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授業終了後、魔法薬の実習室横にある控え室に呼び出された私は魔法学のトバイアス先生、マーレン師、魔法学で魔法薬の指導を担当するエムデン先生に囲まれていた。
「クリステア嬢や、エムデンが聞いたことは本当かの?」
マーレン師が顎ひげを扱きながら私に尋ねた。
「ええと……どのことでしょう?」
媚薬のことなのは間違いないけれど、聞き咎めたポイントがどこなのかによっては答えが変わるわよね。
「しらばくれるのではない。クリステア嬢。君は……その、媚薬が魔力を増幅させる効果があると言っていただろう」
あ、そっちね。
「ええ、まあ……偶然知ったのです」
私はカルド殿下のことはできる限りぼかしつつ、偶然手に入れたカカオが媚薬の材料であったこと、それを使ってお菓子を作ったら味見の際に魔力が増加してのぼせた料理人がいたことなどを報告した。
しかし私は元々内包している魔力量からすると増加したと感じたのは微々たるもので、特に影響がなかったとその時は思ったけれど、今日の魔法薬の調合のときは明らかに普段より魔力が多く注がれてしまった。
だから、もしかしたら私には耐性があって、遅れて効果が出たのか、もしくは媚薬そのものに僅かながらでも持続性があるのではないかと思ったのだ。
そうじゃない場合に考えられるとしたら、媚薬の効果により魔力をコントロールする力が緩んで、魔力が多く注がれてしまったのではないかという可能性だ。
その場合、魔力量が少ない料理人たちは魔力がコントロールできずに溢れてしまったことでのぼせてしまったのではと考えられる。
「なるほど……」
「魔力が暴走すると興奮状態になるため、媚薬として用いられたのではないかと」
「……なるほど」
「ええと、クリステア嬢。その、君は遅れて効果が出たようなことを言っていたが、その年で媚薬なんてものを服用するのは、その、まだ早いと思うがね?」
エムデン先生がゴホン、と咳払いし遠慮がちに言った。
「え? ……あ、違います! そういう目的で服用したわけではなく、えっと、その、私はただ、食材としてですね!」
「「「食材⁉︎ 媚薬を⁉︎」」」
私がワタワタしながら答えると、三人が信じられないとばかりに目をひん剥いた。
「……クリステア嬢よ、おぬし、いくら何でも媚薬を食材にしようと考えるのはおかしいぞい? 何でもかんでも食べようとするのはやめなさい」
「……申し訳ございません」
マーレン師にたしなめられてしまった。
でもさー、私は前世の記憶からカカオが食材だと知ってるんだもん。
チョコが食べられるかもとなればそりゃ作るしかないでしょう。
結果は、前世のチョコからしたら雲泥の差だったけども。
「エリスフィード家のご令嬢といえばラースの……ああ、なるほど悪食令嬢……っと、失礼!」
エムデン先生が納得したようにボソリと呟いたのをマーレン師とトバイアス先生がひと睨みして止めた。
いや、うん。まあそういう反応になるよね……
言い逃れのしようもなく、私は乾いた笑いを浮かべるしかできなかった。
「とりあえずこのことはエリスフィード公爵家から王家に報告済みなのじゃな? なれば、学園長を通じて学園でも検証する必要があるぞい。ほれ、トバイアスにエムデン、学園長室に急がんか」
「わ、わかりました!」
「痛っ、杖で尻を打たないでくださいよ! すぐ向かいますって!」
マーレン師に追い立てられるようにしてトバイアス先生とエムデン先生が控え室を出ていった。
控え室には私とマーレン師だけになり、マーレン師が杖をくるっと回すと、部屋の隅にある湯沸かしの魔導具が動きだし、お湯が沸きはじめた。
「クリステア嬢、久々にお茶を入れてくれんか? あと、甘いものが食べたいのう」
