ノンケの光一くん〜ノンケだけどお金が欲しいからお尻を開発する話〜

あしまる

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駿と光一の高校生時代その2

一年経って

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「まじかよ~、明日の花火大会中止だって」

 自室のベッドにごろごろと転がりながら光一は嘆く。台風の影響で毎年恒例の隣町の花火大会が中止になってしまったのだ。関東直撃とニュースキャスターが連日大騒ぎしており、世の学生たちは平日に来いよと文句を垂れている。

「残念だな」
「来年も行こうって言ったのになー」
「そんなこと言ってたっけ」
「言っただろー!」

 光一のお気に入りの少年漫画を読みながら生返事を返す。そういえばあれからもう一年が経ったのだと時の流れの速さに驚く。

「どうせ行っても光一は女と二人で花火見るんだろ」
「なっ、いつまで根に持ってんだよ~……」
「はは、冗談」

 あの時、坂井という女子と共に花火を見た光一はその場で告白されたらしく、二つ返事で付き合うことになった。後に俺たちと合流すると中山と高橋に親の仇のような尋問に遭い、一瞬でその事実は学年中に広まった。

「しかし3ヶ月であっけなく振られたと」
「うう……悲しいこと思い出させやがって……!」

    子供っぽすぎて彼氏として見れなくなったとざっくりと斬られた光一は1週間ほど枕を濡らし、中山と高橋は大喜びしていた。それを見て俺はああはなりたくないと己を戒めた。

「だがおれは夏休みまでに彼女を作ってみせる!」
「ほー」
「ちょっとは興味持って?」
「めっちゃ興味ある。応援してる」
「いや視線が漫画から一瞬も動いてないのよ」

    去年の冬辺りからカップルが各所でちらほらと増えだし、高校2年生になった思春期男子たちは次第に焦りを感じ始めていた。一度は経験のある光一もその例に漏れず服装や髪型などおしゃれに気を遣うようになったのだ。

「してるしてる。お前が安達さんに惚れてることも知ってる」
「そうそう安達さんかわいいよな~……ってえええ!?」

    光一は家が揺れる勢いの声量を放つとベッドから滑り落ちる。それを見て俺はげらげらと笑う。

「やっぱそうなんだ」
「なっ! カマかけたな!」
「つーかバレバレだったし」
「ま、マジ……?」

    2年生へと進級した春、俺と光一は正式にスタメン入りし公式戦に出場する機会が増えた。その応援にたまたま来てくれた安達さんに光一はあっさり惚れたらしい。

「安達さんっておれの事どう思ってるかな?」
「さあね」
「駿~、ちょっとは親友の恋の相談に乗ってくれよ~」

    親友、という言葉にページをめくる手が止まる。最近光一は俺に対して親友という表現を使うことが多い。いつの間に親友になったんだよと返すとドライだなーとくしゃりと笑う。付き合いの長い中山や高橋にすら親友という言葉を使ったところは見たことがないのにどうして俺だけと毎回反応に困る。

「駿?」

    いつの間にか近付いていた光一に顔を覗き込まれる。返答のない俺を不審に思ったのだろう。慌てて読んでいた漫画をバッと閉じる。

「っ! な、なんだよ」
「具合悪いのか?」
「い、いや別に……」
「……? そっか」

    なんだかぎくしゃくとした間が流れて居心地が悪く、テーブルのコップを取って気を紛らわす。

「あ、もしかして……」
「?」
「駿って……」
 
    光一が何かに気付いたような声を上げゆっくりと探るようにこちらを見る。嫌な予感がして冷や汗が滲む。

「安達さんのこと好きなの?」

    …………………………。

「……はあ?」
「あれ? 違った?」
「どうしてそうなる」
「いやー、駿も安達さん狙ってるから興味ないフリしてんのかなって思って」
「……」

    変に警戒して損したと首を横に振る。早とちりした光一は良かった~と胸を撫で下ろす。

「駿がライバルとか絶対勝ち目ないじゃんって絶望するとこだったわ」
「それほどでもあるけど」
「あるんかい」

    謙遜のけの字もない態度に光一は笑ってツッコむ。この一年でクラスにすっかり溶け込んだ俺はまた中学のように注目されることが増え何度か告白もされた。それでも以前のように悪目立ちしたり嫌味を言われることがないのは光一の存在が大きい。

    いつでもクラスの中心にいて誰からも好かれる光一の親友、という立場が孤立から守ってくれるのだ。そしてもう一つ、これは不本意ながらもサッカー部連中にはいじられ役と認識されているのも大きな違いだ。そのお陰で良好な人間関係を保てており、一体俺は今まで何を恐れていたのかと拍子抜けしたものだ。

「この前の体育さ、水泳だったじゃん。教室戻ったら安達さん髪下ろしててめっちゃドキってしたんだよ~」
「あー、そういやいつも結んでるな」
「そうそう、下ろしてる方が可愛くね?」
「んー」

    恋バナは苦手だ。そもそも女子に性的な魅力を感じないのにどこが好きとか聞かれても困る。嘘を言って適当に話を合わせるのも罪悪感のようなものが芽生えて結果うんともすんとも言えなくなってしまう。

    いっそのことカミングアウトしてしまおうかと思ったことは何度もある。光一との間には俺の思い違いでなければ他の人にはない絆のようなものを感じる。それは俺たちが仲良くなるよりも前、河川敷でボール遊びをしたあの日からか、あるいは入学式で初めて声をかけたあの時からか。運命的とも呼べる出会いを経て、今俺は光一の隣りにいる。

    今まで誰にも俺の秘密は打ち明けたことはない。きっと一生そうなんだろうと思っていたしそれで構わないとも思っていた。しかし、親友とまで思ってくれる友人にすら生涯隠し通さなければならないのだろうか。それは真の意味で親友と呼べるのか?

「授業中に濡れた髪を弄ってるのとか見るとキュンってなるよな!」
「ほー」
「肌も白いし絶対触ったら柔らかくてすべすべなんだろうな~」
「……」
「駿も男なら分かるだろ?」

    ああ、なんだかあれこれ考えるの疲れたな。

「ごめん、分かんない」
「え?」
「俺ゲイだから。お前の気持ち全く共感できないわ」
「……」
「……」
「…………へ?」

    あ~~~~~~~言っちゃった~~~~~~~。

「マジで……?」

    今ならまだ間に合うか? 「うっそぴょ~ん♪」って言えばギリギリセーフかもしれない。いやなんだよそれ。俺のキャラどこ行ったんだよ。

「うん」

    あ~~~もうダメだ。何も考えられない。勢いで口走った10秒前の俺をぶん殴りたい。

    ポーカーフェイスを作るのに必死で光一の顔が見れない。急にこんな話をされて一体どんな気持ちなんだろうか。大体ここ光一の部屋だし家には他に誰もいない。こんな状況でカミングアウトなんてするべきじゃなかった。

「ご、ごめん。俺帰るわ」

    俺は今すぐ逃げ出したい気持ちでリュックを手に取りそそくさと立ち去ろうとする。ドアノブに手をかけると反対の腕をぐっと引っ張られた。

「おい、待てよ!」
「……っ」

    引っ張られた反動で振り向くと光一と思わず目が合う。その表情はいつになく真剣で俺は言葉が詰まる。

「逃げんなよ」
「いや……さっきのことは忘れてくれ」
「忘れられるわけないだろ」
「ま、まあ、そりゃそうか……」
「誰にも言わないからさ、話聞かせろよ」

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