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同じに見えるのです
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「うわぁー、すっごい建物がいっぱいじゃん!」
もうすぐ到着だと聞いて、僕たちはデッキから街の景色を眺めていた。
「クロウって、変なところに感動するよね。
海の見えるデッキじゃなくて、暗い船室に喜んでたし」
サクアが不思議そうに僕に問いかける。
だって仕方ないじゃないか。
海や潮風なんかより、あの地球では味わえないニッチな雰囲気。
この世界では仕方なくアレなのかもしれないけれど、暗い船室に揺らめくわずかな光。
どこからか怒号みたいな声が聞こえてきて、さらに底の方では騒がしく船内で駆け回っている様子も感じられる。
その経験し難い状況が、僕にはたまらなく楽しく思えたのだ。
馬車と違ってお尻が痛くならないのも高評価!
なにより、キュー助も一緒に寝ていたのでモフモフとして気持ち良くてつい……
女の子じゃないから、ドキドキして寝られないこともなかったし! 多分!
「あれが鍛治の都、火の神様がいるとされる街『サランドラ』だ」
フロックスが言うには、神様の名前がそのまま街の名前になっているらしい。
そして、生まれ育った街でもあるそうだ。
「じゃあ美味しい料理屋さんとか、教えてもらわなきゃね」
そんな期待を込めて言ってみると、『いつも行きつけの店にしか行かん』のだと。
うん、それはそれで楽しみだ。
「言っておくが、クロウの口には合わんと思うぞ」
「えぇー? なんでそう思うのさ?」
「……なんでもねぇよ。
俺が勝手にそう思っただけだ」
ふぅん……よくわからないけど、まぁ獣人の好みに合わせてあるとか、そういうことだろうな。
ゲテモノでなければ大丈夫。
僕はイナゴの佃煮くらいまでは平気で食べられるぞ。
謎の自身に満ち溢れながら、僕はサランドラの漁港へと降り立った。
こちらもまた市場に店が並んでいるが、魚や野菜ばかりのようである。
工房なんかは街の中にあるので、購入したい場合はそちらに直接行くのだとフロックスに教えられたので、少しだけ興味がある。特に包丁とか。
魔銀を使った武器なんかもあるといいのだけど、フロックスが知らないくらいだから期待はできないな。
「じゃあまずはギルドで拠点を移した手続きをしておくか……
どうする? 俺の名前だけでもいいが、出入りを多くするなら全員がやっておいた方が楽だと思うが」
「僕とヤエは手続きしようと思うけど、サクアはどうしよう?
問題ないかな?」
「大丈夫だろ、誰も幻獣姫様の名前なんて知らねぇさ。特にこっちの街には関係ないからな」
サランドラは基本的に獣人ばかりが住んでいる街なのだそうだ。
人族で滞在する者は商人か訳ありか。
確かに市場で見かけるほとんどが獣人族で、人族の姿は滅多に見ない。
「うーん……正直あまり見分けがつかないというか……」
人族にとっては、獣人族の顔は見分けがつきづらい。
ヤエくらいの特徴があればいいのだが、見渡しても似たような人達にしか感じられない……
「あっ、でもワーウルフの女性は初めて見たかも」
「なにっ? ……あ、いや珍しいからな。
それと、あまり凝視すると嫌がられるからやめておけ。
特にワーキャット族は目を合わせるのを特に嫌うからな」
少しだけ焦ったように見えたのは、フロックスと同じ種族の女性に心当たりでもあったからか?
意中の人がいるとか、多分そういうことだな、きっと。
「ねぇねぇクロウ、私の目も見てっ」
「ん? どうしたのヤエ?
……あっ、ホラ。ヤエと一緒のエゾリスもいるじゃん。男の人っぽいけど」
歩いているのをたまたま見かけたものだから、話を逸らしてしまった。
いやさ、獣人とはいえ女の子と見つめ合うシチュエーション、なにこれ?
ちょっとだけドキドキしちゃったし、頼むから勘弁してほしい。
「むぅ……そうだねっ、大人のエゾリスだよ。
顔も毛並みも全然私と違うでしょ?」
ちょっとだけ怒ったような口調で説明するヤエ。
まるで『見てよ』と言わんばかりに、服のすそをめくって毛並みを見せてくる。
その行為は恥ずかしくないのか?
いや、見ているこっちが恥ずかしいよ……
街のギルドへ向かい、サクアの冒険者登録を済ませてあとは更新手続き。
「アッサリと終わっちゃったね」
「冒険者なんて、ただの肩書きだからな。
過去に悪さでもしてねぇ限り、滅多なことは……
ん? どうしたんだサクア?」
サクアの視線に気になったフロックスは、そのまま流れるように僕を見る。
受付にカードを提示して、返却を待っている僕を、だ。
「……クロウ、さん……と。
はい、カードをお返ししますね」
「ありがとうございます……」
ヤエも無事更新は完了、ギルドを出てまずは宿を確保しておきたいところ。
「なんだかギルドのお姉さん、変な感じだった?」
直前までニコニコと対応していたはずなのに、僕の番になった途端に声のトーンが少し下がった気がして……
「うん、でもフロックスも言ってたじゃない。
この街じゃ人族は珍しいって」
サクアもそう言うのだし、それに僕も子供だから驚かれただけに違いない。やっぱり気にしすぎだろう。
もしかしたら僕の首にくるっと巻きついていたキュー助を見ていただけかもしれないじゃん。
ギルドを後にして、僕たち一行は賑やかな街中へと歩を進めたのだった。
もうすぐ到着だと聞いて、僕たちはデッキから街の景色を眺めていた。
「クロウって、変なところに感動するよね。
海の見えるデッキじゃなくて、暗い船室に喜んでたし」
サクアが不思議そうに僕に問いかける。
だって仕方ないじゃないか。
海や潮風なんかより、あの地球では味わえないニッチな雰囲気。
この世界では仕方なくアレなのかもしれないけれど、暗い船室に揺らめくわずかな光。
どこからか怒号みたいな声が聞こえてきて、さらに底の方では騒がしく船内で駆け回っている様子も感じられる。
その経験し難い状況が、僕にはたまらなく楽しく思えたのだ。
馬車と違ってお尻が痛くならないのも高評価!
