王都の魔法学園のいんちき魔法使い 〜魔法なんて使えなくても世界最強〜

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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無詠唱

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「ようするに、魔法の詠唱っていうのは、借りたい力がどういうものなのかを具体的に精霊に伝えるための手段なのよ」
 とある酒場でソーマとエーテルが食事をしながら授業を進めている。

「これくらいの水の球が欲しいから出してください、って言ってるようなものなんですか?」
「まぁ簡単に言えばそうね。
 一概に精霊言語を用いなくてはいけないとも言えないんだけど、魔法学園で習った言葉が慣れているからそうしている人が多いわ」

 今日の狩りはゴブリン二匹だったが、ウサギの肉が手に入ったため食事代は半額以下で済むらしい。
 魔力マナに余裕のあるエーテルは、ほんの小さな魔法の水球を器に落としながら説明を続けていた。

 魔法の行使にはマナが必要で、その量は人によって異なる。
 訓練で増えるともされているし、使える魔法はマナの質によっても異なるそうだ。
「ちなみに僕はどのくらいのマナがあるんですか?」
「んー……測定はギルドでもできるけど。
 5歳じゃまだほとんど無いんじゃないかな。
 私の5歳の時には、もう下級魔法は使えてたけどね」

 そんな授業を酒場でしていたわけだが、周囲には大男や怪しい表情でこちらを見ている者もいた。
 そりゃあ異世界で魔物がいて、そんな魔物を倒しにいく人たちが飲みにくる場所なのだから当然で。
 10代の少女と小さな少年が来るようなところではないのだと思う。
「ソーマ、集中。……って雰囲気じゃないわね。
 食事も終わったし、そろそろ出ましょうか」

 狩ってきた生き物の調理は他ではしてくれないので、仕方はなかった。
 大衆向けの食堂では、一人一人のニーズに応えている余裕は無いらしい。

 そんなものだから、こういう事態もあり得るとは思っていたのだとか……

「なぁ、そんなガキの世話なんか放っておいて、俺たちにも手取り足取り教えてくれよ。色々と……な」
 酒場を出るや否や声をかけてくる巨体の男と細身の男。
 ゴロツキとかいうやつだろうか?

 さすがに異世界とはいえ、ソーマはこのような威圧的な態度に慣れてはいない。
 エーテルもまた、かなり顔を引き攣っており、言葉では丁重にお帰りいただこうとする。
 しかし男どもが引くはずもない。

「なぁ、俺ら気が短けぇんだ。
 授業を俺たちにもしてくれねぇかって頼んでんだろうが?
 ガキに授業はできても俺らにゃできねぇってか?」
 ジリジリと民家の壁に追い詰められて、ソーマの鼓動はとてつもなく早くなっていた。

「わ、わかったわよ!
 そんなに迫られると緊張しちゃうから、ちょっと落ち着かせてよ」
「えっ? ちょ、ちょっとエーテル?」
 ソーマは驚いてしまった。
 どう考えても男が言っている授業は魔法なんかではない、夜の営みについての授業だ。

「ガキはうるせぇ! 黙ってやがれ!」
 止めようと思い咄嗟に掴んだエーテルの腕だったが、そんな男の怒号で再び離してしまうソーマ。

 と、その瞬間。
「アイシクル……」
 詠唱など無かったのだ。
 小さな声でエーテルがたった一言。そんな魔法を唱えると、たちまち男たちは腹を押さえてうずくまってしまう。
「ぐぉ……いててて……
 やべぇ、飲みすぎて腹下しちまったか……」
「アニキっ、大丈夫っスか?
 どうしたんスか急に。
 あれ……お、俺も……腹が……」

 二人の男は倒れてしまい、目の前で悶え苦しんでいる。
「あら、今日は授業どころじゃないみたいですね。
 せっかくですけど、またの機会にしますわね」
「エーテル、表情が……」
 ソーマの見たものは、冷たく見下ろす視線と、ニヤついた口元。
 そして……コッソリと銀貨を奪い、小声で『今日の授業料です』と喋るエーテルの姿であった。
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