【完結】イスカソニア前日譚~風と呼ばれし不羈のイスカと銀の乙女と呼ばれしソニアが出会う遥か前の物語~

月城 亜希人

文字の大きさ
44 / 55
第九話

訓練終了(2)

しおりを挟む
 
 
「ちなみに、現在の世界最高レベルってわかります?」

「んー、私の知る限りでは七十五が最高かな。といっても私がその人を【分析アナリシス】で見たのは十年くらい前だから、今はもっと高いかもしれない。あるいは、もう亡くなっているかもね。そのとき私が見たのはゲイロードという人でね、当時七十歳だったと思う。アリアトス聖教国という国の枢機卿団長をやってる人だった。今はゲイロード帝国に名前は変わってるけど、存命ならそこの初代皇帝をやってるはずだよ」

 俺は額に指を当てて目を閉じ頭の中で話を反芻する。うん、意味がわからん。

「あの……ラフィ、ちょっとまた情報過多気味でよくわからないんですが、俺の認識だと、枢機卿団長っていうのは、要は偉いお坊さんですよね?」

 ラフィが「うん、そうだよ。なにか気になった?」ときょとんとした顔をする。

「いや、何がどうしてお坊さんが皇帝になったのかなと?」

 少しの沈黙の後、ラフィが腕を組んで難しい顔をする。

「んー? 言われてみれば確かに。私も詳しい経緯については知らないんだよ。おそらくフェリルアトス様が私を世情に強く設定していないんだと思う。なんというか、私は与えられた案内人の仕事を優先するようにできているから、他のことはあまり気にしないんだ。イスカのことを諦めずにずっと探し続けていたのもそれがあるからだと思う。プログラムされた内容に従うというか、どこか機械的なんだよ。その自覚もあるし」

 俺は「なるほど」と言って頷く。その際、ふと『機械的』という言葉に引っ掛かりを感じた。あの白い空間でフェリルアトスがそういうことを話していなかっただろうか。

 確か『特異点への機械的な対処』だとか『御使いが狙ってしたことではない』とか言っていたような。多分、女子生徒が話したときの耳鳴りと口元のモザイクのことを言っていたのだと思うが、あれは一体、何だったのか。そしてそれを俺に仕掛けた御使いとは一体。おそらくは神の御使いのことなのだろうが、とりあえずその認識で合っているかラフィに確認してみることにした。

「ラフィって、フェリルアトスの『御使い』なんですよね?」

「うん、そうだよ」

「じゃあ、地球にも『御使い』がいた?」

「神がいれば『御使い』はいるね。でも、私の知る限りでは存在しないよ」

「存在しない? ということは、地球に神はいない?」

「地球の神は別の惑星を作って見守ってるよ。今はその惑星の神になってるってことだね。地球って奇跡の惑星というか、神界では傑作の部類なんだよ。作品として完成してるから、神の手を放れて久しいんだ。ただ、完全に手放す訳ではなくて、管理を行う『御使い』は残していくはずなんだ。それが何故いないのかは私にもわからないな」

 いない? じゃあ、あの耳鳴りとモザイクは何だったんだ?

 顎に手を遣って首を傾げていると、ラフィから「そんなに悩まなくてもフェリルアトス様に訊けば済む話だよ」と言われた。確かに。

 とはいえ今それを訊くにはソウルカードのメッセージ機能を使う必要がある。自分で使えればいいが、生憎と俺は魔物なので不可能だ。

 かといってまたラフィを伝言役にするのは気が引けたし、どうせ近いうちに会いに行くことがわかっているので俺はさっさと話題を戻すことにした。

「さっきの話ですけど、ゲイロードさんでしたっけ? 今も生きてたら八十歳ですよね? そこまで生きれる人って、この世界だと珍しいんじゃありません?」

「そうだね。おそらく平均寿命はそこまで高くはないと思う。でも平均を引き下げてる要因の一つは無理して強い敵と戦って死ぬ人が多いからな気がするんだよね。当たり前のアドバイスしかできないけれど、レベルは無理せず上げる方がいいよ」

 さもありなん。俺は現在レベル四だが、それでも過酷な状況で生き延びれた。日常生活をする分には、レベルはそこまで必要なものではないということだろう。

 そう思ってラフィに確認したところ、かぶりを振られてしまった。

「それは違うよ。魔物が横行してる世界なんだから強いに越したことはないさ。場所にもよるけど、治安も決して良いとは言えない。レベルが低いと、いざというときに何もできずに死ぬからね。ちなみにイスカは【野生】で身体能力が強化されてるからストレーダーグを倒せたけど、レベル四で技能がない人だと不意打ちを仕掛けても頭を一撃で潰すのは難しいだろうね。技能なしだとレベル八は必要かな」

「じゃあ、そこまでダンジョンでレベリングする訳ですか?」

「それは国によるかな。例えば、イスタルテ共和国という先進国があるんだけど、そこの大人たちは護身の為にシミュレーターを使って十程度までは上げてるよ」

「なんですシミュレーターって? 仮想現実的なものですか?」

「いや、現実だね。部屋でゴブリンの立体映像を纏った小型機械人形ミニオートマタと戦うんだ。実際のゴブリンと強さは同じだけど、そこで死ぬ可能性は限りなく低いし衛生的だからよく利用されてる。小型機械人形には安全装置が付いてるから、気絶したり大きな怪我を負ったりすると自動停止するんだよ。医療設備もあるし武器も貸してもらえるよ」

「安全が保障された状態でレベルが上がるんだったら、レベル十どころかずっとシミュレーターに籠りそうなもんですが、そういう感じでもないんですかね?」

「生憎と十二が限界なんだよね。私も転移者に付き添って行ったことがあるけど、レベルが上がるごとに取得できる経験値が落ちて、十二で一切入らなくなるって職員から説明を受けた。あと、有料なんだよね。破壊した小型機械人形と武器の修理費、それと治療費が利用料金に追加されるから懐に優しくない。それでも実際に武器を購入してダンジョンに潜ることを考えれば安上がりではあるんだよね。見返りはないけど」

「それで、お値段は如何いかほどですか?」

「大体、レベル十まで上げて給料三カ月分って話だよ」

 聞き終えた瞬間、失意体前屈。子供の頃に聞いた結婚指輪の相場。なんて世知辛い。

 そういう会話を済ませた後で、ラフィが「そろそろフェリルアトス様に会いに行こうか」と提案した。俺は一も二もなく賛同した。ようやくだ。

 まずはこの監獄島とやらから脱出せねばならない。【気配制御サインコントロール】にどの程度の効果があるのかも知りたかったので、少し胸が躍った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

処理中です...