なにより、キュー助も一緒に寝ていたのでモフモフとして気持ち良くてつい……
女の子じゃないから、ドキドキして寝られないこともなかったし! 多分!
「あれが鍛治の都、火の神様がいるとされる街『サランドラ』だ」
フロックスが言うには、神様の名前がそのまま街の名前になっているらしい。
そして、生まれ育った街でもあるそうだ。
「じゃあ美味しい料理屋さんとか、教えてもらわなきゃね」
そんな期待を込めて言ってみると、『いつも行きつけの店にしか行かん』のだと。
うん、それはそれで楽しみだ。
「言っておくが、クロウの口には合わんと思うぞ」
「えぇー? なんでそう思うのさ?」
「……なんでもねぇよ。
俺が勝手にそう思っただけだ」
ふぅん……よくわからないけど、まぁ獣人の好みに合わせてあるとか、そういうことだろうな。
ゲテモノでなければ大丈夫。
僕はイナゴの佃煮くらいまでは平気で食べられるぞ。
謎の自身に満ち溢れながら、僕はサランドラの漁港へと降り立った。
こちらもまた市場に店が並んでいるが、魚や野菜ばかりのようである。
工房なんかは街の中にあるので、購入したい場合はそちらに直接行くのだとフロックスに教えられたので、少しだけ興味がある。特に包丁とか。
魔銀を使った武器なんかもあるといいのだけど、フロックスが知らないくらいだから期待はできないな。
「じゃあまずはギルドで拠点を移した手続きをしておくか……
どうする? 俺の名前だけでもいいが、出入りを多くするなら全員がやっておいた方が楽だと思うが」
「僕とヤエは手続きしようと思うけど、サクアはどうしよう?
問題ないかな?」
「大丈夫だろ、誰も幻獣姫様の名前なんて知らねぇさ。特にこっちの街には関係ないからな」
サランドラは基本的に獣人ばかりが住んでいる街なのだそうだ。
人族で滞在する者は商人か訳ありか。
確かに市場で見かけるほとんどが獣人族で、人族の姿は滅多に見ない。
「うーん……正直あまり見分けがつかないというか……」
人族にとっては、獣人族の顔は見分けがつきづらい。
ヤエくらいの特徴があればいいのだが、見渡しても似たような人達にしか感じられない……
「あっ、でもワーウルフの女性は初めて見たかも」
「なにっ? ……あ、いや珍しいからな。
それと、あまり凝視すると嫌がられるからやめておけ。
特にワーキャット族は目を合わせるのを特に嫌うからな」
少しだけ焦ったように見えたのは、フロックスと同じ種族の女性に心当たりでもあったからか?
意中の人がいるとか、多分そういうことだな、きっと。
「ねぇねぇクロウ、私の目も見てっ」
「ん? どうしたのヤエ?
……あっ、ホラ。ヤエと一緒のエゾリスもいるじゃん。男の人っぽいけど」
歩いているのをたまたま見かけたものだから、話を逸らしてしまった。
いやさ、獣人とはいえ女の子と見つめ合うシチュエーション、なにこれ?
ちょっとだけドキドキしちゃったし、頼むから勘弁してほしい。
「むぅ……そうだねっ、大人のエゾリスだよ。
顔も毛並みも全然私と違うでしょ?」
ちょっとだけ怒ったような口調で説明するヤエ。
まるで『見てよ』と言わんばかりに、服のすそをめくって毛並みを見せてくる。
その行為は恥ずかしくないのか?
いや、見ているこっちが恥ずかしいよ……
街のギルドへ向かい、サクアの冒険者登録を済ませてあとは更新手続き。
「アッサリと終わっちゃったね」
「冒険者なんて、ただの肩書きだからな。
過去に悪さでもしてねぇ限り、滅多なことは……
ん? どうしたんだサクア?」
サクアの視線に気になったフロックスは、そのまま流れるように僕を見る。
受付にカードを提示して、返却を待っている僕を、だ。
「……クロウ、さん……と。
はい、カードをお返ししますね」
「ありがとうございます……」
ヤエも無事更新は完了、ギルドを出てまずは宿を確保しておきたいところ。
「なんだかギルドのお姉さん、変な感じだった?」
直前までニコニコと対応していたはずなのに、僕の番になった途端に声のトーンが少し下がった気がして……
「うん、でもフロックスも言ってたじゃない。
この街じゃ人族は珍しいって」
サクアもそう言うのだし、それに僕も子供だから驚かれただけに違いない。やっぱり気にしすぎだろう。
もしかしたら僕の首にくるっと巻きついていたキュー助を見ていただけかもしれないじゃん。
ギルドを後にして、僕たち一行は賑やかな街中へと歩を進めたのだった。
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