転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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めが……それ以上はいけない。

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セイの反応から、これは需要があると判断した私とマリエルちゃんはいつもお馴染みのカフェにあっさり&スタミナメニューを売り込むことにした。

「クリステア様! ちょうどメニュー開発についてご相談したいと思っていたところなのですよ! さすがは食の女神! 我らの願いなどとうの昔に読まれていらっしゃいましたか……!」

カフェの料理長は私を崇めるかのように跪いた。

……いや料理長の願いとか知らないし、何なの? 食の女神って⁉︎

料理長は私たちがお店に入るなり、お偉いさん向けの個室に押し込んできた。

話が長くなりそうだと判断した私は、ひとまずこちらの話を聞いてほしいと新メニューの提案をしようとしたところこれである。

「と、とりあえず不衛生ですから跪くのはやめてください。料理人なら衛生面に気を配ってください」

「あ、はい」

私はあたふたと立ち上がった料理長の全身に念のためクリア魔法をかけた。

「おお……コックコートが真っ白に⁉︎」

除菌ついでに漂白効果もかけておいたからね。

「クリア魔法の効果の一つだから気にしないで。それより新メニューのことなのだけれど、今牛丼にスパイスを加えて味変して楽しむ人もいて、ますます繁盛しているのではないの?」

「はは……そうなのですよ。エリスフィード公爵領で流行り始めたスパイスを牛丼に振りかけると一杯で色々と楽しめると評判が良いです。私どももそれならばと数種類のスパイスを小瓶に詰め替え、追加オプションとしてメニューに加えたところ人気となりました」

おお……味変オプションをつけるとはやるじゃない。

「ですが……ここのところ暑さが厳しくなってから元々食の細い生徒たちは牛丼を食べるのもつらくなってきたそうで、もう少しさっぱりしながらも精がつくメニューがほしいとの要望が増えてきたのです」

あー、やっぱりセイみたいにバテ気味でこってりしたのが食べられなくなってまいってる生徒がいたのね。

で、料理長がどうしようかと思っていたところに私がやってきた、と。
いやー、グッドタイミングですね!

「食の女神様、クリステア様! どうか私めに新たなメニューをお授けくださいーっ!」
「ちょ、跪くの禁止! それから食の女神とか意味わからないからそれも禁止!」

「ええ……⁉︎ それじゃあ、なんとお呼びすれば⁉︎」

再び跪こうとする料理長を慌てて制止し、女神呼びを禁止すると、困惑気味な返事が返ってきた。

いやそれこそこっちが困惑してるんですけど……?

「普通にクリステア嬢呼びでよいのでは? そ、そうだわ、食の女神なんて大層な呼び方をされたら、私、足が遠のいてしまうかも……」

「今この時をもって女神様呼びは当店で禁止としますッ! おい! 店員全てに伝令だッ!」

料理長がそう言い放つと、出入り口に控えていた給仕が「ハッ! 直ちに!」と答えて走り……いや、競歩並みの速さで部屋を出ていった。走らないであのスピード……給仕の鑑かな⁉︎

……ていうか、店員全員が女神呼びしてたの⁉︎
もしかして、新たな宗教が作られるところだった⁉︎
料理長、さては貴方が教祖はんにんか⁉︎
絶対にやめてくださいね⁉︎

「……失礼いたしました。そ、それで新メニューとは……?」

ごほん、と咳払いをして料理長がメニューについて尋ねてきたので、先日作ったメニューをざっくりと説明した。
梅干しについてはバステア商会にしか在庫がないから、入れないレシピだけどね。

「……というわけで、うどんに関しては難しいかもしれないけれど、麺なしでも具はパンにはさんだりごはんにかけたりすればよいし、スープはセットにすれば成立するメニューだからそれでもいいと思うわ」

「……」

「それから、この刻み野菜ダレ(だしもどき)は、小鉢で提供して単体で食べたり牛丼に混ぜてもさっぱりと食べられると思うわ」

だしもどきに関しては、山芋多めであとは夏野菜を中心にさっぱり感のあるものに調整した。
オクラは王都周辺で栽培しているかわからないからねぇ。

山芋に関しては、見つけ方や掘り出し方などを詳細に書いたメモを渡して、生徒に依頼して採取の森で探してもらうのが良いと思うと進言しておく。

採取を得意とする生徒たちの良いアルバイトになりそうだからね。

「……」

「……料理長?」

「クリステア様ッ!」

「ひゃっ⁉︎」

さっきから一言も発しないので顔を覗き込むとバッと勢いよく顔を上げた。
び、びっくりしたぁ……

「素晴らしい、素晴らしいですよ! どれもあっさりさっぱりとしていながらも、しっかり食べられて物足りなさなど微塵も感じられない。それに、このタレは牛丼の新たな追加オプションとして売れますよ、絶対!」

拳を握り締め、力説する料理長に唖然としつつも、しっかりと手応えがあったことに安心した。

「そう、よかったわ。大まかなレシピは書いてきたから、タレについては牛丼にも合うよう上手く調整してもらえると助かるわ」

「おまかせください! めが……じゃない、クリステア様!」

……めが、で止めたらメガクリステアとかなんだか巨大で強そうな何かになりそうだからやめてください。

「……それではよしなに頼みますね。報酬については売れ行きを見てから考えさせてくださる? 暴利を貪るつもりはないから最低限に止めるつもりよ」

「いえそんな! このような功績に対してそういうわけには……」

「いいのよ。少しでも皆様が美味しく食事ができればそれが一番だから。それじゃ」

「めが……クリステア様……ッ!」

だからそれはやめろと。

……うわあ、料理長の目がうるうるしてるぅ!
何だかさらに崇拝度が上がってませんかね⁉︎
こわっ!

私はせめてお食事をと引き留める料理長を置いてそそくさと立ち去ったのだった。

後日、新メニューが登場してますますカフェが繁盛したのは言うまでもなく。

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来週は所用のためお休みさせていただきます。
次回は6/29(日)更新となりますのでよろしくお願いいたします。
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