私はマーレン師のおねだりに苦笑しながら「はい」と返事をして、湯沸かしの魔導具の側でインベントリから煎茶や茶道具を取り出した。
丁寧にお茶を淹れ、これまたインベントリから取り出した羊羹を数切れ小皿にのせ、マーレン師に出すと嬉しそうに手を伸ばした。
「……まったく、クリステア嬢は困った教え子じゃのう。これじゃあまだまだ心配で引退できそうもないわい」
ズズ、とお茶を啜りつつ、マーレン師が片眉を上げた。
「マーレン師……先生に引退されたら困ります。何かあったときに相談できる先生がいなくなったら大変ですもの」
「二人だけの時はマーレン師でもええぞい。なんじゃ、ニールに相談すればええじゃろ?」
「ニール先生は契約聖獣や魔獣のことなら喜んで相談に乗ってくださるでしょうけど、生徒にはほとんど関心を示しませんから……」
いやもう、本当に清々しいまでに生徒に興味ないからね、あの人。
寮監なのに、魔獣の世話とか生態を調べるとかで研究室に入り浸りとかしょっちゅうだし、いつ寮に帰ってきて寝てるのかすら不明だもん。
外出届は授業前後に提出するのが一番確実ってね……
「あやつめ……とっちめてやるからちゃんと仕事をしていないときはわしに言うんじゃぞ」
「は、はい……」
ごめん、ニール先生。
マーレン師にお仕置きされるかもだけど、仕事してないならしかたないよね!
「ふむ。美味い茶と菓子を馳走になったの。クリステア嬢は今日の授業はもうないじゃろうから寮に戻りなさい」
「はい」
「ああ、それから媚薬の件はあまり外で話すもんじゃないぞい。年若い令嬢が口にする内容としては、はしたないってやつじゃぞ?」
「は、はい!」
それもそうだ。
マリエルちゃん相手だから油断してたけど、普通に考えたら醜聞ものか。
いやー、失敗、失敗。
でもまあ、今は媚薬のイメージが強いカカオだけど、上手くいけばお菓子や魔力増幅薬として浸透するかもだし。
マリエルちゃんに相談しつつ、開発頑張ろうかな?
そんなことを考えながら、特別寮に戻る私なのだった。
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マーレン師が顎ひげを扱きながら私に尋ねた。
「ええと……どのことでしょう?」
媚薬のことなのは間違いないけれど、聞き咎めたポイントがどこなのかによっては答えが変わるわよね。
「しらばくれるのではない。クリステア嬢。君は……その、媚薬が魔力を増幅させる効果があると言っていただろう」
あ、そっちね。
「ええ、まあ……偶然知ったのです」
私はカルド殿下のことはできる限りぼかしつつ、偶然手に入れたカカオが媚薬の材料であったこと、それを使ってお菓子を作ったら味見の際に魔力が増加してのぼせた料理人がいたことなどを報告した。
しかし私は元々内包している魔力量からすると増加したと感じたのは微々たるもので、特に影響がなかったとその時は思ったけれど、今日の魔法薬の調合のときは明らかに普段より魔力が多く注がれてしまった。
だから、もしかしたら私には耐性があって、遅れて効果が出たのか、もしくは媚薬そのものに僅かながらでも持続性があるのではないかと思ったのだ。
そうじゃない場合に考えられるとしたら、媚薬の効果により魔力をコントロールする力が緩んで、魔力が多く注がれてしまったのではないかという可能性だ。
その場合、魔力量が少ない料理人たちは魔力がコントロールできずに溢れてしまったことでのぼせてしまったのではと考えられる。
「なるほど……」
「魔力が暴走すると興奮状態になるため、媚薬として用いられたのではないかと」
「……なるほど」
「ええと、クリステア嬢。その、君は遅れて効果が出たようなことを言っていたが、その年で媚薬なんてものを服用するのは、その、まだ早いと思うがね?」
