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第九話
訓練終了(2)
しおりを挟む「ちなみに、現在の世界最高レベルってわかります?」
「んー、私の知る限りでは七十五が最高かな。といっても私がその人を【分析】で見たのは十年くらい前だから、今はもっと高いかもしれない。あるいは、もう亡くなっているかもね。そのとき私が見たのはゲイロードという人でね、当時七十歳だったと思う。アリアトス聖教国という国の枢機卿団長をやってる人だった。今はゲイロード帝国に名前は変わってるけど、存命ならそこの初代皇帝をやってるはずだよ」
俺は額に指を当てて目を閉じ頭の中で話を反芻する。うん、意味がわからん。
「あの……ラフィ、ちょっとまた情報過多気味でよくわからないんですが、俺の認識だと、枢機卿団長っていうのは、要は偉いお坊さんですよね?」
ラフィが「うん、そうだよ。なにか気になった?」ときょとんとした顔をする。
「いや、何がどうしてお坊さんが皇帝になったのかなと?」
少しの沈黙の後、ラフィが腕を組んで難しい顔をする。
「んー? 言われてみれば確かに。私も詳しい経緯については知らないんだよ。おそらくフェリルアトス様が私を世情に強く設定していないんだと思う。なんというか、私は与えられた案内人の仕事を優先するようにできているから、他のことはあまり気にしないんだ。イスカのことを諦めずにずっと探し続けていたのもそれがあるからだと思う。プログラムされた内容に従うというか、どこか機械的なんだよ。その自覚もあるし」
俺は「なるほど」と言って頷く。その際、ふと『機械的』という言葉に引っ掛かりを感じた。あの白い空間でフェリルアトスがそういうことを話していなかっただろうか。
確か『特異点への機械的な対処』だとか『御使いが狙ってしたことではない』とか言っていたような。多分、女子生徒が話したときの耳鳴りと口元のモザイクのことを言っていたのだと思うが、あれは一体、何だったのか。そしてそれを俺に仕掛けた御使いとは一体。おそらくは神の御使いのことなのだろうが、とりあえずその認識で合っているかラフィに確認してみることにした。
「ラフィって、フェリルアトスの『御使い』なんですよね?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、地球にも『御使い』がいた?」
「神がいれば『御使い』はいるね。でも、私の知る限りでは存在しないよ」
「存在しない? ということは、地球に神はいない?」
「地球の神は別の惑星を作って見守ってるよ。今はその惑星の神になってるってことだね。地球って奇跡の惑星というか、神界では傑作の部類なんだよ。作品として完成してるから、神の手を放れて久しいんだ。ただ、完全に手放す訳ではなくて、管理を行う『御使い』は残していくはずなんだ。それが何故いないのかは私にもわからないな」
いない? じゃあ、あの耳鳴りとモザイクは何だったんだ?
顎に手を遣って首を傾げていると、ラフィから「そんなに悩まなくてもフェリルアトス様に訊けば済む話だよ」と言われた。確かに。
とはいえ今それを訊くにはソウルカードのメッセージ機能を使う必要がある。自分で使えればいいが、生憎と俺は魔物なので不可能だ。
かといってまたラフィを伝言役にするのは気が引けたし、どうせ近いうちに会いに行くことがわかっているので俺はさっさと話題を戻すことにした。
「さっきの話ですけど、ゲイロードさんでしたっけ? 今も生きてたら八十歳ですよね? そこまで生きれる人って、この世界だと珍しいんじゃありません?」
「そうだね。おそらく平均寿命はそこまで高くはないと思う。でも平均を引き下げてる要因の一つは無理して強い敵と戦って死ぬ人が多いからな気がするんだよね。当たり前のアドバイスしかできないけれど、レベルは無理せず上げる方がいいよ」
さもありなん。俺は現在レベル四だが、それでも過酷な状況で生き延びれた。日常生活をする分には、レベルはそこまで必要なものではないということだろう。
そう思ってラフィに確認したところ、かぶりを振られてしまった。
「それは違うよ。魔物が横行してる世界なんだから強いに越したことはないさ。場所にもよるけど、治安も決して良いとは言えない。レベルが低いと、いざというときに何もできずに死ぬからね。ちなみにイスカは【野生】で身体能力が強化されてるからストレーダーグを倒せたけど、レベル四で技能がない人だと不意打ちを仕掛けても頭を一撃で潰すのは難しいだろうね。技能なしだとレベル八は必要かな」
「じゃあ、そこまでダンジョンでレベリングする訳ですか?」
「それは国によるかな。例えば、イスタルテ共和国という先進国があるんだけど、そこの大人たちは護身の為にシミュレーターを使って十程度までは上げてるよ」
「なんですシミュレーターって? 仮想現実的なものですか?」
「いや、現実だね。部屋でゴブリンの立体映像を纏った小型機械人形と戦うんだ。実際のゴブリンと強さは同じだけど、そこで死ぬ可能性は限りなく低いし衛生的だからよく利用されてる。小型機械人形には安全装置が付いてるから、気絶したり大きな怪我を負ったりすると自動停止するんだよ。医療設備もあるし武器も貸してもらえるよ」
「安全が保障された状態でレベルが上がるんだったら、レベル十どころかずっとシミュレーターに籠りそうなもんですが、そういう感じでもないんですかね?」
「生憎と十二が限界なんだよね。私も転移者に付き添って行ったことがあるけど、レベルが上がるごとに取得できる経験値が落ちて、十二で一切入らなくなるって職員から説明を受けた。あと、有料なんだよね。破壊した小型機械人形と武器の修理費、それと治療費が利用料金に追加されるから懐に優しくない。それでも実際に武器を購入してダンジョンに潜ることを考えれば安上がりではあるんだよね。見返りはないけど」
「それで、お値段は如何ほどですか?」
「大体、レベル十まで上げて給料三カ月分って話だよ」
聞き終えた瞬間、失意体前屈。子供の頃に聞いた結婚指輪の相場。なんて世知辛い。
そういう会話を済ませた後で、ラフィが「そろそろフェリルアトス様に会いに行こうか」と提案した。俺は一も二もなく賛同した。ようやくだ。
まずはこの監獄島とやらから脱出せねばならない。【気配制御】にどの程度の効果があるのかも知りたかったので、少し胸が躍った。
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