王都の魔法学園のいんちき魔法使い 〜魔法なんて使えなくても世界最強〜

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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『お金さえくれれば教えてあげるわよ』
 それがエーテルの回答であった。

 相馬はゴブリンに襲われた恐怖よりも、魔法が使えるという期待感に溢れていたのだ。
 ソーマは指示を受けて、倒したゴブリンの喉元にある一つの石を、ナイフで取り出した。
「これが魔石ってやつかぁ」
 まるでゲームの世界であり、そこに登場するキャラクターにでもなった気分だ。

 今取り出した、まるでダイヤのような魔石は一体いくらの価値があるのか?
 魔法を使うには、やはり杖や詠唱が必要なのだろうか?
 回復魔法もあって、ちぎれた腕が治ったりするのだろうか?

「僕も魔法を使ってみたいなぁ」
 ボソリと口走った言葉だった。

「ねぇ、魔石を取り終わったならすぐに移動するわよ。
 三匹は狩らないと生活が苦しいんだから」
「あ、ごめんごめん!」

 ぼーっとしていたソーマを叱咤するエーテル。
 魔石を取る作業はソーマが自ら『やる』と言ったのだから怒られて当然だ。

 そこからは必死でエーテルの後を追っていた。
 いくら体力があっても、やはり体格差で歩みに差が生じてしまうのだ。

「天上へと敵を舞い散らせ、ウィンドランチャー!」
「おぉー! エーテルさん風魔法も上手いんですね」
 決まった……とでも言いたげなポーズをキメるエーテルがいて、ワンテンポ遅れてゴブリンは地上に落下。
 魔石の回収など二の次であり、二人はそれぞれ違った立場から魔法に酔いしれていた。

 今日は運が良かったようで、それが五体目のゴブリン。
 ノルマを達成したらさっさと帰るのが今までのエーテルだったが、この日は乗せられてしまい魔力が尽きる寸前まで魔法を使ってしまったのだ。

 そして帰路。
 今日くらいは食事代も宿代もエーテルが出してやるつもりでいた。
 そのくらいの働きはしたと思っているし、何より気分がいい。

「そういえば、最初のゴブリンから魔石を取ってた時に言ってたわね」
「え? 僕、何か言ったっけ?」
 エーテルはそれを聞いて安心していた。
 『あぁ無意識に言ったのか』と考えれば、ソーマが心の底から魔法を知りたいのだと分かったからである。

「魔法よ魔法。
 自分も使いたいって言ってたじゃない。
 ……いいわよ、教えてあげても」
 ソーマにとっては思いがけない話だ。
 頼んだつもりではなかったが、頼みたいとは思っていた。
「ほ、本当に?!」
「えぇ。お金さえ貰えるならね」

 まさかの連続だ。
 今の流れでお金を要求されるとは思わなかったのだ。
 しかし唖然とするソーマをよそに、エーテルは話を続ける。

「お金さえくれれば教えてあげるわよ。
 でも、ソーマはもちろんお金なんてないんでしょ?
 だから私の助手をして、その報酬を私への授業料としてくれればいいのよ。
 なぁに、食事代くらいちゃんと残してあげるわよ」

 ソーマにとってそれは、願ったり叶ったりであった。
 もしかしたらゴブリンが狩れずに食事どころか宿もとれない日もあるかもしれない。
 しかし二人は楽しそうに街へと戻っていく。
 その後、ソーマの実力を知り二人が絶望することなど、まだ知る由もなかったのだから。
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