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8.夜食(1)
しおりを挟む晴太郎の看病はしばらく続いた。彼の誕生日から2日ほど経った30日の夜。
今日になりやっと高熱が落ち着いた。微熱はまだ続いているが、だいぶ楽になった様子だった。この調子で治ってくれれば、座薬はもう使わない。
ちなみに昨日はずっと高熱だったので、2度目の座薬投与を行った。ものすごく心が痛くなった。
結局、微熱だが今日も熱が下がらなかったので、明日治ったとしてもこの家で年越しをすることになりそうだ。熱が下がってから2日経たないと、インフルエンザの外出禁止期間は解除されない。
毎年晴太郎は家族のところへ戻って年越しをしていたが、今年は七海と二人きりになってしまうだろう。寂しい思いはさせたくないので、食事だけでも豪華にしてあげたい。しかし、病み上がりで食べてくれるだろうか。
リビングでひとり、テレビを眺めてどうしようかと考えていると、静かに部屋のドアが開いた。
「七海? 起きてたのか」
「坊ちゃん、どうしました?」
壁に手を着きながら晴太郎が部屋に入ってきた。高熱が一気に下がったせいか、少し足元がふらついているように見える。七海は彼の身体を支え、ソファまで誘導した。
「熱はもう大丈夫ですか?」
「うん、さっき測ったら36度代になってた」
「そうですか……ちょっと失礼しますね」
「え、なに……わっ」
七海は晴太郎の前髪を上げ、こつんと互いの額同士をくっ付けた。晴太郎の額はもう熱くなかった。
「うん、これなら大丈夫そうです」
「な、七海ぃ……おまえ、ほんとそういうところ……」
「はい? あれ、顔赤い……熱はないと思ったんですが……」
「違う違う、熱のせいじゃないから大丈夫だ!」
改めて見た晴太郎の顔が少し赤かったので心配になったが、本人は元気そうなので思い過ごしかもしれない。
話している姿も声も、いつもの晴太郎だ。甘えたがりで弱っている姿も良いが、やはり元気で明るくてお喋りな主人の方が良い。
「何か用があったんですよね?」
「うん、その……腹が減ってしまって、何か食べようと……」
ぐう、と晴太郎の腹が鳴る。ここ数日、食欲が無いせいで殆ど食べられなかった成長期の身体は、空腹の限界を訴えているようだ。
腹が減るくらい回復したのなら、もう心配は要らないだろう。
何か病み上がりで食べられそうなものはあるかと考えていると、黒木が買ってきてくれたうどんが余って居たのを思い出す。
「うどんは食べられそうですか?」
「食えるぞ!」
「わかりました。すぐに用意します」
そう言って七海はキッチンへ向かった。
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