私の主人はワガママな神様

どろろ

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13.晴太郎の音(7)

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「つ、疲れた……」

 控室の椅子に浅く座り、背もたれに体を預ける。ひとりきりの部屋で思わず呟いてしまうほど、色んなものを消耗した。
 やはり、普段からステージに上がらないとダメだと思った。きっと今の自分の演奏は、以前の自分のものと変わっていない。むしろ下手になったかもしれない。今まで逃げていた結果なのだから仕方がないが、この結果では満足出来ない。——もっと上手くなりたい。もっと練習したい。
 でも、しっかり弾いた。逃げ出さずにステージに登ってやり切った。今日くらい自分を褒めてやってもいいのではないだろうか。
 ——七海は、聴いててくれただろうか。どう思っただろうか。褒めてくれるだろうか。今はそれが気になって、早くこの部屋に彼が来てくれないかと待ち遠しい。
 まだ来ないかとソワソワしながら控室のドアを見ていると、バンっと音を立てて勢いよくドアが開いた。

「晴太郎ー! お疲れ様ー!」
「すっごく良かったぞ! めちゃくちゃ格好良かった!」

 飛び込むように控室に入ってきたのは、双子の洋太郎と香菜子だ。ノックも無しに入ってきて、晴太郎が何も言う前に抱き着いて来た。

「もう~、晴太郎ってばあんなにピアノ弾けたんだねー! 本当にすごいよ!」
「さすが俺たちの自慢の弟だ! 晴太郎の演奏は世界一だよ!」
「えっ、く、苦しいよ……かな姉さん、洋兄さんも落ち着いて!」
「香菜子様、洋太郎様も落ち着きなさい! 晴太郎様が潰れてしまいますよ!」

 ぎゅうぎゅうと力任せに抱きしめられ、晴太郎の身体は悲鳴をあげる。潰される前に、ふたりを追いかけて来た須藤によって助けられた。

「ご、ごめん、晴太郎!」
「ごめんね! いやー、感動しちゃってさ!」
「晴太郎様、お疲れ様でした。本当に素晴らしい演奏でしたよ」

 香菜子も洋太郎も感情のままに褒めてくれた。須藤にも改めて褒められて、なんだか少し照れくさい。

「はっ! いけません、お二人ともお時間です!」
「うっそ、もうそんな時間なの?!」
「そうか。慌ただしくてごめんな、晴太郎。またな!」
「うん。姉さん、兄さん、須藤も。忙しいのに来てくれてありがとう!」

 嵐のように去っていく3人に向かって、晴太郎は大きな声で感謝を伝える。きっと忙しいのになんとか時間を作って来てくれたのだ。
 3人が去ったあと、開いたままの扉から紗香と風太郎がひょっこりと顔を出した。

「やあ、晴太郎。お疲れ様」
「晴ちゃん、とっても素敵だったわ!」
「姉さん! 風兄さんも、来てくれてたんだ」

 てっきり風太郎は来ていないのかと思っていたので、晴太郎は驚いた。風太郎は人混みが苦手だ。会社の行事にも顔を出さないくらいだから、来ないものだと思い込んでいた。

「やっぱり、大事な弟の晴れ舞台だから。今日くらいは見に来ようと思って」
「うん、嬉しいよ。ありがとう」

 紗香も風太郎も感動したと褒めてくれた。褒められることは、照れ臭いが嫌いではない。もっと頑張ろうという前向きな気持ちになるな。今まで一日にこんなに褒められたことなんてあっただろうか。
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