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もう一人の渡り人編
閑話 ムラキ・チエの思い
しおりを挟む馬鹿ばっかり。優れてるって大変だわ。
普通に学校を卒業して、普通に就職して、普通に恋愛をして、結婚して子供を産んで。そういう生活を夢見ている連中って、なんでこんなに多いのかしら。
そんなの平凡で退屈な人生が待ってるだけじゃない。なのに同僚が結婚したとか妊娠したって話で盛り上がって、羨ましいーだなんて、馬鹿かよ。
羨ましがってる暇があるなら、そうなるように行動すれば良いってだけなのに、なんでそれができないのかしら。簡単な話じゃない。婚活パーティーでも合コンでも出て、適当に好みの男見つけてホテルに行くだけのことでしょ。
それであんたが羨ましがってる形は手に入るわよ。私には考えられないけどね。
本当、なんでこの世界ってこんなに馬鹿が多いのかしら。綺麗事並べ立ててりゃ好感度上がるって仕組みもどうにかなんない訳? 誰よそんなクソみたいなシステム作ったの。皆嘘吐きになってるだけじゃない。ほら、これこれ。
通勤路で信号待ちしてる間、頭の薄らハゲて太ったおっさんがハンカチで汗を拭いてる。それを近くにいるカップルがコソコソ話しながら指差して笑ってる。
これ、おっさんの方が笑われたって仕方なくない? クタクタのスーツ姿でさ、フゥフゥ言いながらそんなことしてりゃ笑われもするでしょうよ。
なのに、なんでカップルの方が周りから非難がましい目で見られてる訳?
絶対におかしいわよ。
職場でも、もっとできるはずなのに、すっとろい馬鹿ばっかりいるから足を引っ張られてやりたいようにできないし、こうした方が良いって教えても、全っ然言うこと聞かないし。教えた通りにもできないんなら職場に来てんじゃねーよ。
「ムラキ君、君ね、査定の自己評価が全部最高点になってるけど、これは冗談ではないんだね? だとすれば、思い違いも甚だしい。その理由が分からないとしたら、悪いがうちには置いておけない。これまでも注意してきたが、今一度よく考えてみなさい」
何言ってんの? 前々から使えねー上司だと思ってたけどさ、あんたより使えない馬鹿を教育したら、来なくなったってだけでしょう。二回も同じ失敗してんのよ? ちょっとキツく注意しただけで来なくなる方がおかしいのよ。
「カッター、投げたんだって? ペンとハサミも。君は注意って言ってるけどもね、安全会議にも話が上ってるんだよ。またあいつかって、いい加減切らんと駄目だって話にもなってる。悪いが、流石にもう庇い立てできん」
誰も彼も、上辺を取り繕って、手を取り合いましょうなんて、嘘臭くて気持ち悪いのよ。この馬鹿だって、こんなこと言ってるけど、すぐに手の平返すわよ。会社にも、奥さんと子供にも知られたくないこと、私にしたんだもの。
というか、させたんだけど。だってその方がやりやすいんだもの。
なんでもかんでもさー、私が悪いみたいに話を持ってくけど、あいつら言うほどできてる? 私の方ができてるわよね? できてる方が偉いに決まってるでしょ?
仕事ができても、周囲と上手くやれないならいらないとかいう訳わかんないシステムがあるから、あんたみたいな馬鹿に股開いてやったんじゃない。
私は被害者。分かる? あんたは私を庇い続けないといけないの。
ま、あんたが飛んでも他にもいるけどさ。陰で私のことブスだとかなんだとか言ってる割には喜んで誘いに乗る馬鹿ばっかりなのよね。後のことも考えられないのかしら。自分の方が上手くやれるとでも思ってんのかしらね? 本当、馬鹿ばっかり。
あー、そうだ。明日バーベキューあるんだった。久し振りのリフレッシュ。言いなりになってくれる人ばっかりだから楽しみだわー。
このクソみたいな世界を忘れられるひとときよねー。あー、そっか。この世界が私に合ってないのが悪いのよね。漫画みたいに勇者召喚とか聖女召喚とかされないかなー。
気に食わなかったら殺しちゃったりできる世界とか超憧れるんだけどなー。
――――
その後、チエはバーベキューをしに行った小高いキャンプ場の崖から、言いなりにしていた者達の手で突き落とされて異世界転移を果たす。
転移先はウェズリー山、ラグナス領、魔の森。
魔物はびこるその森で、チエは、とある二人組の男女に救われる。
そして――。
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この言葉が発端となり、工作員として雇われることになる。
ただ勘違いを面白がられているだけとも知らずに。
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