」
もう本当に、一気に目が覚めた。
もう片方のベッドを見やれば、見えるものはフロックスのニヤけ顔。
くそぅ、腹が立って仕方ない。
なんとか振り解いてサクアにも起きてもらう。
入り込んでくるかとは思っていたが、まさか下着のみでくるとは思わなかった。
いや、ヤエと話していたのを聞いていた時から、まさかとは思っていたけれど……
「ごめんごめん。なんだかクロウが寂しそうにしているみたいだったから……つい」
「あー……うん、そうだね。
僕もごめん……ちょっとだけそんな気持ちになってたからさ」
ベッドの脇、くずかごから外れた紙屑が落ちている。
結局拾わずに寝てしまったのだが、僕はそれをひょいと持ち上げた。
「なんかさっ、本当に家族が見つかるのかなって……」
右手に握られた紙屑を、僕はポイっと弧を描くように投げる。
昔はよくこうやってゴミを投げ入れたもんだ。
『惜しい』とか『壁に当ててから』なんて、そんな下らないことも楽しく思えた。
ダメだなぁ、もっとしっかりしなきゃなぁ……全然違う方へ飛んでいっちゃったや。
『そこからゴミ箱に入れっ!』なんて心で念じてみる。
入るはずもないが、魔法でも使えたらそれもできるんだよなぁ。
シュポッ……
「……ん? あれ、紙屑はどこいっちゃったの?」
「なに言ってんだ、自分で投げたんだろうが?」
「あ、うん。そうなんだけど……」
間違いなくどこかへ消えてしまった紙屑。
周りを見回しても見つからなかった。
そうなると今のはなんだ? 魔法かスキルか?
落ち着かない感情の中で、僕は自分のスキルが何なのかとまともに考えることもできずにいたのだった。
なんだかんだでフロックスもしっかり食べてたじゃん」
「うっせっ! これ見よがしに目の前で食われりゃ、俺だって我慢したくねぇよ」
串焼きの入っていた包紙をくしゃっと丸めてくずかごに投げるフロックス。
すでに串焼きは4本を平らげていた。
僕の出したエールだと喉越しはいいが、やはり酔えないのは違うのだと。
冷たい方がよくて炭酸も効かせて欲しいとか、結構なわがままを言っていたが、そこは僕のスキルとヤエの魔法でどうにでもできた。
「んくっ……んくっ……んっ、ぷぁぁっ!」
いやぁ、なんていい飲みっぷり。
こんなんじゃ、またすぐにメタボっちゃうんだぞ、フロックス。
クシャッ……ポイっ、ガッ……コロコロ。
再びくずかご目掛けて投げられた包紙は、惜しくも縁に当たって外に弾かれた。
「もぅ……投げるのはいいけど、後でちゃんと拾っておいてよ?」
「あぁ、わかってるって……」
実はこの街に来てから、なんだかフロックスがソワソワしている気がする。
団子屋の前でも、宿に入った時も。
まるで誰かを探しているかのように、周囲を気にしたりしていたのだ。
そしてそれは本人にも気付いていない僅かな仕草。
サクアがそう言うのだから、きっと間違いはないのだろう。
カチャッ……
部屋の扉が静かに開く音がする。
(ほら、まだ寝てないじゃない)
「キュ……」
(うぅ……もう私我慢できないよぉ……)
扉の向こうでヒソヒソと話す声が聞こえている。
寝ていたら何をする気なのだ?
というか、ヤエは一体何が我慢できないんだよ!
……ダメだ、変な妄想をしてしまう。
どうせまた僕の寝ているところに潜り込む算段でもしているのだろう。
しかし残念だが、船でしっかりと寝かせていただいたからな。
今はまだ眠らずとも平気なのだよ。
(今、クロウの心がちょっと熱くなってたわ。うーん……押したらイケるかも!)
(本当? ……じゃあもう眠いから入ってもいいかなぁ?)
