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第三章 六年後編
夜の相談
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攻略動画のスタジアム放映については一旦持ち帰らせてもらうことで話し合いを終え、俺と婚約者二人は久しぶりにラズグリッドの街を観光した。
「私が住んでいた頃と比べるとずいぶん変わったわ」
ソニアが大勢の人で賑わう繁華街を歩きながら言った。
「そうなのか?」
「ええ、ここにね、クレープ屋さんがあったの。ダディとマムがよく連れて来てくれたのよ。店員のお姉さんが優しくて、たまにおまけしてくれたの」
「そうなんだ。そういうお店がなくなると寂しいよね」
「そうね。でも、新しい店ができて、それが誰かの思い出になってるのよね。幸せなものかどうかはわからないけれど、ときが過ぎるってそういうことなのよ」
「ティーンエイジャーの只中にいる女子の言葉じゃないだろそれ。寂しい程度にしといてくれよ。お婆ちゃんの感想みたいでこっちまで切なくなる」
「仕方ないじゃない。前世二周と転移転生分を含めれば百歳近いんだもの」
「さいですか」
俺は一周目が夢に見た分しかないし、二周目も二十年分の記憶が消えている。ソニアは転生後に二割程魂が削られたらしいが、俺とは比べるべくもない量の過去を背負っている。悟った風な発言になるのも無理はないだろう。
そんなソニアと俺との共通点は前世の名前を捨ててるってことだ。
思い入れがないというか、実用性を重んじるというか。
似た者夫婦なんだろうな。
そう思って微笑むと、ソニアも微笑んで俺と腕を組んだ。
ハオランも合わせるように俺と腕を組み、体を寄せる。
両手に花。とても美しい花。そして周囲からは憎悪の視線と敵意。
まだ夕方なのに、歓楽街は柄が悪いのが多いな。
歩道にたむろしていたチンピラっぽい四人組の若者が立ち上がり、顎を上げて近寄って来たので【分析】で確認。全員、レベルは十。
あらぁ、シミュレーターで鍛えて調子に乗っちゃった輩かな。
ちょっと強者の気配を出したら「俺、塾あるから!」と慌てて一人が逃げ出し、俺も俺もと蜘蛛の子を散らすように姿を消した。塾があるなら仕方ない。
しかし、あんな世紀末覇者に従う狼藉者みたいな格好で塾通いとは。
人は見かけによらないな。
「絶対に嘘ね」
「言ってやるなソニア」
俺は我慢したのに。
そういう辛辣なやり取りの最中、ハオランがすり寄ってきた。
「はぁ、なんだか僕もシュンジュの肉まん屋さんが恋しくなっちゃったよ」
「ああ、あの出店か」
「何の話?」
「うん? ああ、俺が『神門』を通って一文無しでシュンジュに出た初日にな、ハオランが肉まんをおごってくれたんだ。それからもちょくちょく行ってたんだよ」
「出店のおっちゃん、元気かな。今度ヨウリンに訊いてみよっと」
オンソウたちとは、たまにソウルカードのメッセージでやり取りしている。
俺たちがシュンジュを離れた一年後には、二組の夫婦の間に子供が産まれた。顔を見に来いというメッセージがきているが、なんだかんだ忙しくてまだ叶っていない。
「いいわね。二人は思い出の店があって」
「あ、じゃあ三人の思い出を作ろう。ここに入るぞ」
「え? ここって」
「いいから。ほら、行くぞ」
ソニアが少しむくれたので、近くにあった宝石店に入り婚約指輪を買って贈った。ハオランにもだ。ちょっとした飲食店で三人の思い出を作ろうと思ったが、夜はラスコール邸での会食に誘われている。思い出は食い物でなくたって良い。
まだ贈ってなかったし、焦って咄嗟に思いついただけのムードも何もない衝動的な行動だったけれど、二人は泣くほど感激してくれた。どうやら思わぬサプライズとして受け取ってくれたようだ。デリカシーがなくてごめんなさい。
その後、一度車に戻ってドレスアップし、ラスコール邸での会食を滞りなく済ませた俺たちは、宿泊の勧めを固辞してラスコール邸を後にした。
