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カラット王国編

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 ガゼルが来たことは幸いでした。博識で聡明、かつ気配りのできるガゼルは、クラウスとアルベルトの性格をよく知っていました。二人がメイに対してどのような感情を抱いているかも、おおよその察しはついていました。

 ですので、ガゼルは三人の様子から背筋に冷たいものを感じました。胸の不穏なざわつきに従い、メイが口を開こうとするのを慌てて止めました。

「メイ、すまないが少し散歩に付き合ってくれないか。いや、いい天気だね」

 メイの返事も聞かず、ガゼルはさっとメイの肩を抱いてその場を離れました。

「すまないね。不躾なことをしているのは分かってる。許してくれ。だが君はあの場で王家の威信も沽券も失墜させてしまうようなことを口走りそうだったからね。どうだい、示談交渉ってやつをやらないか?」

「あら、何も聞かないうちから示談交渉だなんて。何故ガゼル殿下は私に非がないと仰ってくださるのですか?」

「もし君に非があるなら、クラウスはあれほど狼狽えはしないよ。あれは疚しいことがないと、あんな風にはならない質の男だから。さて、そろそろ何があったのかを聞かせてもらっても?」

「勿論です」

 メイは小声で簡潔に話しました。ガゼルの笑顔からさっと血の気が引きます。

「止めて良かった。あの場で話されていたら、この国が引っくり返っていたところだよ。これは内々で処理させてもらいたい。勿論、ただでとは言わない。君も最初からそのつもりだったんじゃないかい?」

 ガゼルの提案に、メイはにっこりと笑います。内心では、人聞きの悪いことを言うガゼルに例の言葉をぶつけてやりたい気持ちでしたが、ぐっと堪えて交渉に乗ることにしました。

「でしたら──」

 その後、ガゼルとメイは王の元へと戻りました。そしてガゼルにこっそりと耳打ちされた王は泡を吹いて倒れてしまい、それを期に茶会は終了となりました。

 クラウスが、女王国家の王配として出されたのはそれから間もなくのことでした。それとほぼ同時に、アルベルトとメイの婚約発表が成されました。
 その発表にカラット王国民は沸きに沸きましたが、当のアルベルトは寝耳に水でした。普段通りに目を覚まし、手早く身支度を整え、朝食の席に着いてコーヒーを一口すすりながら、落ち着き払った顔で朝刊の一面に目を遣るというローテーションの中に、コーヒーを噴き出すという動作が加わりました。

「なんじゃこりゃあ⁉」

 そうです、アルベルトは自分の婚約を朝刊で知ったのです。これはどういうことなのかと、すぐに父王に問いただしに向かいました。しかし、父王はクラウスの一件でやや正気を失っているところがあり話になりません。それで王城内の魔法研究室にいるガゼルに訊きに向かったのですが、真相を聞かされたアルベルトは目を剥きました。
 
 
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