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13.晴太郎の音(6)
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晴太郎の演奏が、晴太郎の奏でる音が聴きたいと七海は言った。自分のこと応援してくれて、自分の音を求めてくれる人が、こんなにも近くにいる。
一番聴いて欲しい人が、こんなにも自分の音を求めてくれている。これ以上嬉しいことなんてないのに。その事に、どうして今まで気付かなかったのだろうか。
——私は、坊ちゃんの音が好きです。
ずっと前から、晴太郎が幼い頃から七海はずっとそう言ってくれた。
大好きな人が、大切な人がずっと傍で晴太郎の音を聴いてくれていた。だから誰に何と言われようともピアノを弾き続けることが出来ていたのに。
いつの間にか自分は、七海のその気持ちを忘れてしまっていた。どうしてこんな大事な事、2年も忘れてしまっていたのだろうか。
誰が何と言おうとどうだって良い。知らない人たちが、メディアが『天才ピアニストの中条香織』の姿を自分の中に見ていたとしても、そんな事はどうでも良い。
大好きな人が、大事な人たちはいつだって晴太郎の音を聴いてくれている。一番傍に居てくれる人が、晴太郎の音を聴きたいと願っている。だから、晴太郎は弾く事を辞めない。
「……七海、ありがとう」
「いいえ、私は何も……」
「ううん、七海がそう言ってくれるから……七海のおかげで、俺、ピアノ弾けるんだよ」
もう何も迷う事はない。晴太郎が伝えたい人たちに、晴太郎の奏でる音を届ける。
今日は、ずっと傍で晴太郎の音を心待ちにしていた大好きな人に、晴太郎の音を届けるのだ。
「もう大丈夫だから。七海、客席で待ってて」
もう晴太郎の出番まで、あと少ししか時間がない。七海には客席で最初から最後まで観ていて欲しい。
晴太郎の瞳から不安や緊張の色が消えた。自信に満ちた姿をみて、七海は安心したように小さく微笑む。
「はい。客席で待っています」
そう言って立ち上がると、七海は控え室から出て行った。
七海と入れ違いで会場スタッフが来て、「スタンバイお願いします」と伝えられる。もうすぐ出番だ。控室を出て舞台袖に案内される。
広いステージの真ん中に、ライトが当たって輝くグランドピアノ。ステージの上で、大勢の前で晴太郎の音を奏でる。
中条香織の生まれ変わり? 中条ホールディングスの御曹司? 天才ピアニストの息子? 誰が何と言おうと構わない。そんな肩書きはどうだって良い。中条晴太郎として、"中条晴太郎の音"をここにいる全員に聴かせてやる。
大きく息を吸って、大きく息を吐く。よし、と気合を入れて、ステージへ続く階段を登る。ここにいる大勢の視線は、今この時だけは全部晴太郎のものだ。
ピアノの前に立って一礼すると、大きな拍手が巻き起こる。触れた鍵盤は無機質で冷たいが、晴太郎の手に吸い付くようにしっかりと馴染んだ。——大丈夫、弾ける。大事な人たちに晴太郎の音を届けるのだ。
しんと静まり返る会場の中、晴太郎の演奏が始まった。
一番聴いて欲しい人が、こんなにも自分の音を求めてくれている。これ以上嬉しいことなんてないのに。その事に、どうして今まで気付かなかったのだろうか。
——私は、坊ちゃんの音が好きです。
ずっと前から、晴太郎が幼い頃から七海はずっとそう言ってくれた。
大好きな人が、大切な人がずっと傍で晴太郎の音を聴いてくれていた。だから誰に何と言われようともピアノを弾き続けることが出来ていたのに。
いつの間にか自分は、七海のその気持ちを忘れてしまっていた。どうしてこんな大事な事、2年も忘れてしまっていたのだろうか。
誰が何と言おうとどうだって良い。知らない人たちが、メディアが『天才ピアニストの中条香織』の姿を自分の中に見ていたとしても、そんな事はどうでも良い。
大好きな人が、大事な人たちはいつだって晴太郎の音を聴いてくれている。一番傍に居てくれる人が、晴太郎の音を聴きたいと願っている。だから、晴太郎は弾く事を辞めない。
「……七海、ありがとう」
「いいえ、私は何も……」
「ううん、七海がそう言ってくれるから……七海のおかげで、俺、ピアノ弾けるんだよ」
もう何も迷う事はない。晴太郎が伝えたい人たちに、晴太郎の奏でる音を届ける。
今日は、ずっと傍で晴太郎の音を心待ちにしていた大好きな人に、晴太郎の音を届けるのだ。
「もう大丈夫だから。七海、客席で待ってて」
もう晴太郎の出番まで、あと少ししか時間がない。七海には客席で最初から最後まで観ていて欲しい。
晴太郎の瞳から不安や緊張の色が消えた。自信に満ちた姿をみて、七海は安心したように小さく微笑む。
「はい。客席で待っています」
そう言って立ち上がると、七海は控え室から出て行った。
七海と入れ違いで会場スタッフが来て、「スタンバイお願いします」と伝えられる。もうすぐ出番だ。控室を出て舞台袖に案内される。
広いステージの真ん中に、ライトが当たって輝くグランドピアノ。ステージの上で、大勢の前で晴太郎の音を奏でる。
中条香織の生まれ変わり? 中条ホールディングスの御曹司? 天才ピアニストの息子? 誰が何と言おうと構わない。そんな肩書きはどうだって良い。中条晴太郎として、"中条晴太郎の音"をここにいる全員に聴かせてやる。
大きく息を吸って、大きく息を吐く。よし、と気合を入れて、ステージへ続く階段を登る。ここにいる大勢の視線は、今この時だけは全部晴太郎のものだ。
ピアノの前に立って一礼すると、大きな拍手が巻き起こる。触れた鍵盤は無機質で冷たいが、晴太郎の手に吸い付くようにしっかりと馴染んだ。——大丈夫、弾ける。大事な人たちに晴太郎の音を届けるのだ。
しんと静まり返る会場の中、晴太郎の演奏が始まった。
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