やはり一流のコース料理には慣れない。それなりにマナーは学んだが、合っているのか不安になるし肩が凝る。ソニアを見ながらどうにかやり過ごした感じだ。
宿泊の誘いなんて受けたら胃に穴が空きそうだ。
それから俺たちは、宿泊を固辞した際に用意してもらった宿泊施設に入った。
事前に断られることも予期して段取りをつけておくスカーレットの周到ぶりには恐れ入る。部屋の代金も無料な上、案内されたのはだだっ広いロイヤルスイート。
窓からの夜景も美しい。どんなVIP待遇だよ。
「これも固辞しておくべきだったかな?」
「う、うーん、放映を断り辛くなっちゃったのは確かだよね」
「断るつもりなの?」
ソニアに首を傾げられ、俺も腕組みして首を傾げる。
「んー、いまいち実感が湧かなくてさ。俺たちが有名人になるってことだろ? 色々と弊害が出るんじゃないかって漠然と想像してはいるんだけど」
「あら、でも宣伝動画は各家のモニターで放映されるわよ」
「あ……」
そちらも確認していた。一分と短く、また凄惨な場面も落とされているが、バッチリ俺とソニアが映っていた。最も迫力のある部分の切り抜き編集だ。
「あれって、どこまで放映される?」
「イスタルテ共和国領のすべての街ね。多少のズレはあるでしょうけど」
レクタスは魔物が跋扈している為に、各街との通信を行う為の通信塔を建設することが敬遠されている。防衛や修理でコストが見合わないからだ。
ゆえに放映と通信は各街限定のものになる。
つまりソニアの言う『多少のズレ』とは、映像データが各街の放送局に届けられるまで放映ができないことを言っている訳だ。
「でも、おそらくそろそろ街を繋ぐ中継通信塔も作られると思うわ」
「え、そうなの?」
「ああ、そうか。コストに見合うだけの利益が見込めるからか」
「そういうこと。だから悩む必要はないと思うわよ」
遅かれ早かれ、結局は有名人ってことね。
俺は両手を広げて項垂れ、溜息を吐く。
「じゃあ、あとは報酬交渉だけだな」
「とんでもない額になると思うわよ」
「はぁ、なんだか夢みたいだよ。イスカ兄ちゃんと会ってから、ずっと」
ハオランがまたくっついてきた。合わせてソニアも。
「君たちは打ち合わせでもしているのか」
「ハオランが左で私が右よ」
「えへへ、半分こしたんだもん」
なんだか密着具合が普段よりすごい。
「ねぇ、今日が初めての日で良いんじゃない?」
「う、うん。僕も、そう思ってた。ねぇ、イスカ兄ちゃん、その、僕と」
「こ、ここここらー!」
俺は前屈みで二人から逃げる。
「馬鹿なこと言ってないで風呂入って寝るぞ! ベッドは君たちが使いなさい! お兄ちゃんはどっかで適当に寝るからね! 夜這いとかやめてね!」
「もう! こっちだって恥ずかしいのに! イスカ兄ちゃんの馬鹿!」
「ふふふ、大丈夫よハオラン。お風呂も一緒に入れば良いのよ」
「あ、そっか」
「やめなさい!」
俺は二人に風呂を譲り、二人が諦めて眠るまで風呂に入らなかった。
そしてソファで寝たのだが、翌朝、何故か全裸で二人と一緒にベッドにいた。
え、なにこれどういうこと?
血の気が引いてソニアを起こして問い詰めたところ、俺が寝ている間にベッドに連れ込み、服を脱がせて観察していたことが判然とした。
道理で二人はパジャマを着てる訳だ。
何もなくて良かったよ本当に。と思いながら急いで下着を穿く。
「何してんだよ怖い!」
「その……どのくらいのものが私たちの中に入るのか気になって……」
「お、大きかったよね。あんなの僕に入るのかな……?」
ソニアとハオランが顔を真っ赤にして俯く。やめなさいよもう。
俺はもう、なんかもう羞恥心とかそういうので目が回る思いだよ。
まったくこの義妹たちは!
「君たちそこに正座しなさい!」
俺は朝食の時間になるまで二人にたっぷりと説教した。
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