エムデン先生がゴホン、と咳払いし遠慮がちに言った。
「え? ……あ、違います! そういう目的で服用したわけではなく、えっと、その、私はただ、食材としてですね!」
「「「食材⁉︎ 媚薬を⁉︎」」」
私がワタワタしながら答えると、三人が信じられないとばかりに目をひん剥いた。
「……クリステア嬢よ、おぬし、いくら何でも媚薬を食材にしようと考えるのはおかしいぞい? 何でもかんでも食べようとするのはやめなさい」
「……申し訳ございません」
マーレン師にたしなめられてしまった。
でもさー、私は前世の記憶からカカオが食材だと知ってるんだもん。
チョコが食べられるかもとなればそりゃ作るしかないでしょう。
結果は、前世のチョコからしたら雲泥の差だったけども。
「エリスフィード家のご令嬢といえばラースの……ああ、なるほど悪食令嬢……っと、失礼!」
エムデン先生が納得したようにボソリと呟いたのをマーレン師とトバイアス先生がひと睨みして止めた。
いや、うん。まあそういう反応になるよね……
言い逃れのしようもなく、私は乾いた笑いを浮かべるしかできなかった。
「とりあえずこのことはエリスフィード公爵家から王家に報告済みなのじゃな? なれば、学園長を通じて学園でも検証する必要があるぞい。ほれ、トバイアスにエムデン、学園長室に急がんか」
「わ、わかりました!」
「痛っ、杖で尻を打たないでくださいよ! すぐ向かいますって!」
マーレン師に追い立てられるようにしてトバイアス先生とエムデン先生が控え室を出ていった。
控え室には私とマーレン師だけになり、マーレン師が杖をくるっと回すと、部屋の隅にある湯沸かしの魔導具が動きだし、お湯が沸きはじめた。
「クリステア嬢、久々にお茶を入れてくれんか? あと、甘いものが食べたいのう」
私はマーレン師のおねだりに苦笑しながら「はい」と返事をして、湯沸かしの魔導具の側でインベントリから煎茶や茶道具を取り出した。
丁寧にお茶を淹れ、これまたインベントリから取り出した羊羹を数切れ小皿にのせ、マーレン師に出すと嬉しそうに手を伸ばした。
「……まったく、クリステア嬢は困った教え子じゃのう。これじゃあまだまだ心配で引退できそうもないわい」
ズズ、とお茶を啜りつつ、マーレン師が片眉を上げた。
「マーレン師……先生に引退されたら困ります。何かあったときに相談できる先生がいなくなったら大変ですもの」
「二人だけの時はマーレン師でもええぞい。なんじゃ、ニールに相談すればええじゃろ?」
「ニール先生は契約聖獣や魔獣のことなら喜んで相談に乗ってくださるでしょうけど、生徒にはほとんど関心を示しませんから……」
いやもう、本当に清々しいまでに生徒に興味ないからね、あの人。
寮監なのに、魔獣の世話とか生態を調べるとかで研究室に入り浸りとかしょっちゅうだし、いつ寮に帰ってきて寝てるのかすら不明だもん。
外出届は授業前後に提出するのが一番確実ってね……
「あやつめ……とっちめてやるからちゃんと仕事をしていないときはわしに言うんじゃぞ」
「は、はい……」
ごめん、ニール先生。
マーレン師にお仕置きされるかもだけど、仕事してないならしかたないよね!
「ふむ。美味い茶と菓子を馳走になったの。クリステア嬢は今日の授業はもうないじゃろうから寮に戻りなさい」
「はい」
「ああ、それから媚薬の件はあまり外で話すもんじゃないぞい。年若い令嬢が口にする内容としては、はしたないってやつじゃぞ?」
「は、はい!」
それもそうだ。
マリエルちゃん相手だから油断してたけど、普通に考えたら醜聞ものか。
いやー、失敗、失敗。
でもまあ、今は媚薬のイメージが強いカカオだけど、上手くいけばお菓子や魔力増幅薬として浸透するかもだし。
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