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32、殿下のお叱り?
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?!?!?
一体、何が起きたの?!
王太子殿下の部屋に呼ばれるなんて……!!
どうしよう、部屋に呼び出してお説教するほどお怒りなのだろうか。
行きたくないよ~!
しかし、王太子殿下の命令に背くなんてできるはずもない。
私は急いで水場に花瓶を置いてから、言われるがまま殿下の部屋まで急いだ。
ノックをすると、殿下の綺麗な声音が響く。
「どうぞ」
恐る恐る部屋の中を窺うと、殿下はソファに腰掛けてゆったりとくつろいでいた。
その様子を見て少しホッとする。
よかった、怒っている雰囲気はない。
「失礼いたします」
挨拶をして一歩足を踏み出した瞬間、ハッとする。
グラスを片手に優雅な様子の殿下を見て、ある考えが掠めた。
突然、こんな夜更けにメイドを部屋に招き入れて、やけに色っぽい雰囲気を醸し出している男性が一人。
これってまさか、一晩相手をしろということなんじゃ……?!
だって、あれってお酒よね。
あのグラスに入った綺麗な琥珀色はきっと蒸留酒だわ!
お酒を飲んでいるところへこんな時間に部屋へ呼びつけるということはやっぱり……!!
私は一体どうしたらいいの?!
殿下は焦る私の目線に気づき、慌てて言った。
「これは酔い覚ましに冷やした紅茶を飲んでいたのさ」
あ…………なるほど。
そういえば旦那様にお酒をぐいぐい勧められていたものね。
旦那様、殿下のために珍しいお酒を張り切って出していらしたっけ。
「大丈夫だよ。そこに護衛もいるから安心して」
そう言った殿下の目線の先には、立派な騎士様が立っていた。
えっ?!全然気づかなかった。
気配も消せるなんて、殿下にお付きになる騎士様ともなるとすごいのね。
二人っきりではないということにも、殿下の誠実そうな対応にも心からホッとする。
「さあ、立っていないでそこへ座ってくれ」
「はい」
一瞬迷うが、勧められるまま向かいのソファに腰を下ろした。
殿下は満足そうに頷いたあと、矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。
「君はアリシアという名だったね」
「はい」
「ここはもう長いの?」
「いえ、3ヶ月前から働いております」
「……ふうん。その前はどこに?」
――――あまり答えたくはない。
が、この国の王族に嘘なんてつけない。
まあ別に言ったところでどうってことないよね。
これほど沢山いる一メイドのことなんて知らないだろうし。
一瞬迷ったが、そう思い直して素直に答えた。
「ラバドゥーン公爵家におりました」
私がそう言うと、ひと呼吸おいた後、殿下はニカッと笑った。
「そうか、そうか」
なんだろう?このご機嫌の良さは。
「あの、」
不思議に思い口を開きかけると、殿下は被せるようにして言う。
「この土地で不自由はないかい?」
「あ、はい。旦那様も奥様もとても良くしてくださいます」
「仕事仲間たちは?」
「みんなのんびりした良い人たちで楽しく過ごしております」
「そうか」
殿下はその後も、ここでの生活のことや私のあらゆることに質問をして楽しそうに笑っていた。
しばらくそんなやりとりがあってから戻って良いと言われ、私は殿下の部屋を後にした。
うーん。これは一体何だったんだろう?
不思議に思いながら部屋に戻ると、待っていましたとばかりにポピーが駆け寄ってくる。
「アリシア、大丈夫だった?」
「うん。怒られたりしなかったよ」
「じゃあ、どんな話しだったの?」
「うーん。ここに来てどれくらいかとか。どんな生活をしてるのかとか……」
答えるとポピーは不思議そうな顔をしている。
そうだよね。
私も自分で言ってて不思議だもの。
「そうなんだ……。あ! じゃあもしかして、殿下はアリシアのことを見初めたとか?!」
「なっ! そんなことあるわけが無いでしょう!」
「え~そうかな~。アリシアならそんなに不思議なことでもなさそうだけど……」
ぶつぶつと呟くポピーを促して私は寝支度を整えることにした。
ポピーったら、私がこの前お気に入りの恋愛小説を貸して以来、まんまとハマってしまったものだからそんなことを言い出してるのね。
確かこの前貸したのは身分差を乗り越えて結ばれるシンデレラストーリーだったような。
「さ、明日も早いからもう寝よう」
「はあい」
ちょっと不貞腐れたように言うポピーが可愛くて思わず笑みが溢れてしまう。
妹がいたらこんな感じなのかな。
こそばゆいような、ちょっと嬉しいような気持ちで眠りについた。
◇◇◇
あれ以来、殿下から何を言われることもなかった。
ポピーは恋愛小説のパターンをいくつか持ち出して色々な説を唱えていたけれど、やはりというか何事もなく日々は過ぎて行った。
今日はいよいよ殿下が王都へお戻りになる日だ。
お迎えのときと同じように、入り口でお見送りをするために並ぶ。
殿下御一行様が通り過ぎるのを頭を下げて見送っている私の前でピタッと足音が止んだ。
ん?何か視線を感じるような……。
ふと顔を上げると殿下がこちらを見つめていた。
「アリシア嬢とはまた会いそうだね」
そう言ってニッコリ笑った。
私は慌ててぺこりと頭を下げる。
殿下はまたねと言って去って行った。
今のは一体、どういう意味だろう?
