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第三章 六年後編
放映初日の客席(1)
しおりを挟むスタジアムの三階にある特別観戦席。
段違いになっているだけの客席とは違い大型の窓のある完全個室である。
その白を基調とした清潔感と落ち着きを感じさせる室内で、物憂げな細身の美女と上背のある逞しい美男が並んでソファに腰かけている。
艶のある黒い直毛を肩で斜めに切り揃え、赤いチャイナドレス風の華美な金の刺繍を施された衣服に身を包むのは、アル氏族国家の氏族長ルォシー・アル。二十四歳。
ルォシーに寄り掛かられているのは、短い黒髪の、金の刺繍が施された赤いクルタ風の上着と白い緩やかなズボンを穿いたクリシュナ・チャンドラー。
日本から転移したインド系日本人でありルォシーの伴侶でもある三十八歳。
ルォシーは白い肌に細面、吊り上がり気味の細い目で妖艶な印象を抱かせる。対してクリシュナは褐色の肌で目鼻立ちがはっきりしており、爽やかな印象を抱かせる。
観光でラズグリッドを訪れた二人は、クリシュナからソウルカードのメッセージ連絡を受けたシンを通じ、スカーレットによってスタジアムに招かれていた。
「よく来てくれたね。それにしても、君たちはいつ見ても真逆かと」
二人とは別のソファに座るシンが苦笑して言った。寄り添っているスカーレットが「失礼よ」と小声で慌ててたしなめるが、クリシュナは快活に笑う。
「クハハハ、相変わらず遠慮がないな! シン!」
「遠慮など、私たちには必要ないことかと」
「それはそうだ! スカーレットさん、招いてくれて感謝する!」
「あ、いえ、あ、あの」
一切の躊躇いを見せることなく、クリシュナが深々と頭を下げる。その実直な態度と行動に、スカーレットは恐縮した様子でオロオロする。
「スカーレット、慌てなくて良い。クリシュナは私の知る限り最も真っ直ぐな男なので、細かいことは一切気にしないかと」
「クハハハ、その分、無頓着だからな! よくルォシーにも叱られる!」
「旦那様、少しお声を落としてくださいまし」
「ああ、これはすまん」
ルォシーが扇子で口元を隠し「ふぅ」と溜息をこぼす。
「お加減が悪いのですか?」
「いえ、どうぞお構いなく。夏の日差しにやられただけですゆえ」
「では、お飲み物でも」
招いたのは氏族長とその伴侶。失礼があってはいけないと、スカーレットが必死になって気遣いを見せ続ける。それを見たクリシュナがまた笑う。
「クハハハ、お心遣いに感謝する! だが気になさらずとも結構! ルォシーの用心深さは筋金入りだからな! 俺が出した物にも手をつけんのだ!」
「お気を悪くなさらないでくださいましね。お気持ちだけで十分ですゆえ」
「スカーレット、ルォシーは私とよく似ている子なので、気遣いは不要かと」
「あ、そ、そう」
シンもスカーレットから渡された物は口にしない。食事は自分が買ってきた食材を調理したものしか食べない。スカーレットは会食など特別なことがない限りシンの手料理を食べている。似た環境にいるクリシュナが「慣れだ慣れ!」と言って笑った。
(なんだか場違いな気がするわね……)
シンが肩を落とすスカーレットの頭を優しく撫でる。
「萎縮することはないかと」
「うん、ありがとう」
小声での遣り取りを済ませたとき、正面に設置された巨大モニターに映像が映し出された。開始前の注意事項がコミカルなキャラクターによって説明される。
「おお! 日本の映画館のようだな!」
「まぁまぁ、可愛らしい。あの生き物は何でございましょうや?」
「猫と栗鼠。俺たちのいた世界のものなので、レクタスにはいないかと」
「あ、良かったらこちらを」
スカーレットがストレージからキャラクターグッズを取り出す。巨大モニターの中を跳ね回るデフォルメされた猫と栗鼠のアニメキャラをぬいぐるみにしたものだ。
ルォシーが細い目を見開いて輝かせる。
「まぁまぁまぁ、いただいてよろしいのでしょうや?」
「ええ、もちろんです。友好の証として是非受け取っていただければと」
クリシュナを通し、ルォシーが丸々とした猫と栗鼠のぬいぐるみを受け取る。手渡されるや否や、頬を紅潮させて抱き締め頬ずりする。
「はぁあ……なんとまぁ可愛らしい……!」
「喜んでいただけて良かったです」
ルォシーが感激した様子で何度も頷く。
「えぇ、えぇ。肌触りも香りも良くて、具合の悪さも消えました。ありがとうございます。この二匹は妾とスカーレット様との友情の証と致しましょうや……!」
「クハハハ、良かったなルォシー!」
「スカーレットも、ね」
シンに言われ、スカーレットは俯いた。涙ぐんでいた。このキャラクターグッズを考案し製品化したのはスカーレットだった。心から喜ばれたことに感動していた。
(人に喜ばれるって、こんなに嬉しいことなのね)
表に出ることができない為、受け取る人の反応を目にしたことがなかった。
こんなに胸が熱くなるものなのかと、危うくもれそうになる嗚咽を堪えるのに必死になるスカーレット。それをわかっていると言いたげに、シンが抱き寄せ頭を撫でる。
「ほら、そろそろ始まるので」
「うん……」
鼻をすすって、胸ポケットから取り出したハンカチで目元を拭う。
ルォシーとクリシュナをスタジアムに招いた理由は紹介したい人がいたからだ。
思惑に違いはあるが、シンもスカーレットも、ルォシーとクリシュナには伝えておきたかった。放映許可を出してくれた、新たな若い力の存在を。
『相変わらず、ひしめいてんなぁ』
若々しさを感じさせる男の声がスピーカーから流れ、魔物に囲まれた状態で悠々と準備運動をする十六歳の少年の背が巨大モニターに映る。
観客で溢れるスタジアムがしんと静まり返る。
画面下部に『中級ダンジョン最下層ボギーベアVSイスカ&ソニア』と表示され、撮影者のハオランと編集者スカーレットの名前も、その下に小さく出る。
「イスカ?! まさか、この少年がアメリアの言ってた転生者か?!」
「旦那様、お声を落としてくださいまし! 始まりますゆえ!」
シンに向かって大声で言うクリシュナをルォシーがやや声を強く上げて制する。
苦笑して前を向くよう指で示すシンに従い、クリシュナは画面に視線を戻した。
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