「キュキュッ」
(あ、ダメよ! すぐに冷たくなっちゃった……)
……やめてくれ二人とも。
僕だって男の子なんだ、変な妄想くらいしてもいいじゃないか……
というかキュー助、完全に聞こえてるからっ!
(それにしても大胆よねぇ、ヤエって)
「キュー……」
(ううん、獣人の寝る格好って本当はいつもこんな感じなの。
街じゃ種族の違いとかあったから、ちゃんとするように言われてたんだけど……)
(そうなんだぁ、じゃあ私も別にいいわよね?
でも残念ね、今日は出直そっかぁ)
……なにが?
何がいいんですか? サクアさん?
「じゃあ俺は寝るわ……
ふゎぁぁ……んー……」
えっ? いや、急に寝るの早くないですかフロックスさん?
しかもダイレクトにベッドイン、即寝息とか。
実は言うほどお酒に強くないとか?
あぁもう、結局ゴミはちゃんと捨てないし!
「……はぁ、こんな調子で大丈夫なのかなぁ……
お母さんもまだ安静にしてなきゃいけなかったし……お父さんはー……一応冒険者だし生きてるよね?」
妹……名前はアイビスだったかな……
女神が名付けたんだから、本当に転生者かもしれないし、ははっ。
笑うしかない。未だに情報を何一つ掴めておらず、もしかしたらもうこの世にはいないかもしれないのだ。
僕も、今は深く考えるのはやめることにした……
明日になったらちゃんと元気になるから……少しだけ、涙を流したっていい……よね……
ちゅんちゅん……と、鳥の鳴き声がする。
すでに日は登りつつあって、外はうっすらと明るんできたようだ。
フロックスもすでに目覚めている。
薄めを開けて気怠そうにしてしまう僕だが、なんとかその身を起こそうとしていた。
「んー……んん?」
うつ伏せ状態で寝ていた僕は、右腕が感覚が全くない。
変な体勢で寝てしまったから、一時的に痺れているのだろうか?
ふと視線をそちらに移すと……
「ちょっ、ちょっとサクア!
そんな格好で何してんのさぁ!」
「んー……まだ眠いぃ……」
僅かに膨らんだ双丘を腕に押しつけて、まるでそういう人形のようにガッチリと抱きついているサクア。
「眠いーじゃないよぉ!
もう勘弁してよー!」
もう本当に、一気に目が覚めた。
もう片方のベッドを見やれば、見えるものはフロックスのニヤけ顔。
くそぅ、腹が立って仕方ない。
なんとか振り解いてサクアにも起きてもらう。
入り込んでくるかとは思っていたが、まさか下着のみでくるとは思わなかった。
いや、ヤエと話していたのを聞いていた時から、まさかとは思っていたけれど……
「ごめんごめん。なんだかクロウが寂しそうにしているみたいだったから……つい」
「あー……うん、そうだね。
僕もごめん……ちょっとだけそんな気持ちになってたからさ」
ベッドの脇、くずかごから外れた紙屑が落ちている。
結局拾わずに寝てしまったのだが、僕はそれをひょいと持ち上げた。
「なんかさっ、本当に家族が見つかるのかなって……」
右手に握られた紙屑を、僕はポイっと弧を描くように投げる。
昔はよくこうやってゴミを投げ入れたもんだ。
『惜しい』とか『壁に当ててから』なんて、そんな下らないことも楽しく思えた。
ダメだなぁ、もっとしっかりしなきゃなぁ……全然違う方へ飛んでいっちゃったや。
『そこからゴミ箱に入れっ!』なんて心で念じてみる。
入るはずもないが、魔法でも使えたらそれもできるんだよなぁ。
シュポッ……
「……ん? あれ、紙屑はどこいっちゃったの?」
「なに言ってんだ、自分で投げたんだろうが?」
「あ、うん。そうなんだけど……」
間違いなくどこかへ消えてしまった紙屑。
周りを見回しても見つからなかった。
そうなると今のはなんだ? 魔法かスキルか?
落ち着かない感情の中で、僕は自分のスキルが何なのかとまともに考えることもできずにいたのだった。
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