【完結】彼此繋穴~ヒコンケイケツ。彼の世と此の世を繋ぐ穴~

月城 亜希人

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日記

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 七月十四(水)晴れ

 先日、実家の床が抜けたのかも、と思ったのをきっかけに、この離れ屋の万年床を引っぺがしてみたところ、畳がカビていた。

 梅雨入りしてからずっと湿気が酷かったから、それでやられたのだろう。

 ずぼらな俺でも、流石に気持ちが悪かった。

 それで、面倒くさいと思いつつも、部屋の掃除をした。

 物干し台に竹竿を渡して布団を掛けた。

 それから、畳をすべて表に出して、離れ屋の壁に立て掛けた。

 どちらも、お天道様に晒して叩くと、塵埃が舞った。

 こんなごみが出る中で寝ていたのかと思うと、益々、気分が悪くなった。

 気が済むまで叩いたら、中の掃除に取り掛かった。

 流しで、洗濯桶に水を溜めて玄関の土間に置き、そこに雑巾を浸して絞った。

 部屋の窓を開けて、天井の側から順に濡れ雑巾で拭いた。

 床板がギシギシ言うので怖ろしかった。腐ってはいないようだったが、見えないところはどうなっているか分からないので、抜けないように慎重に歩いた。

 床下に炭か石灰でも撒いてやろうかとも思ったが、物がない上に、やって良いものかどうか分からないので、いつか爺さんにでも訊いてみようと考えている。

 最後に、床板を念入りに拭いて、掃除を終えた。

 どこを拭いても、雑巾は真っ黒になった。洗濯桶に溜めた水も汚れるのが早く、何度も取り替えた。ついでに、竹籠に溜まった汚れ物を洗濯した。畳を部屋に入れて、布団を取り込んでから、竹竿に通して物干し台に掛けた。通せない物は、洗濯ばさみで留めた。

 夏場は何をするにもきつい。いっぺんにやれば、そう時間も食わないのだろうが、俺はすぐに疲れて休むので、終えるまでに半日かかった。

 作業が終わってから、薬を飲んでからやれば良かったと気づく。あれは、本来、そういうときのためにある薬だろうと、悔しくなって、汗だくになったおでこを叩いた。

 誤った使い方しかしていないから、こういうことになる。

 箪笥の上の薬ビンを見て、反省した。

 シャツもズボンも汚れたし、肌着も体にべったり張り付いて気持ち悪かった。それで、代えの着物とタオルを持って、汗を流しに風呂屋に行った。

 湯屋だと古いが、銭湯と書いた方が、賢そうに見えたかもしれない。また後悔する。

 消しゴムで消そうかとも思ったが、やめておいた。俺は馬鹿で優柔不断だから、何度も書き直すので、跡が残って汚くなる。

 それが気になって力を入れて擦るから、破れてしまうこともある。

 読めなくなっては元も子もないので、使わないようにしている。

 もう少し、ちゃんと消えてくれる製品が出るまで、そのままにしておくつもりだ。

 しかし、どうも調子づくと考えなしに筆を走らせてしまう。書き始めた頃から、そのクセが抜けない。

 クセという漢字が分からないので、辞書を引いたが、億劫になって、どうでもよくなった。今日は、どっと疲れた。

 一眠りしていた。悩んだが、眠れないので書くことにした。

 夜半に起きたので、月明かりで書けないものかと試してみたが、今日は暗くて駄目だ。

 こんな夜中に、電気を点けるのは気が引けたので、文机の上に灰皿を置いて、そこにマッチで火を灯した蝋燭を立てた。頼りない明かりが文机を照らした。

 マッチも蝋燭も貴重だが、電気を使うよりはマシだ。電気は滅多に点けない。料金の仕組みがよく分からないので、まともに使ったことがない。

 爺さんと親父は、溢れるほど金を持っているが、俺にはない。節制しないといけない。

 普段は馬鹿をするクセに、こういうところはケチくさい。

 それでも、しないよりはましだろうと節制している次第である。

 今日、風呂屋に行く道すがら、偶然、あの友人に会った。

 顔を合わせるなり、

「やあ、良さんじゃないか、丁度良い、仕事をしないか」

 と軽い調子で言われた。

 どんな仕事か訊いたら、俺の住んでいる、この離れ屋の裏山に物を運ぶ仕事だと言った。何を運ぶのかも訊いたが、それは仕事を引き受けたら教えるときた。

 余裕綽々の悪い顔をしていたので察しがついた。

 殺したな。

 あの悪人面したハゲの死体を捨てて来いと、そういうことだろう。

 俺を共犯にするつもりだ。

 そう思うと、はっきりと断れんようになった。

 何せ、怖い。

 それで、適当にはぐらかして逃げた。

 
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