また視察に来るってことなのかな?
一体、何が起きたの?!
王太子殿下の部屋に呼ばれるなんて……!!
どうしよう、部屋に呼び出してお説教するほどお怒りなのだろうか。
行きたくないよ~!
しかし、王太子殿下の命令に背くなんてできるはずもない。
私は急いで水場に花瓶を置いてから、言われるがまま殿下の部屋まで急いだ。
ノックをすると、殿下の綺麗な声音が響く。
「どうぞ」
恐る恐る部屋の中を窺うと、殿下はソファに腰掛けてゆったりとくつろいでいた。
その様子を見て少しホッとする。
よかった、怒っている雰囲気はない。
「失礼いたします」
挨拶をして一歩足を踏み出した瞬間、ハッとする。
グラスを片手に優雅な様子の殿下を見て、ある考えが掠めた。
突然、こんな夜更けにメイドを部屋に招き入れて、やけに色っぽい雰囲気を醸し出している男性が一人。
これってまさか、一晩相手をしろということなんじゃ……?!
だって、あれってお酒よね。
あのグラスに入った綺麗な琥珀色はきっと蒸留酒だわ!
お酒を飲んでいるところへこんな時間に部屋へ呼びつけるということはやっぱり……!!
私は一体どうしたらいいの?!
殿下は焦る私の目線に気づき、慌てて言った。
「これは酔い覚ましに冷やした紅茶を飲んでいたのさ」
あ…………なるほど。
そういえば旦那様にお酒をぐいぐい勧められていたものね。
旦那様、殿下のために珍しいお酒を張り切って出していらしたっけ。
「大丈夫だよ。そこに護衛もいるから安心して」
そう言った殿下の目線の先には、立派な騎士様が立っていた。
えっ?!全然気づかなかった。
気配も消せるなんて、殿下にお付きになる騎士様ともなるとすごいのね。
二人っきりではないということにも、殿下の誠実そうな対応にも心からホッとする。
「さあ、立っていないでそこへ座ってくれ」
「はい」
一瞬迷うが、勧められるまま向かいのソファに腰を下ろした。
殿下は満足そうに頷いたあと、矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。
「君はアリシアという名だったね」
「はい」
「ここはもう長いの?」
「いえ、3ヶ月前から働いております」
「……ふうん。その前はどこに?」
――――あまり答えたくはない。
が、この国の王族に嘘なんてつけない。
まあ別に言ったところでどうってことないよね。
これほど沢山いる一メイドのことなんて知らないだろうし。
一瞬迷ったが、そう思い直して素直に答えた。
「ラバドゥーン公爵家におりました」
私がそう言うと、ひと呼吸おいた後、殿下はニカッと笑った。
「そうか、そうか」
なんだろう?このご機嫌の良さは。
「あの、」
不思議に思い口を開きかけると、殿下は被せるようにして言う。
「この土地で不自由はないかい?」
「あ、はい。旦那様も奥様もとても良くしてくださいます」
「仕事仲間たちは?」
「みんなのんびりした良い人たちで楽しく過ごしております」
「そうか」
殿下はその後も、ここでの生活のことや私のあらゆることに質問をして楽しそうに笑っていた。
しばらくそんなやりとりがあってから戻って良いと言われ、私は殿下の部屋を後にした。
うーん。これは一体何だったんだろう?
不思議に思いながら部屋に戻ると、待っていましたとばかりにポピーが駆け寄ってくる。
「アリシア、大丈夫だった?」
「うん。怒られたりしなかったよ」
「じゃあ、どんな話しだったの?」
「うーん。ここに来てどれくらいかとか。どんな生活をしてるのかとか……」
答えるとポピーは不思議そうな顔をしている。
そうだよね。
私も自分で言ってて不思議だもの。
「そうなんだ……。あ! じゃあもしかして、殿下はアリシアのことを見初めたとか?!」
「なっ! そんなことあるわけが無いでしょう!」
「え~そうかな~。アリシアならそんなに不思議なことでもなさそうだけど……」
ぶつぶつと呟くポピーを促して私は寝支度を整えることにした。
ポピーったら、私がこの前お気に入りの恋愛小説を貸して以来、まんまとハマってしまったものだからそんなことを言い出してるのね。
確かこの前貸したのは身分差を乗り越えて結ばれるシンデレラストーリーだったような。
「さ、明日も早いからもう寝よう」
「はあい」
ちょっと不貞腐れたように言うポピーが可愛くて思わず笑みが溢れてしまう。
妹がいたらこんな感じなのかな。
こそばゆいような、ちょっと嬉しいような気持ちで眠りについた。
◇◇◇
あれ以来、殿下から何を言われることもなかった。
ポピーは恋愛小説のパターンをいくつか持ち出して色々な説を唱えていたけれど、やはりというか何事もなく日々は過ぎて行った。
今日はいよいよ殿下が王都へお戻りになる日だ。
お迎えのときと同じように、入り口でお見送りをするために並ぶ。
殿下御一行様が通り過ぎるのを頭を下げて見送っている私の前でピタッと足音が止んだ。
ん?何か視線を感じるような……。
ふと顔を上げると殿下がこちらを見つめていた。
「アリシア嬢とはまた会いそうだね」
そう言ってニッコリ笑った。
私は慌ててぺこりと頭を下げる。
殿下はまたねと言って去って行った。
今のは一体、どういう意味だろう?
また視察に来るってことなのかな?
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