上 下
43 / 55
第九話

訓練終了(1)

しおりを挟む
 
 俺がラフィと森で訓練を始めてから一週間が過ぎた。散々悔しい思いはしたが、無事に【気配遮断サインカット】の習得も叶い【気配解放サインリリース】と統合されて上位技能である【気配制御サインコントロール】を得ることができた。嬉しいのは、座学の時間が増えたことで、こちらの言葉がそれなりに話せるようになってきたことだ。まだまだ語彙は少ないが、最近はラフィとこちらの言葉で話している。

「うん、違和感がないね。十分に通用するよ。ネイティブと変わらない」

「本当ですか? そりゃ良かった」

 魔物とはいえ体は人。なんとなく文法が頭に馴染んでいたこともあり、さほど苦労することなく異世界言語を習得した。読み書きの練習もしているが、こちらは結構時間が掛かりそうだ。一週間程度ではどうしようもない。せめて一年は欲しい。

「そろそろお昼にしようか」
「あ、はい」

 集中していると時間が過ぎるのが早い。いつの間にか昼になっていたようだ。時間もラフィがいないとわからない。ストレージの左上に日付と共に表示されているからだ。

 ラフィに訊いたところ、月日と時間の形式は地球と変わらないようだった。

 というのも、地球をモデルにしているからだとか。

「改めて考えてみると、この世界って地球とそっくりですよね。そこまで詳しくないですけど、森にある木とか杉に似てるし、月も同じように見えますし」

「まぁ、そうだろうね。そういう風に設定したらしいから。はい、準備できたよ」

 ラフィがテーブル席を用意し、皿にパンを山盛りに置いてくれる。カップにはミルク。いつもの食事だ。文句を言える立場ではないので黙って食べているが、毎日三食すべてこれ。いい加減飽きている。こんなに美味くて無料なのに何を言っているのかと自分でも思うが飽きばかりはどうしようもない。食べずにいられない自分が憎い。

 ラフィは食べなくても平気らしいのであまり食べない。気遣いは不要とのことなので遠慮なくいただいているが世間一般的には気を遣うところだろう。魔物だからかお腹いっぱいになるまで食べるのをやめられないことを本当に申し訳ないと思っている

 とはいえ、こちらで十年過ごしたことで得た魂が俺を浅ましくしたのは間違いない。俺の食欲が本当に魔物であることと関係しているのかは謎だ。思えば、日本人だった頃は過剰な程に空気を読もうとしていた気がする。どうして他人からの目をあんなに気にしていたのかと思うほど気にならない。文句があるなら言えばいい。謝るから。

「ちょーっと食べ過ぎじゃないかい?」
「ごめんなさい。これで最後にします」

 備蓄が尽きそうだとラフィにぼやかれた。これは言われても仕方ない。だって二日で一マス分のパンを食べてるんだもの。本当に悪いと思っている。

 皿とカップは木製の物で、洗浄はラフィが水の魔術で行っている。【水術アクア】という魔術らしい。俺にも使えるか訊いたが、まだ無理とのこと。

「どうしてです?」

「イスカが魔物だからだね」

「魔物は魔術を使えないってことですか? 火を噴くのとかいそうですけど」

「いるけど、それは魔術ではないよ。といっても技能でもない。単純にそういう機能をもった内臓があるというだけだね。たとえば、今の話だと揮発性の高い燃料を作り出す二種の体液を二つの袋で分けて保有している場合が多いかな。歯を火打石代わりにして、打ち合わせると同時に二種の体液を混合して吐き出すんだよ」

「じゃあ、それとは別に魔術が使えるものもいるってことですか?」

「いるよ。人とは違って固有魔術をレベルアップで習得するんだ。【従魔契約テイミング】という技能を使って従魔にすればその設定変更も可能だよ。というか、実は弱体化するからそれをする必要が出るだけなんだよね。本来、魔物は所持してる技能と魔術をすべて使えるんだけど、従魔になると人と同じで設定した技能しか使えなくなるから」

「ん? それって俺が人になった場合は……」

「技能の見直しが必要になるね。今使っている技能だと設定枠数が合計六になるから、二枠使用する【益虫化】を外すか他の技能を二つ外す必要が出てくるね。あ、ごめん。【益虫化】は魔物の固有技能だから消滅するのか。失念していたよ」

「いえ、けどまさかそんなデメリットがあるとは」

「ストレージとソウルカードが不要ならそのままでいいんじゃないかな?」

「そう言われると、それがないデメリットの方が大きい気がしますね」

「実際、人の固有技能扱いだからね。枠数はかなり大きいと思う。設定枠制限があるのは、その所為だろうね。フェリルアトス様の言うバランスってやつなんだと思う」

 詳しく話を聞いたところ、保持している技能は設定枠に収めないと使えないらしい。設定枠の初期値は四。二十五で六に上がり、それからレベルが二十五上がる毎に二ずつ増え最大で十とのこと。つまりレベル七十五で最大値に到達するということだ。
 また技能によって必要な枠数も違うらしく、強力な技能ほど必要枠数が増え設定枠を圧迫するのだとか。しかし統合上位技能の場合は減ることもあるそうだ。

 レベル自体は百を超えても上がるようだが、そこまで上げている人はいないらしい。その理由はレベルが上がる前に寿命や病気、戦闘で死ぬからとのことだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

キャタピーとタイリー

絵本 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

七補士鶴姫は挟間を縫う

SF / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

新 女子総合格闘家JKマスクガールヒカリ(18禁)

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:8

最愛の敵

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

アキの日常

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

異世界転性いーあーるさぶすく!〜ぼくら月極用心棒〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:5

剣聖(婚約者)より強くなった。どうしようか

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:313pt お気に入り:2

バラバラ女

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...