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第五話
イスカ(2)
しおりを挟む「フェリルアトス様は君をこちらの世界に引っ張り込んだところで力を使い果たしたらしくてね、どうもその後が疎かになってしまったみたいだ」
「ほほう、詳しくお願いします」
「『ワンオペでは色々と無理があった』らしい。君の魂を魔物になるように設定した上で人の受精卵に収まる設定も加えたら君の魂が錯乱してしまったそうだよ」
「ええと? 要は人の魂を魔物に作り変えた上で人に産ませるってことですね。肉体は人で魂が魔物になると。それで錯乱した俺の魂はどうなったんです?」
「それがね、神域から逃げ出しちゃったらしい。フェリルアトス様はすぐに探したらしいんだけど見失ってしまったようだね。君は君で、調整終了前に受精卵に宿ったから、肉体と魂が半分ほど『ズレて』しまったそうだよ」
「『ズレる』とどうなるんですか?」
「隙間は魂が育って満たしていくから命に別状はないらしいんだけど、肉体に魂が満たされるまで転生者として覚醒することはないし、はみ出た魂に含まれた記憶はその魂と共に消えてしまうって書いてあるね。君は前世を四十歳で終えているから二十年分の記憶が消失したようだね。君の前世の記憶が完全でないのはその所為みたいだ」
「ああ、それで」名前が思い出せないのか。
「心当たりがあるみたいだね。でも忘れる記憶は君自身が無意識に取捨選択してるらしいから気を落とすことはないよ。断捨離だと思えば良いさ」
俺は名前を断捨離したのか。どんだけ思い入れがなかったんだよ。逆に気になるわ。
「ちなみに、私が君を見つけられなかったのもそこに原因があるようだよ。私はこの世界における異物にしか反応できないように設定されているからね。君が前世の記憶を思い出し、転生者として覚醒するまで見つけることができなかったという訳だ。すっかり騙されたよ。近くに行けばわかるって、まったく酷い嘘を吐かれたものさ」
ラフィががっくりと項垂れ、深い溜息をこぼす。前世の記憶が戻るまで見つかる訳がない俺を延々と探し続けさせられていたと気づけばそうもなるだろう。どうやらフェリルアトスの悪戯好きは健在のようだ。
いや、もはや悪戯の域は越えてるよな。十年くらいは俺を探してたことになる訳だから。暇を持て余した神の遊びはスケールが大きいってことか。
…………
──はい見つけた。というラフィの声で現実に引き戻される。
「今回は三分二十八秒。良くないね。考えごとでもしてた?」
「仰るとおりでございます」
俺は肩を落として溜息を吐く。雑念が過ぎたな。反省。
今の俺は『ベ』から始まる妖怪三人の気持ちがわかる。なにせ魔物人間。彼らと違いフェリルアトスに会いさえすれば願いが叶うが、それでも早く人間になりたぁいのだ。
当面の目標は【気配遮断】という技能の取得と俺が生まれたこの監獄島からの脱出。ラフィは神像のある教会に行かないと転移魔術が使えないそうなので、それがある監獄街の上級区画に行く為に俺はこうして訓練しているという訳だ。
まずはソウルカードの身分証明ありき。その後ストレージのトレード機能で衛兵と看守に袖の下を渡してソウルカードの身分証明を誤魔化す。それを二度繰り返すことで上級区画に入れるらしいのだが、生憎と俺はそのどちらも使えない。
つまり忍び込むしかないということ。だから【気配遮断】が必要なのだ。
まったくもって煩わしい。街に入るだけでも苦労する。街というか監獄か。俺の育ったところはこの世で最も劣悪な監獄貧民区だったらしい。くっ、フェリルアトスめ。
ああ、早く技能取得できねぇかなぁ。ラフィはそろそろって言ってたけど。
「おお、おめでとう【気配解放】を取得してるよ!」
「そっちかよ! 隠させろよちくしょう!」
木から下りるなり失意体前屈。隠れてるのに何度も見つかると取得できる技能らしい。【気配遮断】が取得できれば【気配制御】に進化統合されるので無駄ではないとのことだが違うんだ。そういうことじゃないんだよラフィ。
なんか悔しいんだよ俺は。なんか悔しいんだよ本当に。ちくしょうめ。
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