王都の魔法学園のいんちき魔法使い 〜魔法なんて使えなくても世界最強〜

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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冒険者ソーマ

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 冒険者になるのに、条件はない。
 エーテルと共に暮らしていた時に登録を行なっていて、それは王都でも等しく効果がある。

「はい、地下水道の掃除ですね。
 終わったら入り口にいる男の人に確認してもらって、この紙にサインしてもらってね」
 ギルドに入った時から受付の女の人がこちらを見ているのはわかっていた。
 子供が依頼を受けることは珍しくなく、やはりこちらでも草むしりやゴミ拾いを斡旋されてしまった。

「銅貨5枚程度で下水の掃除とか、そりゃ誰もやりたくないよなぁ」
 だからこそソーマはこの仕事を選んでいた。
 仕事をしながらも、色々試してみたいことは多かったのだ。
 そこそこ広い場所が必要で、あまり人目を気にしなくて良い。
 それには地下水道の仕事が最適に思えたのだった。

 石造りの建物を訪ねると、中には革の鎧を着た衛兵が一人。
 机で事務仕事をしており、掃除後の確認もこの男にしてもらうことになるようだ。
 受注した際に受け取った紙を男に渡すと、ソーマはカンテラを受け取って扉の奥へと案内された。

「いやぁ、こんな汚い仕事を進んで受けてくれたんだって?
 まぁ気楽にやってくれよ。
 1日や2日でどうにかなるようなもんでもないしな」

『うわぁー……思った以上に汚い』
 と、心の中でソーマは思う。
 鉄製の柵に引っかかった木片や草。
 苔の生えた壁に、いつぞや林の中で見たブルブルの物体。
 少しだけ、選んだ仕事を間違えたかと後悔するソーマであった。

 まずは引っかかっているゴミを長い木の枝ですくい取る。
 草むしりに部屋の掃除にと、自分はこんなことばかりして生きなくてはいけないのかと考える。
 ただ、まだ歳は5歳なのだから可能性はいくらでもあるだろう。
「魔法が使えなくても剣で魔物を……」

 ヒュッ、ヒュッと木の棒を振り回してブツブツと呟くソーマ。
 ある程度のゴミを取り除き終えたら、今度は壁に貼りついたブルブルの物体を木で突く。
「で……これって何?」
 林でも見かけたそれが何か、ソーマも想像はついていた。
 しかし、確証が得られなかったのだ。

 魔法のことばかりで魔物について詳しく教わることを失念していた。
 その半透明の物体に顔を近付けて、じっくりと中を見る。
「白い……魔石。ならやっぱりこれがスライムか」
 脅威はなく、雑食でなんでも食べるとされている。

 ソーマはそんなスライムをナイフで斬って、魔石を取り出してみる。
 弾力を感じたはずの表面は、まるで膜が破れたかのようにパシャッと広がり地面に染み込んでいく。

『ほら、ポーションって常温で置いておいても長持ちするじゃない?
 アレって、スライムのマナに浄化効果があるからなのよ』
『あのエーテル先生?
 そもそもポーションが長持ちする事実を僕は知らないんですけど……』
『あらそう? そこはさすがに常識だから覚えておくといいわよ』

 そんな授業の風景を思い出すソーマ。
 確かにポーションを作るまでに時間がかかるのだから、そういう効果でも無いと長期間放置された水など飲みたくはないな。ペットボトルがあるわけでもないし……

「どーれ、試してみようかな」
 ソーマは魔石をドブに投げ入れると、魔石のマナが液体に溶け込むようにと操作する。
 渦を作るようにぐるぐると回していくが、マナが動くだけで水に動きは見られない。
 しかしわずか30秒後……

「まぁ、一部分だけ綺麗にしても意味ないわな……」
 水は常に流れていて、綺麗になった一部分もすぐに混ざって下流へと流れていった。
 ソーマは大人しくブラシを持って、壁や床を時間をかけて磨いていくのであった……
 
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